じゃぱりかーと

蟹山保仁

じゃぱりかーと

「勝負だ! ライオン!」

 日が傾き一日で一番暑い時間が過ぎた頃、ヘラジカの声がへいげんに響き渡った。

 みんなでジャパリまんを食べ終え、お昼寝をしていたライオンは、眠そうな声で答える。

「んー、よしきたー。それじゃあ球蹴りだねー」

 背のびしてゴロゴロと顔を洗いながら、二つ返事するライオン。

 かばんに平和的解決方法を教わってからというもの、へいげんの定期的な合戦は、いつのまにやら日常的な遊びに変わっていたのだった。

「んーむ。 球蹴りもいいが、そろそろ別の方法で勝負をしてみたいものだ! 何かいい案……があれば、球蹴りばかりにはならんな」

 一味違った勝負をしたいヘラジカは、腕を組み頭をひねった。

「それじゃーさ。ゆうえんちのアトラクションってのを使って勝負してみない? ハカセ達が整備してくれて、使えるのがあるみたいだしさー。頼んだら、いい案もらえるんじゃないかなー?」

 ヘラジカの考えに、それならばとライオンが提案する。

「うむ! いつもかばんにたよってばかりでは悪いしな。では早速行こう!」

 即断即決が身上のヘラジカにより、今日の遊びが決まったのだった。


「それなら、かーとを使って競走するといいのですよ」

「丁度かーとを参考にバスの修理の方法を考えていじっていたところなので、メンテナンスはバッチリなのです」

 ヘラジカとライオンからのお願いに、ハカセとジョシュが出した答えは、カートレースでの勝負だった。

「ただし、ちゃんと動くかーとは、この3台しかないので、それぞれの陣営から代表者が乗って、何回かに分けて勝負するのですよ」

 ハカセが何台か置いてあるカートのうち、3台を指差しながら言った。

「かーとの動かし方ですが、足元にある“アクセル”と言う板を踏むと、加速するのです。アクセルの左にある“ブレーキ”と言う板を踏むと、減速して最後には止まるのです。それで手元にある輪っかの“ハンドル”を回すと、左右に曲がる。それだけです。簡単なので、お前達にも楽勝ですよ」

 ジョシュからの説明を聞いて、それならばと、カートに乗ってみるへいげんの面々。

「おお! これなら簡単だし、乗っているだけで楽しいじゃないか! 流石ハカセ達だな!」

「うんうん。いーねーこれ。音が少しうるさいけれど、乗っていてきもちーし。これならみんなで楽しめそうだよー」

「うむ! それならば早速勝負だ!」

 試乗したところモーターの音が少しうるさい程度で、他には特に問題も見当たらない。みんなカートを気に入り、早く勝負がしたくてうずうずしているようだった。


「おーい。みんなー」

 と、そこへひとりのフレンズがやってくる。

「カワウソ来ていないかい? そろそろじゃんぐるちほーに帰ろうかなと思っているんだけど、さっきから姿が見えなくて」

 きょろきょろとしているそのフレンズは、カワウソの付き添いでゆうえんちに来ていたジャガーだった。

「きょうは見てないねー」

 質問に首を横に振って答えるライオン。

「そっか。毎日こうやって遊びに来てるから、ひとりで帰れると思うけど、また前みたいに『楽しいこと探してたら迷子になっていたよー!』なんてことになりそうだからね。もし見つけたら、教えて──」

「ならば共に勝負だ!!」

 ジャガーの言葉を遮り、いきなりヘラジカがその腕を掴む。

「ええぇっ!?」

 その突拍子もない行動に、ジャガーは驚くことしかできなかった。

「なに。楽しいことが好きなあいつのことだ。この大きな音の鳴るかーとで勝負していれば、きっとすぐに顔を見せるはずだと思ってな。それにかーとは3台だ。それなら第三陣営が参加すれば、かーとの数も丁度になるし、勝負も賑やかになるだろう?」

