第41話 大学生の時はこげな感じ。酒編

 お酒を飲み始めたのは、二十歳になってから。

 17歳、夏休みのあれは…間違って飲んだからノーカン。


 法律はちゃ~んと守るのです!




 八月。

 追試(※)の最終日と二十歳の誕生日とが重なった。

 ※)友達数名が、面倒っちい計算山盛りの物理化学と化学工学を落した。別の学科の友達もこの日に追試が終わるらしい。


 とゆーことは!


 誕生日のお祝い&打ち上げだ!!


 追試終了後、みんなと合流。

 そのまま買い出しに。



 先ずは近所にある酒のディスカウントへ。

 結構な人数である。

 酒だけでもスンゴイ量になるのは、入学してからこれまでの経験で分っていた。

 しかも、外の気温は35℃前後。

 そんな中、重いものを持って歩くのは、いくら近いとはいえ自殺行為だと思う。

 学校の近所に自宅がある友達(学科は違う)が、いつもの如く、


「じゃ、クルマとってくるわ。」


 運搬役を引き受ける。


 店に到着するのとほぼ同時に、ちょっとボロい軽自動車(大きい規格になってすぐのスズキアルトエポ3AT。元々赤だけど、経年劣化で天井とボンネットが朱色っぽくなっている。)が駐車場へと入ってくるのが見えた。

 友達だ。

 合流し、買い物を開始する。


 まずはビール。

 小さい頃、泡を舐めさせてもらったことがあるけど、苦かったという記憶しかない。

 多分、今も美味いとは思えないはず。


 乾杯の時、ちょこっと飲めばそれでいーや。


 初心者はみんなそんな考え。

 飲む人があまり多くないため、500mlの6缶パックを1つと、発泡酒の350mlの6缶パックを2つ買うことにした。


 ビールは決まったので、次は甘いヤツ。

 今日の本命だ。

「ピーチツリーフィズが美味しいよ」と、既に誕生日を迎え、飲めるようになった友達からおしえてもらっていたので、見つけ次第キープ。横にアップルツリーフィズというのもあったので、これもカゴに入れる。


 あとは、聞いたことのある名前のカクテルを片っ端から。

 カシスソーダ。ソルティードッグ。ジンライム等々。


 隣の棚には酎ハイ。

 柑橘系各種。メロン、巨峰、マスカット、桃、パイン、リンゴ、アンズ、コーラ、ヨーグルト、ウーロン茶…。

 そそるヤツをどんどんカゴに入れていく。


 先輩や浪人組は、既に飲む習慣があって、


「やっぱ焼酎は芋よね。黒霧買っとかないと。」


「そだね。あと、ポンシュも買っとこーよ。こだわると高いから紙パックのでいーよね?おっきいヤツにすれば、みんなにいきわたるっしょ。」


「ポンシュは甘口だと飽きちゃうから、辛口でよろしく~。」


「んじゃ、これにしよ。」


 なんて会話が聞こえてくる。

 楽しそうに未知の分野のハナシをする先輩達が、でったん大人に見えた。

 そして、ジュースっぽいのばっか選んで、はしゃぎまわっている自分達が、子供みたいに感じた。




 さらにいろいろ見てまわっていると、原液があることに気付く。

 その中にあった黄色いラベル、赤い文字、黒っぽいビンに偶然目が止まる。


 カルア?なんか聞いたことある名前やね。たしか…要くんのクルマで聞いた曲の中に、「カルアミルク」っちゆーの、あったよね?これで作るんかな?


