第50話 いっちょんつぁーらん!

 午前10時を少し回った頃。


「どっか行こうや。」


 週末恒例、お誘いのメッセージ。

 少しの間をおいて、


「いーね!」


 お出かけ決定だ。



 入社後しばらくして、どうにか以前みたいなやり取りが自然にできるようになった辺りから、何の躊躇いもなく、ほぼ100%の確率で誘いに乗っている。

 嬉しい限りだ。

 しかし、あまりにも付き合いがいいから、息子との関係が心配になってくる。

 大切な父親を独占しすぎて、親子関係が疎かになっているのでは?と思い、一度「陽くんとは遊んでやらんでいーと?」的な質問をしたことがある。

 すると、


「アイツもおっきくなったきね。親と遊ぶの恥ずかしいっちゃない?友達とばっか遊びよぉよ。」


 といった返事が返ってきた。

 只今絶賛親離れが進行中のため、親よりも友達との約束を優先するようになってきたのだ。この日も朝のうちに宿題を終わらせると、ソッコー友達の家へと行ってしまった。

 こんな感じなので、休日はほぼヒマになる。

 だからこそ関係を発展させる絶好のチャンスなのだ。




 本日の行先は、隣町のショッピングモール。

 到着すると、目的もなく歩きながらウインドーショッピング。


 いつも思うことだけど、これってデートみたいですごくいい。

 割と近場なので、ちょいちょい互いの友達と遭遇することがあって、


「なん?葉月(要)、彼氏(彼女)できたん?」


 といった類の質問をされる。

 その度に嬉しくなってしまうのだが、直後現実へと引き戻され、


 こう見えて、実は付き合ってないんよね~…マジでどうにかせんとなぁ…


 と、凹むのがお約束。

 でも、焦れば焦るほど思うようにはいかなくて。

 これまでいい雰囲気にならなかったワケじゃない。というか、むしろ出かける度になる。が、互いにどうしようもないほどのヘタレだから、前へと進めなかっただけである。告白寸前のところで、もし好きじゃなかったら?的な、いらん考えが湧いてきて、実行に移せないといった悪循環が、かなり長いこと継続中なのだ。

 帰った後、「は~~~…今日もダメやった。」と二人、盛大に落ち込む。悪いことに、この落ち込み具合が日に日に激しさを増していっている。

 ホント、由々しき事態だ。


 早いことなんとかしなくては!!!


 なのである。




 そんなどうしようもない二人の現状は一旦置いといて、ショッピングモール。


 とりあえず服が欲しい…気がする。

 歩いているうちに、「いいかも?」と思えるモノを見つけてしまう。


「ねぇ、要くん。試着してみていい?」


「うん。行っておいで。」


 そんな会話を交わしながら試着室へ。

 着替え終わり、


「ねぇ。どげな感じ?似合っちょー?」


 聞いてみると、


「お!いーねー。可愛いばい。」


 嬉しい言葉が返ってくる。


「じゃ、もー一つね。」


「これはどーよ?」


「うん。それもいい。」


「じゃ、買ってしまおう。」


 こんな感じでいつも通りの楽しい時間。


 うん!今日もデートっぽい!



 買い物が一段落すると食事。

 飲食店地帯を彷徨って、よさげな店を探す。が、休日なので大混雑。同じことを考える人は多いらしく、人気の店なんかはピーク時と変わらない行列ができてしまっている。並ぶと晩飯に影響が出そうな時間になりそうなので、客の入れ替わりが早そうな店を選ぶことにする。

