♨♨魔法使いの湯♨♨

ちびまるフォイ

いい湯だな~♪って感じないの!?

「なになに……この湯につかれば恋愛運アップでモテモテ間違いなし!?」


休日の予定を考えて開いた旅行雑誌に『魔法使いの湯』が紹介されていた。

魔法使いが作った温泉らしく、浸かればひとたびモテるとのこと。


ひとりでいくのはちょっと必死すぎて恥ずかしいので友達を誘うことに。


「なあ、一緒に魔法使いの湯に行ってみようぜ!」


「僕はその日予定あるんだけど……」


「俺たち彼女いないのに予定なんてあるわけないだろ!」


押し切る形になったが二人で魔法使いの湯に向かった。


「ここが魔法使いの湯かぁ」


「見た目は普通だね」


色は少し変わっているが見た目は普通の温泉。

おそるおそる浸かってみると、肌を通して魔法が流れ込むのがわかった。


「おおおお!! これはすごい!! これが魔法か!!」


「え、そう?」


「お前これがわかんないのかよ!?

 肌の毛穴から魔法が流れ込んでくる感じ!! わかるだろ!?」


「いや……よくわかんないかな」


「なんでだよ!?」


まったく信じられない。

この感動を共有できると思ったのに。


でも、温泉にはいくつも湯が用意されている。

この湯では効果を実感できなかったとしても他の湯につかれば変わるはずだ。


「よし、次はあっちの打たせ魔法の湯にいってみよう!」


友達を連れて別の魔法の湯へと向かった。

天井近くから降り注ぐ魔法の湯に体をばしゃばしゃとあてる。


「おおおお!! わかるわかるぞ!! 魔法が電気のように鋭く入っていく!!」


「うーーんわからないなぁ」


「ここもかよ!?」


こんなにも魔法が流れ込んでいるのに、それがわからないなんて!

やせがまんしているのだろうか。


「つ、次はあっちだ!」


その後、友達を温泉のありとあらゆる魔法の湯めぐりに付き合わせたが

この魔法感動を共有できることはついになかった。


脱衣所で着替えて帰り支度を整える。


「なぁ、本当にお前はなにも感じなかったのか?」


「本当に普通のお湯に感じたよ」


「……もしかして、俺が勘違いしてたのかな」


実は、最初から俺の思い込みだったのかもしれない。

魔法の湯は効能があると思い込んでいるばっかりに、普通の温泉を特別だと誤解したのか。

たしかこういうのを……そう、プラシーボ効果だ。


「いやそんなはずはない! たしかに魔法が流れてるのを感じた!

 こうなったら確かめるしかない!!」


俺は友達を連れて温泉のスタッフへとかけよった。


「あの!! この温泉は本当に魔法の湯なんですよね!?」


「はい、もちろんでございます、お客様。

 お湯には魔法を溶け込ませています」


スタッフからの言葉に安心した。


「ほらな! ほらな!? やっぱり俺が正しかった!!

 やっぱり魔法の湯だとわかった俺があっているんだ!!」


間違っていたのは友達の方だ!

俺の感覚はあっていたんだ!俺の勝ちだ!!




「ただし、魔法の湯の効能は30歳まで童貞を貫かれた

 "魔法使い"の方にしか効果はございませんのでご了承ください」



――俺は持っていたタオルを足元に落とした。

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