pleasing news

「野坂ー、朗報だよー!」

「三井先輩。どうされたんですか?」

「聞いて、初心者講習会のね、講師が決まったんだよ!」

「ちょっ、ええっ!?」


 いや、ちょっと待て。俺たちより先に三井先輩が初心者講習会の話を持ち出してくる意味がわからない。講師に関しては全体講習が高崎先輩、アナ講習はヒビキ先輩、ミキ講習は伊東先輩にお願いしているじゃないか。

 もしこのお三方がいい返事をしてくださった場合の連絡は対策委員に一番に来ることになっている。候補の先輩方が対策委員をすっ飛ばして三井先輩とコンタクトを取るとも思えないし、三井先輩は一体何を言っているんだ。意味が分からない。


「俺が直々にプロのラジオパーソナリティーの人に話を付けてさ、講習をやってもらえることになったんだよー、すごいでしょ? 誉めて誉めて」

「突然そんなことを言われても困ります!」

「せっかく1年生の子に見てもらうんだもん、プロにやってもらうのが一番いいって。結構無理言ってやってもらうことになったし、対策委員的にもそれでいいよね?」

「いえ、全然よくありません」

「えっ、どうして? プロだよ?」


 三井先輩の恐ろしいところはこの件に関する自分の行動が100%正しいと思っていることだろう。もちろん俺たち対策委員は三井先輩に動いてくれなどと頼んだことはないし、プロの人に講習をお願いしたいなどと話したこともない。

 それをいきなりプロのラジオパーソナリティーだなんだと言われても、講習内容の打ち合わせや謝礼のこともある。それに、結構無理を言ったというのが恐ろしい。俺たちが何者なのか、それもちゃんと伝わっているだろうか。


「それで、そのプロのラジオパーソナリティーとはどこの何と云う方ですか?」

「それは当日までの秘密~。来てみてビックリするよ、こんなすごい人に教えてもらえるんだって」

「ちょっと待ってください。何かの間違いでその方に講習をお願いするにしても、秘密だなんて。俺たちはどうやって打ち合わせればいいんですか!?」

「え~、その辺は俺が伝えるから大丈夫だよ」

「全く大丈夫ではありません! 三井先輩、今すぐにその話をなかったことにしてください!」

「せっかくお願いしたのにやっぱりいいです~なんて失礼なこと、社会に出たら通用しないよ野坂。もうお願いしちゃったし、打ち合わせは僕がやるから任せといて」

「いえ、そのプロの方と直接顔を合わせて話を出来ない方がよほど失礼ではありませんか! それに講師は3年生の先輩方にもう声がけをしている段階で――」

「えっ、3年って言うけど講師やれそうな人なんて誰かいる? その割に僕に声がかかってないし」


 ああもう、ああ言えばこう返ってくる! 何をどう反論しても、三井先輩は対策委員的に何がダメなのかわかっていないのか、疑う余地も何もないきょとんした顔でこっちの言うことを全く聞いてくれない。

 アナウンサーの講師候補を考えていた時点で三井先輩の名前が候補に挙がらなかったという事実は伏せるにしても、3年生で講師をやれそうな先輩は数え上げればたくさんいらっしゃる。三井先輩こそ何を言うのだ。


「とにかく、もう決まったことだから。野坂たちは僕に任せてくれれば大丈夫」

「ですから、全然大丈夫ではないと何度言えば」

「僕が野坂に広い世界を見せてあげるからさ。議長はもっと大事なことに集中しないと」

「いえ、講師の方に直接今のインターフェイスのあり方や対策委員の考えを伝えて講習内容を詰め合わせることが一番大切な仕事ではないかと。その仕事を奪われた挙句、講師がどこの誰かも伝えていただけない以上、その話を信用することは出来ません」

「軽いサプライズ要素じゃない」

「そのような要素、全く要りません。三井先輩、その方の連絡先をいただくことは出来ませんか?」

「何をする気?」

「お断りの連絡を差し上げます」

「なら尚更教えられないよ。とにかく、そういうことだから楽しみにしてて~。じゃ、これから打ち合わせだから~」


 それを言うだけ言って三井先輩は去っていった。思ったままに言った結果、三井先輩が余計意固地になってしまったような気がする。明らかに失敗した。これから対策委員と初心者講習会はどうなる。脇道にそれた戦いが始まってしまった。

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