緑の息吹と宴の気配

 体育館に響くドリブルの音に、バッシュが擦れる音。活気のある声に、熱気。緑ヶ丘大学バスケサークルGREENsは日曜日にも隔週で活動をしていてとても健康的です! ……と、新歓の流れでポジティブに言っちゃうよね。

 新歓の流れで説明すると、緑ヶ丘大学にいくつかあるバスケサークルの中でも、GREENsはバスケにもイベントにも精力的に取り組んでいるのが評価されて緑大公認サークルというお墨付きをいただいてます。

 男女問わず実力者から初心者までアットホームな雰囲気でバスケを楽しむことが出来るの。バーベキューをやったり、普段の活動場所にしてる小学校のミニバスチームとの交流もあってイベントも満載。


「慧梨夏さーん、ドリブルの続き教えてくださいよー」

「はいはーい、今行くー」


 おかっぱ茶髪のさっちゃんこと三浦祥子も大学からバスケを始めた。厳密に言えばイベントの方につられたみたいだったけど、バスケも面白いと思い始めてるみたいでよかったよかった。背が170近いからゆくゆくセンターかな。


「ダムダム。こうっすか!」

「そうそう、手首と指先で。手の平はつけないの」

「やってるね、慧梨夏ちゃん」

「美弥子サン。さっちゃんちょっと様になってきてますよね」

「うんうん」


 うちとさっちゃんの様子を見に来てくれたこの人が、4年生の伊東美弥子さん。この人がまあオフェンシブなフォワードで。キレッキレのカットインでゴール下に切り込んで、ファウルもらってかつシュートを決めてくる3点プレイを得意にしてるよね。

 アシンメトリーで短い前髪に、切れ長の目、長い睫毛。何を隠そう美弥子サンはうちの彼氏の実のお姉さんだったりする。顔も似てる方の姉弟で、公私ともにお世話になってますよね。サークルでは義姉妹ってまとめられたりもしてます、はい。


「慧梨夏ちゃん今日この後ご飯食べに行かない?」

「いいですよ。さっちゃんどうする?」

「あっ、行きたいです! 何食べるんですかー」

「美弥子サンと言ったらアレですよ」

「アレ?」

「美弥子サン、いつもの増し増しですよね?」

「久し振りに食べたくなってさ」

「ホント、誕生日にプランターでもプレゼントしましょうか。家庭菜園始めたらいいと思うんですよ」

「あっはは! いいね家庭菜園! くれるならもらうよ」


 結局、アレって何なんだとさっちゃんがぶーたれている。アレと言えばアレ。薬味家族である伊東家の中でもさらに薬味道を極めた美弥子サンのアレですよ。さっちゃんにも鵠っちにも近々ネギ教に入信してもらわなきゃいけない。


「アレってのはね、ラーメンのこと。美味しい店があってさ。たまにすっごく食べたくなるの」

「へー! 行きたいっす! さちこ、ラーメン、すきー」

「うちは普通の醤油ラーメンが好きなんだけど、美弥子サンは冬山ラーメンが好きでさ」

「今は春山ラーメン始まってないかな」

「あー、そうですね、春だし」


 冬山ラーメンは雪山に見立てた白髪ネギが山盛りになってて、春山ラーメンは雪解けを迎えて緑が増えた山に見立てて青ネギが山盛りになってる。要は、名前が違うだけでネギラーメンなんだけど、季節の趣があっていいなーってことらしい。(もみじおろしの乗っかる秋山ラーメンもあるよ!)

 男子も女子も関係なく、みんなで競ったりアドバイスし合ったり。バスケサークルはいろいろあるけどGREENsは本当に最高だと思う。とりあえず、来たる美弥子サンの誕生日に向けたパーティーの企画を通していかないと。そう、GREENsが誇る奇祭の準備を。洗礼の時間ですよ!


「よーしさっちゃん、ドリブルも様になってきたし、パスの練習をしようか」

「はいっす!」

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