400円の優待チケット

 目の前には、大きく巻かれたソフトクリーム。そして、食えとそれを出してくるのは高崎。大学近くの“髭”に連れられ、これから始まるのは大祭実行の幹部とMBCCの代表との会議だ。


「何か、大祭実行じゃお前に話つけるときはアイス食わすみたいなルールがあるみたいだな」

「ルールっつーか、暗黙ってヤツ? いつの間にか定番化してた」

「――とまあ、郷に入っては郷に従えじゃねえけど、大祭に絡む話だからお前にアイス食わす」

「つか、今までで一番アイスのグレードが高い」


 大学祭実行委員と放送サークルMBCCは代々協力関係にある。大祭のステージをMBCCがちょっと手伝ってくれてるし、MBCCのDJブースと大祭のステージの音がケンカしないポジショニングを約束していたり。

 それは俺らが入学する前のこと。大祭のステージとMBCCの音がケンカして、互いにすげー事故になったっていう反省を踏まえた決定。それでMBCCに約束された場所というのが緑大大祭の中で最もブース売り上げの見込める通りのど真ん中。

 そこはガチでブース出展する奴なら何としてでも欲しい場所だ。さすがにそれを無条件で与えるワケにはいかないということで、その翌年からMBCCには大祭のステージを手伝ってもらうことで契約が成立しているのだ。


「大祭のステージだけどよ。いつ、どのステージに何人出せっつーのを早く出してもらいたい。こっちのタイムテーブルの都合もあるんだ」

「女装ミスコンは今んトコ大丈夫だぞ」

「そこは頼まれたって出せねえ。ウチから参加者を出してるし、現時点でブースがパツパツだ」

「で、こんないいアイス食わすからには話はまだあるんだろ」

「倉橋の言う通りだな」

「ん? 倉橋が何か言ってたか」

「大祭のことだけは飲み込みが早いって言ってたぞ」

「いーんだよ勉強なんか多少。いざとなったらお前と安部ちゃんに何とかしてもらう! そんなことより今は大祭だ」


 話の内容はアイスのグレードに比例する。こないだ倉橋がいい話を持ってきた時はパルムだったし、相川が残念な話を持ってきた時はガリガリ君だった。いや、ガリガリ君はガリガリ君で美味いとは言っとく。

 髭のソフトクリームは400円だ。大きく巻かれた物が皿の上に倒されて出てくる上に、チェリーだって乗ってる。未だかつて俺に大祭の話をする上でそんなアイスを食わしてきた奴はいない。ダッツの大台にも乗ってないのに!


「MBCCが大祭実行に念押ししたいことだ」

「――っつーと、情報棟のコンセントと発電器か」

「うわ、さすがっつーか引くわ」

「例年のことだしな」

「お前はその経験に基づく分析力をゼミにも生かせりゃ安部ちゃんも泣いて喜ぶんだろうけどな」

「ゼミの話はいーだろ今は!」


 大祭でブースを出すときは、1機500円で貸し出してる発電器を使わなければならないという規則がある。だけど、MBCCで使う電気はチャチな発電器では心許ない。そして、例の“MBCCに約束された場所”の後ろには情報棟がそびえ立っている。

 発電器をMBCCで独占されても困るし、MBCCのDJブースには特例として情報棟のコンセントから電気を引っ張ってくることを許可している。その隣に構えている食品ブースの方には500円の発電器を使ってもらっているけれども。

 いちゃもんをつけられることもちょっとはある。この件に関する責任は大祭実行の名前で今年は俺が持つことになっていて、その契約を保証しろとかそんなような話。俺の機嫌を損ねるとどうなるか。アイスのグレードが高い理由だ。


「とまあ、そんなようなことだから、頼んだぞ」

「へーへー、大祭実行の各方面に話付けときますよ。ところで高崎、カツサンド奢るから俺の個人的な話を聞いてくれ」

「っつーと、夏の課題の話か何かか」

「ちきしょーさすが高崎様ですよ!」

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