ピンポイントザブーン

「はよーございまーす……」

「うわっ、ハマちゃんどうしたの」


 ぴたん、ぴたんと水音を立ててサークル室にやってきたのはハマちゃん先輩。全身ずぶ濡れで、どこをどう歩いて来たらそんなことになるのかなって。

 最近は雨が降ったり止んだりが忙しい。少し目を離したら天気なんてすぐに変わってる。大学構内も今は晴れているけど、ほんの数分前までは激しく雨が降りつけていた。


「今日雨マジパなくないすか。駐車場から入り口まで走っただけでこうっすよ」

「見ての通り今は晴れてるね。ハマちゃん、もしかして一瞬降ったのに当たった?」

「みたいっすね」

「とにかく、それだけ濡れてたら風邪ひくし、服絞って来なよ」

「タオルありますよ」

「サンキューあやめ。じゃ、ちょっと行ってきまーす」


 ハマちゃん先輩が立っていた場所には水たまりが残っている。誰かがこれを踏んで転んでもいけないし、さっそく松江さんとサークル室の掃除をすることに。

 濡れた場所を乾いたぞうきんで拭きつつ、ついでにほうきで床を履く。濡れた靴で歩くと靴底の汚れがそのまま足跡として床に残る。それらもしっかり拭き取って。


「水も滴るいい男が戻ったっす!」

「いい男はどこですか?」

「あやめお前、目の前にいるだろ! 水も滴るパねえ俺が!」

「ハマちゃん、水が滴るようならもう1回タオルで拭いて来なよ」

「えーとヒデさん一種のジョークっす」

「ハマちゃん先輩がいい男かはともかく、前髪降りてるのは新鮮ですね」

「あー、ヘアバンドも濡れちまったしな」


 いつもはヘアバンドでデコ上げにしているハマちゃん先輩の前髪が降りている。濡れてるからいつものオールバックにはしやすそうだと思うけど、掻き上げても掻き上げても降りてきてしまうそうで。

 やっぱり、雨が降っていたのはハマちゃん先輩が車から降りたくらいの瞬間的な現象だったようで、今は雨が降っていた風にも見えない。窓際には脱げる範囲で脱いだ服たちが干してある。


「ハマちゃん、車に傘積んでないの?」

「まちまちっす。今日は積んでない方の日だったんすよ。で、走ればイケるかと思ったらこうっすよ」

「ハマちゃん先輩は濡れると危ない機械なんかは持ってないですか?」

「お前らみたく普段からカメラ持ち歩いてるとかじゃねーしな」

「あ、余談ですけど私のカメラ一応防水仕様です」

「ヒデさんは傘積んでそうっすよね、偏見っすけど」

「そうだね。俺は走るのも速くないからちゃんと支度しなきゃって。あやめは?」

「なるべく荷物増やしたくないですし両手空けたいんですけど、一応折り畳みは持ってます。本降りの日はちゃんとしたのを持って」


 やっぱり、こんな季節だから天気予報では晴れだって言っててもいつどこでどんな雨が降るかはわからないから備えは必要なんだなあという結論に達した。ハマちゃん先輩は動きも俊敏だからイケそうだって思えてしまったんだと思う。


「ところであやめ、かんなは? 最近見ないけど」

「そう言えば松江さんと久し振りに会いましたよね」

「あ、ゴメン」

「いえ、ハマちゃん先輩がいるんで大丈夫ですけど。で、かんなは最近彼氏さんばっかりです。バイト中も絶対自分が結婚式を挙げるならって考えてるんですよ」

「楽しいときなんだろうけどね」


 かんながバイト中にもふわふわしたりニヤニヤしたりしてるから、それを越谷さんが現実に引き戻してっていうのの繰り返し。仕事は仕事だぞって。かんなは楽しいときなんだろうけどね。ちょっと私にはまだ恋愛の楽しさがわからない。


「そーいやあやめ、お前夏合宿の事とか班長から聞いてっか?」

「はい。顔合わせをしました」

「えっ、あやめ、インターフェイスに出るの?」

「面白そうだと思って。ダメでしたか?」

「ううん、いいんだけど。思い切ったね」

「ヒデさん、ここぞのときのあやめってマジパないんすよ」

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