第29話 ばらされる。

 新学期が始まった。


 久々に見る顔ぶれ。


 みんな元気そうで何より。





 始業式後の休み時間。

 体育館から戻ってくると、合図も無しにいつもの奴らが集合。

 全員揃ったところで、夏休みに体験したエロ自慢が始まる。


「ねぇ!聞いてっちゃ!ウチ、休み中に男できたんちゃ。」


「マジ?どげんやって知り合ったん?」


「ん?バイト先。でね!でね!やった。」


 ピースする。


「マジで?」


「うん。マジマジ。」


「やるねー!」


「まかせろ!」


「で?どげんやった?お前、初めてやったろ?」


「ん?まぁ、そーやけど。」


「血ぃでた?ドビャ~っと。」


「ううん全然。お前らが言いよったごと痛くなかったばい。最初っから結構感じたかも。今、バンバンやりまくりよぉばってんが、なかなか気持ちいいぞ!」


「おお~。」


 他にも、


「ウチ、マンズ●しまくった。何回イクか記録に挑戦した。」


「お前、●ンズリ好いちょーねー。で、結果は?」


「10回イッた。流石にマ●コヒリヒリしたね!」


「そらーするやろ。っちゆーか、10回げな…マジでスゲーね。」


 こいつらが集まると、こんなノリでエロネタが延々と続く。

 只今絶賛盛上りまくり中で、かなりうるさい。



 そんな中、葉月は自分の方に話しをフラれないよう、集団の隅っこで気配を消している。

 目も合わせない。

 相槌すら打たない。


 が、しかし、この状況。

 喋らずに済むのだろうか?

 輪の中心になって、大盛り上がりしているのが晴美だというのに。




 盛上っている最中にチャイム。

 ホームルームが始まるため、みんな席に着く。

 なんとかフラれずに済んだため、ひとまずホッとした。


 今日は二学期初日で、メインは始業式。

 授業は無いため、これが終われば学校は終わり。


 となると…このあと再びみんなで集まって、先程の続きになるのでは?


 イヤやなぁ。ゼッテー笑われるよなぁ。


 コソッと帰ろうかとも思ったが、間違いなく引きとめられ、無理矢理あのネタ披露の方向へ持って行かれるだろう。

 仮に、今日逃げられたとしても、明日明後日うちには披露されること必至。


 どげんするかな?


 考えるものの、いい方法が思い浮かばない。




 ホームルームも呆気なく終わってしまい、その時がやってきてしまうのだった。


 案の定、みんな集まってくる。

 先程のメンバーは、誰一人欠けることなく集まってしまっていた。


「でねでね!」


 ネタの披露はもう始まっている。


「なん?ヤラシイ話?オレもかててよ。」

 ※かてて=混ぜて


 あれだけバカ騒ぎしていたら、当然クラスの男子にも聞こえているワケで。


「女の子の秘密、聞きたいん?」


「勿論ですとも!」


「じゃ、金取ろうかね。」


「バカこけ!タダに決まっちょろーが!んじゃ、オレのセ●ズリ体験談おしえるっちことでどーよ?」


「そげなもん、聞きたむないちゃ。けど、まぁいーや。かてちゃろ。」


 こんな感じで、比較的仲の良い男子が数名合流。

 ハードルがさらに上がるのだった。


 女の前で言わされるのでさえイヤなんに…男子の前でとか、どげな拷問よ…。


 憂鬱さMAXだ。

 ビビっていると、


「葉月!行くよ!」


 ノリノリの晴美が、盛り上がっている方を指さしながら微笑む。


 絶体絶命だ!

 嫌な展開しか見えてこない!


「イや、チョっと、ウチね、今日、オ母さンにお遣イ頼まレちょってネ?」


 咄嗟に言訳するものの…いつもの如く、である。


「へ~。なら行こっか?」


「ダき、ウチ、今かラ帰らないかン…」


「いーちゃ!ウソばっかゆーな!」


「ウソやな…」


「はいはい。」


「お昼ゴ飯に間に合わンと、オ母サんに…。」


 全く聞き入れてもらえない。

 腕を掴まれ、


「ちょ!まっ!晴美!イヤっちゃ!」


 連行。

 合流するなり、


「は~い!今からはコイツがメイン!」


 輪の真ん中に突き出される。

 みんな一斉に注目。


「もぉっ!晴美っ!」


 最悪の展開である。


「おやおや?葉月さんは何をなされたのですか?」


「葉月?何があった?マンズ●?」


「ロリ前村も、エロいコトしたん?」


 いきなしである。


「それがね、みんな。聞いちゃってんっちゃ!」


 ばらそうとすると、


「あっ!ちょっ!晴美!」


 大慌てで口を塞ごうとする。


「なん?なん?」


「あらららら。葉月…もしかして?」


「うそ?マジで?お子ちゃまなのに?」


「相手は?ウチの学校?それとも余所の学校?」


 みんなの目が一瞬にして、興味の眼差しへと変わる。


「もぉっ!晴美っ!」


 猛烈に狼狽え、背中に飛び乗り、後から必死に口を塞ごうとしている。


「あ~はっはっは!」


 大笑いしてかわしながら、その反応を楽しむ。


 暴れ過ぎである。

 背中に乗って激しく振り回される度、スカートがヒラヒラして、中の白いものが!

