鎌と旗

「失礼します」

「……今月もお前が来たのか、宇部」

「すみません萩さん。部長をお連れしますか」

「いや、いい。放送部は部長よりもお前の方が話が通じる。ただし、出す物は出してもらうからな」


 忙しい時は回数も増えるのだけど、毎月1回の頻度で文化会の部長会が開かれている。星ヶ丘大学にある文化部の部長と、それを束ねる文化会役員が出席しての会議。出席するのは基本的に各部活の部長なのだけど、放送部は事情が違った。

 放送部の部長、日高隼人が部長会に出たのは去年11月に代替わりをして最初の1回だけ。それ以降、部長会へは監査の私、宇部恵美が代理で出席している。正当な理由があるでもない代理出席。その度に私は始末書を書き続けている。

 部の事情を理解している文化会の監査が、4年生の萩裕貴さん。実は放送部の前監査で、去年の部長に代わって部長会に代理出席をし続けてきた結果このポストに上り詰めてしまったのだ。本来役員は部長会に出ていた部長がなる物なのだけど。

 他の部活の部長たちからも放送部の部長が私だと思われるようになって久しい。それだけ表に顔を出すということの意味は大きいのだ。実際に私が部長だったら部長会に出ることにも文句はないし、そうだったら放送部もきっと。

 部長会の活動は、各部活の活動報告や文化会からの連絡事項を伝えるのが主。今は春だから新入生勧誘に関する連絡もまだ続いている。それを部に持ち帰って部長に報告したところで聞き入れてはもらえないこともわかっている。どうしたものかしら。


「宇部、少しいいか」

「萩さん」


 会議が終わって、萩さんに呼び止められる。人が引き始めて、少しずつ音のなくなっていく空間で何の話だろうか。ただ、いい話ではなさそうな予感だけはある。活動報告のときに平静を保てていなかったことは、萩さんにはお見通しだろうから。


「ファンタジックフェスタに出ると言ったな」

「はい」

「それは、インターフェイスの活動とはまた別に、星ヶ丘の放送部としてか」

「はい」

「事情を聞かせてもらおうか」

「朝霞班がインターフェイスでファンタジックフェスタに出ると報告がありました。それを聞いた部長が、急遽部でファンフェスにステージで出ると強硬に」

「止めなかったのか」

「それを聞いたのがすでに穴を開けられなくなってからのことでした。準備期間がないことに反発もありました。ですが、やらない班に夏の枠は与えないと部長が。私はインターフェイスで出る朝霞班を抜いたタイムテーブルを組んで出しました」

「朝霞はどうした」

「ステージの話が伝わっていなかったことに激高して、どちらもやると。そんなことは物理的に不可能ですし、説得しても暴走を止められないと判断してファンフェスが終わるまで謹慎処分にしました」


 今日に至るまでのことを包み隠さず萩さんに伝える。隠したところで見透かされるし、暴かれる。それならば最初から真実のみを伝えた方がいい。私が間違っている、至らない点も多々あるのはわかっているけれど、そうしなければならない。


「宇部。監査が最も目を光らせなければならないのはどこだ」

「……部長です」

「ああ、そうだ。起こったことは仕方ない。が、お前が止めなければならなかったのは日高だ。朝霞だけでなく部内全体から不満が噴出しているのだろう。朝霞1人を目くらましにするにも限界がある。こんなことをしていたら、部が崩壊するぞ。それとも、お前は崩壊させた部の上で旗を翳すか? 誰もついて来ないぞ。お前も部を崩壊させた1人なのだから」


 身に巣食う毒をも受け入れ、それでいてすべてを掌握してきた萩さんという人だ。そのスケールの大きさには到底届きそうにない。私は放送部をどうしたいのか。日高をどう扱うべきなのか。これからのことも考えていかないといけないのだ。


「――とは言え、部長の質も毎年違う。日高は特に悪質だ。何かあったら言ってくれ。力を貸そう」

「ありがとうございます。ですが、もう少し頑張ります」

「だが、自分の班のこともあるし、お前には畑と研究もあるんだ。無理はするな」

「はい。それでは、失礼します」

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