オールスターの3連投

公式学年+2年


++++


 佐藤ゼミが実質的に占拠している緑ヶ丘大学8号館地下1階スタジオ。その防音教室はテストやイベントが近くなると昼も夜もない世界になる。今も2年生や俺たち3年生が集まってばたばたと忙しなく動いている。

 次の週末に、緑ヶ丘大学のオープンキャンパスが控えているのだ。佐藤ゼミではオープンキャンパスの全体インフォメーションという業務を請け負っている。何時にどこの教室で何の体験授業があります。などという案内が主な仕事。

 インフォメーション放送をやるのは主に3年生だけど、高校生が体験講義に行っている時間帯を繋ぐのが2年生になる。体験講義は1コマ50分。その間、2年生が簡単な番組をやることになる。俺たちも去年やった。


「いやあ、2年生は若い。元気じゃん?」

「鵠沼、発言がおっさんだし」

「そりゃ22とハタチじゃ実際違うじゃんな」

「はーやだやだ、こんな時ばっか年長者ぶって」


 きゃいきゃいと盛り上がる2年生を、3年生はどこか遠いものとして見ていた。このクソ暑いのに元気だなあという印象がとても強い。例によって先生から君たちは3日間フル回転だと指名された俺たち4人は今から体力の温存作戦を立てるのに必死。


「まあでも、3日間フル回転だと特別にお高いご飯に連れてってもらえたそうだし、今年もあるのかわかんないけどそれを目指すのもいいかもね」

「いいご飯ねー。アタシご飯よりGoogleのカードのがいいし」

「お前が言うといちいちリアルじゃんな」


 正直、インフォメーション放送なんて同じようなことを繰り返しアナウンスするだけだし、時々その状況に合わせた指示が飛んでくることもあるけど、基本同じことの繰り返し。特別な話し合いを必要とする仕事じゃない。

 問題は、授業のしばらくない昼休みなどのフリータイムだということは去年イヤになるほど味わった。まあ、例によって俺は今年も昼休みのフリータイムにミキサー担当としてぶち込まれてますよねー。


「高木先輩!」

「ああ、シノ。どうしたの」

「なんかオーキャンを乗り切るコツとかありますか!」

「シノはどれだけ担当するの」

「俺は班の番組だけっす!」

「それだったら普通にやってたら大丈夫だよ。でも、シノは急に機材関係の仕事が飛び込んでくるかもしれないから、隙を見つけて休んだりご飯を食べといた方がいい」

「あざっす!」


 2年生は元気だなあと、強く思う。シノはいいなあとも。上に俺がいるからいくらMBCCのミキサーでもシノがめちゃくちゃな仕事を投げられることもないだろうし。経験と言えば聞こえはいいけど、やっぱり先生の言うことはムチャにも程がある。


「高木、そういや今年も千葉ちゃん召集されてんだって?」

「何か、果林先輩が言うにはせっかく俺がミキサーなのに2・3年に腕の立つアナウンサーがいなくて持ち腐れだとかナントカって。肝心なところで果林先輩頼みだから他の人の経験が積まれないんじゃないかなとも思うけどね」

「ヒゲさんの見栄じゃんな、高木」

「今年はカメラに音声入んない程度に冷やかすし」

「安曇野さん勘弁して」


 昼休みのフリータイムは去年と同じく果林先輩と。果林先輩も4年生なのにこのためだけに召集されて、せっかく連休は稼ぎ時なのにーとちょっと不満気だった。これが普通の反応だよなあ、俺はバイトしてないからともかく。


「何がアレって、大学からの謝礼が安すぎることだよね」

「1日で図書カード500円分な」

「せめて2000円は欲しいよね」

「現金じゃないならGoogleのカードでいいし」

「安曇野さんゲームに課金する気マンマンだね」

「連休が終わったらすーぐテスト期間じゃんな。どうする。俺は順調に単位取ってるけど、お前ら」

「あ、えーと。聞かなかったことに」

「なるようになるし!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る