中段の三連星
「そっち、もうちょっと上で」
「これくらい?」
「はい。そこで固定するのでそのまま持っててもらっていいですか」
トンテンカンと大道具を作る音や、カタカタカタとミシンが走る音の響く空間に、春を感じる。ここは、青葉女学園大学放送サークルABCのサークル室。名前の通りの女子大で、男子禁制の女の園。
ABCはステージ6にラジオ4くらいの割合で活動しているサークルで、今は5月下旬にある植物園でのステージに向けて準備をしているところ。このステージは代々2年生が中心になって準備をすることになっていて、アタシたち3年生は実質サポート役。
「はい、オッケーです。紗希先輩ありがとうございます」
「次は何をしようか」
「そのときになったらお願いするので、今は大丈夫です」
「そう?」
ヒビキが1年生を連れて実際に植物園に視察をしに行っている中、アタシは大道具制作のお手伝い。金槌を握るのは、170センチを越える長身と中性的な顔立ちで王子様とも呼ばれるイケメンの直クンこと宮崎直。
その脇では、今回のステージ台本を書くKちゃんこと相馬啓子がああでもない、こうでもないと考え込んでいる様子。真面目でしっかりした子だから。ミシンを走らせているのは衣装担当のさとちゃんこと糸魚川沙都子。さとちゃんは家庭的な女の子。
「でも、よく考えたね直クン。花や葉っぱでちぎり絵なんて」
「原案は啓子ですよ。それに、今からその花や葉っぱを準備しないといけないですからね。画用紙との戦いです」
今回は舞台上の企画の他に、来てもらった人みんなに参加してもらう企画がある。植物園でのイベントということで、花や葉っぱを貼り付けてちぎり絵を作ろうって。今作っているのはその土台で、その上から線画を描いた紙を貼ることになっている。
Kちゃんが何となくテレビを見ていて目に入ったのが、マスキングテープでのアート。それにインスピレーションを得てちぎり絵の方向でアイディアを膨らませていったんだそう。もちろん、全会一致でやることに決まったよね。
「はー、出来たー」
「沙都子、出来たの?」
「紗希先輩の衣装が完成しましたー」
「わー、ありがとう」
さとちゃんは生活科学部、平たく言えば家政科なんだけど、そこで衣食住にまつわることを勉強している。本人の興味は衣が6と食が4くらいだとか。実際に服を作るのも得意ということで去年の学祭からステージ衣装を作ってもらっている。
採寸やカウンセリングもきっちりしてるし結構本格的。1回のステージで着なくなるのはもったいない。去年の学祭の衣装を使い回すよって言ったら、ステージにはそれぞれコンセプトがあるのでその都度作りたいとはさとちゃん談。
「紗希先輩、着てみますか?」
「ボクも紗希先輩の衣装姿が見たいです」
「着たいけど、ヒビキと1年生の子たちが帰ってきたら抜け駆けだって怒られちゃうから」
「じゃあ、着てもらっていいですか? 不具合を見つけてしまわないと」
「紗希先輩、こうなった沙都子は引き下がらないと思いますよ」
「わかった。じゃあ、着替えるね」
さっき作った板の後ろで着替えながら、2年生3人がきゃいきゃいと話している様子に耳を傾ける。うん、2年生は今のところ大丈夫そう。ちょっと心配なこともあるけど、3人ならきっと大丈夫。
「さとちゃん、着たよ」
「わーっ、紗希先輩似合ってますー」
「沙都子、アンタ不具合探すんじゃなかったの」
「あっ、そうだった」
「でも、アタシミキサーなのにこんなにいい衣装作ってもらっちゃって」
「ミキサーも見えるんですから、雰囲気を揃えておかないと」
「アタシ、直クンがかっこいい衣装着てるところも見たいんだけどな」
「ボクは着ぐるみなので大丈夫です。その分沙都子にはみんなのかわいい衣装に専念してもらって」
「あたしも作りたいんですけど、こう言って直クンが聞かないんですよー」
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