「えぇーー……う、うーん。そういうものかぁ?」

「ま、いいんじゃないのー? 大体こうなったヘラジカは、ひとのはなし聞かないしねー」

 勝負に巻き込まれたジャガーを横目にしながら、すこしつっけんどんな様子で、ライオンもヘラジカを肯定する。

 その目は、いつものふにゃりとした柔らかな目ではなく、どこか不機嫌そうな含みのある目をしていたのだが、そのことに誰も気がつかなかった。


「それではヨーイ! ドン! です」

 ハカセの合図でライオン、ヘラジカそしてジャガーがアクセル全開で飛び出していく。

 最初は直線と緩やかなカーブのみなので、ほぼ横並びの接戦を繰り広げる三人。しかし、いくつかのカーブを超えたころから、少しずつだが差が出るようになってきていた。

「うぬぬ。これ競争ってなると難しいなー。速度を出しすぎるとカーブを曲がりきれないし、速度を落としすぎると勝てないし……」

「はっはっはー! どうしたライオン! こんなものはアク……ア……えーと、右の板をぐっと踏んで、曲がるときに左の板をちょいと踏んで、輪っかをぐるぐる回せばいいだけだ! 存外私のほうが、こういうことが得意だったようだな!」

 みんな器用そうなライオンが勝つと思っていたが、開けてびっくり玉手箱。なんと勢いのいいヘラジカが先頭を走っていたのだった。

 どんどんとヘラジカとライオンの距離が開いていく中、第三陣営のジャガーは、ピタリと先頭のヘラジカに食らいついていた。

 そして終盤にさしかかるころ。

「やるじゃないかジャガー! しかし残念だが、次のコーナーが最後だ! ここで抜かなければ勝てやしないぞ!」

 ヘラジカの煽りにも答えず、虎視眈々と機を伺うジャガー。彼女自身も気づいていないのだが、その体の中では狩人としての血が目覚めていたのだった!

 そして最後のカーブに差しかかるというその瞬間!ジャガーがカッと目を見開き勝負にでた!!

「ここでアクセル全開 、ハンドルを右に!」

 グンと加速したジャガーのカートがヘラジカの脇腹に牙をたてんと襲い掛かる!

「くお〜! ぶつかる〜! のです!」

 沸き立つオーディエンス達!

 ジャガーのギリギリの攻め!あわや衝突かというその一瞬、そこに一つの影が現れた!

「ウチのヘラジカにぃ……手ぇー出してんじゃねーぞ?」

 なんと水をあけられていたはずのライオンが、二人の間に割って入ったのだ!

 ライオンは嫉妬深いことで有名だ。

 彼女はヘラジカとジャガーが仲良くしているのを見て悶々としてしまい、そのせいでレースに集中できず、遅れをとっていたのだ。

 しかし今のライオンは、自分の心に仄暗く灯った嫉妬を受け入れ、それを種火にヘラジカへの熱い想いを燃え滾らせ、復活を果たしたのだ!

 どけ! そこ ヘラジカのとなりは私の場所だ!


「すごいデッドヒートです! カレーがすすむのです!」

 いつの間にやら、レースを肴にカレーをひっかけていたハカセ達二人が、興奮して米粒を飛ばす!

 誰がゴールラインを最初に割るのか!?観衆の興奮度は最高潮!!みんなが手に汗握るその瞬間!

「……ゎぁぁぃぃいたああーーのしいいぃぃぃ……」(ドップラー効果)

 どこから現れたのか、いつの間にかカートに乗り込んでいたカワウソが、圧倒的速度で全てをぶっちぎり、優勝したのだった。


 後に観客達は語る。

「あれは、メンテ中のかーとだったのです。りみったーを外して、更にもーたーを改造してあるので、じゃじゃうますぎて運転出来るはずがないのです。異常なのです」

「やべぇよぉカワウソやべぇよぉ……。あの後、かーとのでんちが切れるまで止まんなかったし、走っている間一度もぶれーきらんぷが光らなかったんだ……カワウソやべぇよぉ」

 等々他にも数多の伝説をカワウソは残したのだった。


 疾風しっぷう伝説 コツメカワウソ 完

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