 気になったので、


「カルアっち、カルアミルクですか?」


 先輩に聞いてみると、


「そうそう。これ、牛乳で割ったらカルアミルク。甘くて美味しいよ。コーヒー牛乳みたい。」


 ビンゴだった。コーヒー牛乳は大好きだ。


「帰り、スーパーで牛乳買ったら?これだけあると、結構いっぱいできるよ。」


「それ、いいかもですね。」


 買うことにした。他にも、


「あ!カシスもある!」


「んじゃ、これも作る?」


「うん。」


 缶のはやめて、自分で作ることにした。

 と、こんな感じで酒は買い終わった。

 クルマにぶち込み四人で寮に戻る。ソッコー下ろして次はスーパーへ。

 食べ物の運搬が待っている。


 別部隊はそのままスーパーへ寄って、割るための牛乳やジュース、揚げ物や乾きもの、珍味などを揃える。飲んだ後の空腹対策で、ご飯ものやカップラーメンも買うことにした。




 飲み会の会場は、誕生日である葉月の部屋。

 帰り着くと準備。

 夏仕様になったコタツの上に、買ってきたものを並べる。

 そのまま食べることができるモノばかりだし、人数も多いので、あっという間に飲める状態に。


 準備が整うと、初心者の紙コップにビールを注ぐ。

 全員にビールが行渡ったところで友達から、


「ほら!葉月!挨拶!」


 促される。

 全く考えてなかったので、


「へ?あの、えっと、ん~…今日はありがとうございます。」


 グダグダになってしまう。

 続いてその友達が、


「葉月!誕生日、おめでと~!&追試終了お疲れさま~!かんぱ~い!」


「「「かんぱ~い!」」」


 なんか嬉しい。

 今回から酒が飲めるので、場の雰囲気が少しだけいつもと違って見えた。


「ぷっは~!うっめ~!」


「最初の一杯は格別だね!」


 ベテランは美味しそうにビールを飲んでいるが、初心者は


「うえ~…苦ぁ~。」


「泡しか舐めたことなかったけど、本体はこんな味やったんやね~。」


「今まで何回か飲んだけど…イマイチ美味しいとは思えんな。」


 苦さに顔をしかめていた。


「お前ら、まだまだお子ちゃまやな~。」


 先輩たちから笑われる。

 でも、無理なものは無理。



 なんとか飲み終え、甘いヤツにシフト。

 レモンの酎ハイを飲んでいると、中学からの同級生がニヤケながら、


「そーいや葉月。」


 絡んできた。


 まさか!


「お前、高校ん時、それ飲んで大ごとになったっちゃろ?晴美から聞いたよ?」


 やっぱしそのコトか!


