I'd like to greet!

「えー、夏合宿も終わって間もないですが、MMPにはすぐ次の行事があります」


 ――と、切り出された夏期特別サークル。だけど、場を仕切る圭斗先輩のお隣に菜月先輩の姿はない。遅刻だということでもなく(そんなことがあればサークルに激震が走っている)、これは予定された帰省。

 MMPが控えている行事は、9月23日の向島大学オープンキャンパスだ。世間の3連休の方に合わせればいいと思うんだけど、その翌週にやるんだからよくわからない。いや、別にいいんだけど。

 毎年このオープンキャンパスでMMPは公開生放送を行っているのだ。場所は学生たちが食事をしに来る時間帯の食堂だ。いつもやってる昼放送のノリだけど、番組内容はオープンキャンパス仕様になる。


「で、菜月さんからこんな物を受け取っています」

「その紙は一体」

「ペア決めのあみだくじだね。菜月さんと組むことになったミキサーは後で挨拶を入れるように」


 折られて隠された側にアナウンサーの名前が書かれていて、後はミキサーがどこを引くかというペア決めのクジ。菜月先輩に連絡を入れることが義務だなんて喜ばしい仕事! ここは俺が菜月先輩とペアを組むんだ!

 とは言え、それは完全に運に委ねられること。俺の力でどうこうできることじゃない。日頃の行いを信じよう。ミキサー陣が適当に記名していって、仕上げにアナウンサー陣が1本ずつ横線を増やしていく。


「でもさー圭斗、どうして菜月がペア決め前に帰ることを許したの?」

「ん、僕たち男アナ3人に無く菜月さんにある物……それが計画性のある番組制作能力だね。菜月さんなら誰と組んでもある程度マメに連絡を取り合ってそれらしい番組にしてくれるという信頼だね。三井、何か異論があるかな」

「ありませーん」

「やァー、ぐうの音も出ないスわァー」

「非常に納得ですね」

「お前ら誰だと思ってる、菜月先輩だぞ!」

「そーです神ですよッ!」


 さて、全員の名前が記名されたところでクジの結果発表の時間だ。そりゃ誰と組みたいかって言ったら俺としては菜月先輩一択なんだけども。俺のスタイルだと菜月先輩が一番ミキサーとして相性がいいし、圭斗先輩だとお声で死ぬし、ヒロは論外だし。


「えっと、奈々は……あ、僕だね。よろしく」

「圭斗先輩よろしくお願いしますッ!」

「神崎はー……三井」

「え~、こーたー?」

「何ですか、私と組むのがイヤなんですか?」

「ちょっ、そんなことは言ってないじゃない怖いよこーた!」


 さっそく三井先輩がこーたにガミガミと怒鳴られている。案外ここは相性が悪くないのかもしれないと本人たち以外の全員が思ったとか思わないとか。さて、残るアナは菜月先輩とヒロ。そしてミキは俺と律。天国と地獄じゃないか…!


「りっちゃんはー、てーってってー」

「やァー、たまにはラクしたいスねェー。ラク出来るアナさんつったらMMPにゃ菜月先輩しかいないスわァー」

「お前なあ、そんな邪心まみれで菜月先輩と組めると思うなんて意味が分からない」

「や、自分は野坂みたいな奴こそヒロだの圭斗先輩だのっつー緩すぎるミキサー泣かせのアナに振り回されて己の置かれていた状況がどンだけ贅沢だったかを知るべきだと思ってンで?」

「おっ。りっちゃんおめでとう。菜月さんへの挨拶を頼んだよ」

「へーい、よろこンでー」

「番組内でのラブ&ピースの度合いには気をつけるように」


 ナ、ナンダッテー!? つまりこの時点で俺はヒロと組むことが確定してしまったというワケで! うわあ、マジかよ! 夏合宿で何が磨かれたのかもさっぱりわからないヒロと、どのようにやれと言うのか!


「ノサカが失礼なコト考えとるんだけはわかるわ」

「な、何はともあれちゃんとやるぞ、ヒロ」

「ゆーてもボク菜月先輩に鍛えられとるからね、どーとでもなるよ」

「なる気が全くしない! 頼むからネタ帳をちゃんと書いてくれ。曲も事前に用意して欲しいし気紛れでふらふらとはするな、それから」

「圭斗先輩、ボクりっちゃんがいーです。ノサカ細かいからヤーです」

「ん、残念ながら厳正な抽選の結果だからね」

「潔癖ヘンクツサギのノサカとやれるアナさんなんかこの世に菜月先輩しかおらんですよ」

「むしろそれでいい! さあ律、ヒロもこう言ってる!」

「あー、あー、聞こえないー。自分は何も聞こえないー」

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