 そのやり取りを見物していた友達から、


「あはは!あんた!またパンツ見えまくりよぉが!」


 爆笑しながら衝撃の事実を聞かされる。

 

「うそ?」


 一気に固まった。

 顔を真っ赤にしながら飛び降り、スカートを押さえる。

 が、時すでに遅し。


「前村。ありがとう。」


「ナイス白!」


「たまらなくセクシー!」


「今晩オカズにするき!」


 男どもからは感謝の言葉。


「うるさい!どこ見よるんか!バカ!」


 半泣きである。


「んじゃ、本題に入ろうか?」


「もぉ!いーっちゃ!いらんごとゆーな!」


「いやいやいや。ここまで前フリされたっちゃき、最後までおしえてもらわんと。」


 ここにいるすべての人が、許してくれそうな雰囲気じゃない。


「イヤっちゃ!聞かんでいーっちゃ!」


 チラッと葉月の顔を見て、


「いや~。ロマンチックやったよぉ~。」


 ニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「晴美っ!お前はっ!」


 悲鳴にも似た声。


「ロマンチック『やったよ』っち…あんた、見たげな言い方しよーばってんが、その場におったん?」


 友達が猛烈に食いついてくる。


「うん。直後で、まだ服が脱げちょーとこやったもん。」


「お前はっ!」


 再び背後から飛びかかり、口を塞ごうとする。

 振り落とそうとして身体を捩じらす度、またもやパンツが見えまくる。

 が、もうそんなの気にしちゃいられない。


「どげなシチュ?」


「ん?盆休みにね…」


 構わず続ける。


「もーっ!ゆーな!」


 背後からヘッドロックして、それ以上言わせないようにするものの、


「焼肉しよってね。」


 全く効果なし。


「わーっ!もぉっ!ホント怒るぞ?」


「もー怒っちょろーもん?でね。」


「こらーっ!」


「コイツ、ジュースと間違って酎ハイ飲んだんね。しかも一本丸々。」


「葉月、あんたバカ?どんだけお約束なことしよるん?」


「しょーがないやんか!ジュースのクーラーに入っちょったっちゃき間違えるくさ!」


「そーやったとしても、一口飲んで気付かん?お酒やき苦いやろーもん?」


「レモン味やったき、分からんやったって!」


「ウチ、ちょこっと飲んだことあるばってん、分かるばい?それが分らんげな…あんたらしーね。」


 ここにいる全員、見てもないのにその光景が頭に浮かぶらしく、妙に納得されてしまっている。


「その前に、コイツの好きな人も酒飲んで眠くなって。部屋で寝ちょったんよ。」


「焼肉っち、好きな人んちでしたって?」


「なん?葉月、あの人としたん?」


「相手っち、謎の小屋に出入りしよる可愛い顔したお兄さんのことやろ?」


 普段のキャラがキャラだけに、盛上り方がスゴイことになっていた。


「そうそう。んで、コイツ、ベロンベロンになって家の中に寝に行ったんね。」


 とてもじゃないが、この状況は阻止できない。

 どう足掻いても、バラされる未来しかないことを悟った葉月。


「もぉ、なんとでもゆってくれ。」


 諦めた。

 ふて腐れてしまっている。


「なんか、展開が読めた気がする。」


「多分、あんたの思っちょー以上のことばい。」


「うそ?マジで?」


「うん。いっときしたら『痛い!』っち叫び声聞こえて。何事かと思って行ってみたら、さっきゆーた状態になっちょった。」


「へ~。スゲーね。でも、よかったやん!お前、好きな人とできたんやん。」


 彼氏がいない友達から羨ましがられる。


「事故やし。」


 下を向いてボソッと呟く。


「でも羨ましいぞ。事故っち、どげな状況やったん?」


「酔って面白半分で横に寝たら、いつのまにか爆睡してしまって。抱きしめられて、入れられた夢見て…でも、それがホントに起こっちょって…そげな感じ。気が済んだか?」


「すっげー。思っちょった展開と全然違った。そげなコトっちホントに起こるんやね。」


「なんか…でったんレアなケースやね。でも好きな人とやろ?いーやん。」


「その人の本意じゃないし。あれ以来してないし。」


 ちょっと悲しげな顔。


「こら~。そげな悲しそうな顔せんちゃ!頑張らんか!」


 バシッ!と背中をぶっ叩かれた。




 クラスでもマスコット的な存在の葉月。

 こんな感じで、みんなから弄りたい放題弄りまくられ、可愛がられているのだ。


「『お子ちゃま、とうとう女になるの巻』やん。お姉さん嬉しいよ!」


 経験者の友達から抱きしめられ、頭をナデナデされている。


「あ~あ…結局バラしやがるし…。晴美のバカ…。」


 完全にブーたれてしまっていた。


 このあとも、各々の体験談で大いに盛り上がることになり、おひらきになったのは3時近かった。


 ともあれ。

 これも、よくある光景なワケで、ほぼ通常運転といった感じ。



 新学期早々、めでたくばらされてしまいましたとさ。

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