「うるさい!知らん!あのバカ…」


 突っぱねたが、


「何?何?何があった?」


 ガッツリ食いついてくる。


 あ~も~!これ絶対バラされるパターンやん。


 諦めたものの、イチオーは抵抗する。


「何もない!お前らも聞くな!」


 勢いで乗り切ろうとするものの、


「正直になろうぜ?」


 肩を組んできて、解放してくれそうにない。

 黙秘することにした。


「吐いちゃいなよ!」


「楽になろうぜ?」


 先に誕生日を迎えた同い年の子たち。

 まだまだ飲み方が分かっていないし、慣れてもない。ここまで、思いのほかハイペースだったため、大した量飲んでないのにガッツリ酔いが回り、変なテンション。

 かなりしつこく聞いてくる。

 それでもダンマリを決め込んでいると、きっかけを作った張本人が、


「コイツ、酔っ払って好きな人とえっちしちょーんばい!」


 盛大にぶちまけやがった。


「「「そのハナシ、詳しく!」」」


 先程よりも、さらに激しく食いついてきた。

 諦めるよりほかに道は残ってなさそう。


「あ~!もぉ!酔って寝ちょったら相手も酔っちょって、寝ぼけて入れられただけて!」


 自棄になって白状する。


「何それ?」


「入れられただけって…どーゆー状況よ、それ?」


「フツー、そうなる前に気付かない?」


「交通事故的な?」


「へ~。なんか楽しそう。」


「見てみたかったな。」


「お前、バカ?」


「中で出された?」


 収拾がつかなくなってきた。

 何を言っても聞く耳なんか持たない展開だ。


「知らん知らん!この話はもう終わり!」


 強引に〆た。




 いい感じのマッタリさで夜は更けてゆく。

 これまでずっと酎ハイやカクテルを中心に飲んでいたけど、新しいものが気になりだす。


 日本酒に挑戦。

 紙コップに1/3ほど注いでもらい、口にする。

 甘くて苦い。

 何か熱いものが喉を通っていく感覚。

 鼻から息を抜くと、いい匂い。同時にアルコールが鼻腔を刺激する。

 悪くはない。ウマいのだが、


「うわ~、きっつ~…これ、全部は無理。」


 アルコールが強すぎて、最後までは飲めずにギブアップ。



 日本酒の次は焼酎。

 水割りを作っている先輩の姿が渋くてカッコよく見えた。すっげー大人に見えた。


「先輩それ…。」


 興味津々で見ていると、


「葉月も飲む?」


 すすめてくる。


「はい。少しだけ。」


 グラスを受け取り、口に含む。

 キンキンに冷たくて、ほんのりと甘い。

 が、鼻から抜くと芋焼酎特有の匂い。


「うわ!くっさ~…これ、ゼッテー無理!」


 初心者にはハードルが高過ぎた。



 ほぼ一通り口にして、落ち着いたのがカルアミルク。

 一口飲んで、


「ウメー!マジでコーヒー牛乳やん!」


「どれどれ。オネーサンにも飲ませんかい!」


「あ!ホント!私、これ好きかも!」


「ジャンジャン飲めるね!」


 殆どの同級生は、どハマっていた。

 牛乳、原液ともに秒殺で終了。

 まだ誕生日が来てなくて、飲めない友達と後輩が、


「飲み物無くなったから買いに行こうと思うけど、コレも買ってこよっか?」


「うん!じゃ、よろしく~。」


 戻ってくると、カルアミルク祭再開。

 この時点でかなり酔っていて、作り方が猛烈に適当になっていた。

 原液の濃度がエライことになっている。


 しばらく経って。


「ちょっとトイレ。」


「あい~。いってらっしゃい~。」


 立ち上がろうとすると、


「あれ?ちょ、なんで?」


 下半身の重さが尋常じゃないことに気付く。

 足に力が入らない。

 生まれたての鹿とかが、初めて立つ感動のシーンみたいになっていた。


「どうした、葉月?」


 同じモノを飲んで、ベロンベロンになった友達が声をかけてくる。


「ヤベ…立てん。」


「マジで?」


 心配して側に行こうとするも、


「え?…ウソ?私も…」


 同じ状態になっている。

 予想外の展開に焦りまくる。

 異変に気付いたベテラン組。


「どうした?何があった?って、え~!お前らバカじゃないの?」


「カルアのビン、増えてるし。」


「しかももう、あんま入ってないよ?」


「こんなに飲んだら足にくるに決まってんじゃん!」


「てゆーかコレ、メッチャ色濃くない?」


 少し飲まれて、


「うわ!キッツ~!これ、牛乳よりも原液の方が多くない?」


「これじゃ、立てなくなるわけだ。」


 思いっきり呆れられる。


「カルアミルクって、お持ち帰りのお酒なんだよ?」


「お持ち帰りって、どーゆー?」


「これ、口当たりいいからいっぱい飲んじゃうんだよ。でもアルコールは結構強かったりするワケ。」


「おネーチャンに飲ませて、足腰起たないよーにして持ち帰ってヤっちゃうの。」


 知らない方がよかった豆知識。

 容易に想像できてゾッとする。


「え~!知りませんでした。」


「今、そんなシチュじゃなくてよかったね。」


「はい~。気をつけないとダメですね。」


「そだよ~。」


「ほら。立って。」


 二人の先輩が肩に腕をかけ、立たせてくれた。

 そのままトイレへ。

 慣れたもんである。


「ありがとうございます。」


「どーいたしまして。」


 漏らさずに済んだ。

 先輩には感謝。



 既に結構な時間。

 飲んだ量もかなりのものとなり、寝ている奴もいる。絡んでいる奴もいる。

 かなりカオスな状態なのに、おひらきの気配がまるでない。



 酒を飲むとお腹が空くというのはホントだった。

 そこらにあるものを手当たり次第貪り中。

 激しく酔って、グルングルン回っているにもかかわらず、食べ続けていると、


「う…気持ち悪い…」


 激しい吐き気。


 カルアミルク効果は先程より、幾分薄れてきている。辛うじて立ち上がり、ヨロヨロしながらトイレにダッシュ。

 ドアを開ける寸前にリバースが始まる。鼻から少し出たが、辛うじて間に合った。


 ぅおえ~…


 便器を抱きかかえるようにして吐きまくる。

 鼻から出たので奥の方がエライ痛い。

 涙と鼻水が止まらない。


 吐いたのっち何年振り?多分、小学校の低学年でおう吐下痢症にかかって以来よね?


 それはもうキツかった。

 普段とは別の筋肉の使い方をしたので、アバラの間が痛い。

 息を吸うのがツラい。

 多分、全部出た。勿体ないな、とか思いつつ部屋に戻ると、まだまだおひらきの気配なし。

 が、尋常じゃない眠気。

 申し訳ないが、寝ることにした。



 次の日。

 目が覚め、起き上がろうとして頭を上げると…

 寝る前と同じくらい回っていた。

 頭も痛い。

 吐き気も完全に治まったとは言えない。

 初めて味わう感覚。


 二日酔い。


「キッツ~…もう、酒なんか二度と飲まない!」


 お約束なセリフがごく自然に洩れた。


 それでも昼前にはピークが過ぎ、昼ご飯は美味しく頂けた。

 昼ご飯が終わった頃には、


「楽しかったね!今度は誰が誕生日?」


 そんなことを言える余裕さえできていた。




 とまぁ、初めてのお酒はこんな感じ。

 後で、


「あんだけちゃんぽんすれば、飲み慣れた人でも吐くよ。」


「あのペースはないよ。めっちゃ早いし。」


 先輩達から笑われた。


 次飲むときは、もっとゆっくり飲もう。そして、ちゃんぽんはしないようにしよう。


 そう、固く心に誓った。

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