 うどんとラーメンで悩むことになり、選んだのはチェーン店のラーメン屋。

 豚骨ラーメンなので注文してからが早いはず、と期待しての選択だ。

 店に入ると案の定客の回転は早い。

 大成功である。

 あまり時間をかけなくて済んだ。




 食事を済ませると、移動。


「今度は要くんの番。何か買いたいものとかある?」


「そーね。釣具買い足そうかな。」


「なら、ウチもルアー買う!どこの釣具屋行く?」


「そーね…あっこは?」


 この地区ではソコソコ規模の大きい店。


「そやね。じゃ、そこいこっか。」


「うん。」


 無事、次の目的地が決まる。

 愛車、ミラバンに乗り込んだ。




 駐車場にクルマを停め、店内へ。

 そういえば今はボーナス時期。

 普段より割引の大きいセールが行われていた。


「お。プラグ安い。この頃結構いっぱい根掛かりで無くしちょーき、買い足そう。」


「ウチも何個か買おうかな。」


 実績のあるプラグを色違いで買うことにした。


 次はワーム。

 金曜日に釣り番組で紹介され、ときめいたものがその月の新作コーナーに並べられている。

 色を吟味し、カゴに入れていると、


「ウチもこれ買う。要くん買った色と別のヤツ買うき、あとで半分っこしようや。」


 ということになったため、出番の少なそうな色を除く全色が揃った。

 欲しいものはすべて揃ったけど、まだまだ時間があるからリールやサオを見てまわる。


「お~。このサオ、モデルチェンジしちょーやん。値段据え置きかぁ…今度買おっかな。」


「あ!このリール、SV出ちょーやん。SVっちバックラッシュしにくいんよね?」


「うん。なんでも使えるきいいかもね。」


 といった具合で楽しい時間は過ぎてゆく。




 外に目を移すと少し暗い。

 時計を見るといい時間になっていた。


「ボチボチ帰ろっか?」


「そやね。」


 今日もよく遊んだ。

 大満足の一日だ。

 帰ることにしよう。



 帰り道。

 信号待ちにて。

 毎度のことだけど、ヘタレて伝えられなかったことがある。


 今日こそ実行する!


 勇気を出して、


「要くん?ちょっと寄り道していい?」


 聞いてみる。

 すると、


「いいよ。」


 何のためらいもなく了承。



 程なくして目的地に到着。

 そこは。

 この町のショボい夜景らしきものが見える、バイパス脇にある広場でお気に入りの場所。

 ということで、いつもの展開だ。


 今日こそ先に進むことできるかな?


 二人とも、いつものように期待する。


 クルマを停めて、しばし雑談。

 そうしている間に気持ちを盛り上げてゆく。


 どれくらい経ったのだろうか?

 外はすっかり真っ暗になり、眼下には家の灯りがポツポツと見えている。


 雑談が一段落すると静寂が訪れる。

 空気が変わった!

 今回「も」、ここまではうまく持ち込めた。

 ほぼ同時に重なる視線。


 が、しかし…


 もし好きじゃなかったら?

 自分の思い過ごしやったら?

 それなら今のまんまのがいいよね?


 肝心なトコロでいらん考えが顔を出す。

 すると、せっかく盛り上がった気持ちがみるみる萎えていって…パターン成立だ!

 いつもどおり、ちゃんとネガティブモードに突入。


 二人、この空気を察してしまっていた。

 何とも形容のしがたい空気。

 妙な気まずさ。

 沈黙が痛い。

 そして…

 ついに耐えられなくなり、


「帰ろっか…。」


「…うん…」


 ギブアップ。

「これじゃダメやな」と思いながらもホッとしてしまう。

 視線の交わりから解放され、力なく苦笑し、


 は~~~~~…


 大きなため息を一つ


 今日もダメやった…。


 思いの外、ダメージが大きい。




 帰宅し、互いの自室にて。

 二人ともベッドにダイブし、


 あ~~~~~っ、も~~~~~~っ!何回目?ウチ(オレ)、いっちょんつぁーらんやんか! ←訳:全然だめじゃないか。


 同じことを心の中で叫んでいた。そして、


 次こそキメちゃる!


 何度目になるか分からない決意をする。

 ホント、な~にやってんだか、である。

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