カフェのあたらしーお客様 A案(3000字版)

毎月10万円欲太郎(ほしたろう)

カフェのあたらしーお客様 (3000字版)

 じゃんぐるちほーのこうざんにあるジャパリカフェは、アルパカ・スリの店である。お客様の今日の気分にぴったりな一杯を提供できる紅茶の品揃えと、隣のちほーまで見渡せる眺めの良いテラス席が自慢だ。

 雲を見降ろすテラス席には今日も常連が2人。

「『わたしはー↑♪ と~きー↑♪ かふぇでたべーる↓ じゃぱりまんはー↑ おいしいー↑♪』」

「歌ばっかりよく飽きないわよねぇあなた。……ある意味尊敬モノなんですけど」

 調子のはずれた歌を歌っている朱色の混じった白い羽根のフレンズがトキ。それを少しあきれて見ている全身真っ赤な羽根のフレンズがショウジョウトキである。

 出会って数日だが、二人は昔からの友達のように打ち解けていた。

「はいはいおまたじぇ~、紅茶が入ったよ~」

 そこへ、カフェの主人であるアルパカ・スリが、カップを2客持ってくる。


 雲海を見下ろしながら飲む紅茶の味。それを2人はすっかり気に入っていた。

「えへへへへへ…おしょしょしょしょしょしょ…」

 アルパカも心から嬉しそうに2人の座ったテラスを眺めながら、ソーサーを拭いている。

「はぁ゛~……こんな調子で、新しいお客さンがまた来てくれたら最高なンだげど……」

 アルパカにとって待望のお客様が、初めてきた日から数日が経つ。2人が常連としていついてくれて、喜びに溢れていた彼女だったが、だんだんと欲がでてきてしまうのは無理も無いだろう。とくにトキと一緒に訪れた2人、いや紅茶の飲めないボスも加えて3人のお客様は特別素敵で、元気で、にぎやかだったから。

「そうそううまくはいがないね~……お客さん……もっと来てくれだら……」

 と、心の中にしまっていた思いがつい、口をついて漏れてしまった。

 切れた角砂糖を取りに来たショウジョウトキは、その呟きを聞いてしまう。アルパカの白いふさふさの毛並みがどこかしぼんで見えた。

「トキ、ちょっといい?」

 ショウジョウトキが、トキの手を引いた。


「新しいお客をさがす……?」

 2人はカフェの上空を飛んでいた。下にはカフェの場所を示す地上絵がある。

「ええ。私たちで連れてこれない? アルパカきっとよろこぶと思うんですけど!」

「そうね、それは良い考えね……」

「私今からたくさん友達をつれて来るから、日が暮れる頃にここで集合ね!」

「わかったわ……じゃあ……コホン。『わたしはーとーきー↑♪ おきゃくをさがしー…』」

「ストップ!」

「え……?!」

「歌はやめなさい、アルパカに聞こえちゃうんですけど!」

「……わかったわ……」


 夕暮れ。

「どうだった?」

「……。『ごめーん↑♪ だれーもー↑♪ いなかったー↓♪』」

「だから歌わないで普通に話しなさいよ! 嫌なんですけど!」

「……あなたは……?」

「わ、わたしはー…………わたしも……」

 2人ともあまり友達が多いほうではないのをお互い知ってしまったトキとショウジョウトキだった。

「わ! わたしは友達がいないわけじゃないのよ! し、失礼なんですけどッ! なんかPPPのライブが近いから皆みずべちほーに行っちゃったのよ」

「……誘われなかったのね……」

 夕焼けに照らされた2人の影が、たそがれている。

 トキの白い全身がオレンジ色に焼けて、まるで別人に見えるなと、ショウジョウトキはふと思った。

「……そうだ! 名案があるんですけど!」


「はあああ……いらっしゃぁ~~あ゛い……え゛ぇ?」

 カラカラとドアチャイムを鳴らして入ってきた人影を見て、アルパカは固まった。

 全身を葉っぱで覆われた草の塊が立っていたからだ。かろうじてシルエットから鳥のフレンズ? ではないかと疑われる。

「わ、わたしはミドリトキよ。トキのなかまなんですけど」

 塊がしゃべった。

 ショウジョウトキの名案とは、別のフレンズに変装してカフェにくることだ。こうすればお客が増えたように見えて、アルパカを元気づけることができるだろう。

「今日はショウジョウトキに紹介されてジャパリカフェに初めてきたの。私は新しいお客さんなんですけど!」

「あ、ああああ゛~……」

 アルパカは喜んでいるようだ。

「あ゛りがとね~、さ、座って座って」

 全身を覆っている草が落ちないように、ショウジョウトキが慎重にカウンターに座る。正体がバレてはアルパカを喜ばせられないばかりか、余計に残念がらせてしまうだろう。

「じゃあ、いつもの頂戴!」

「いづもの~……? ……お客さん゛、はじめてきてくれたんじゃないの゛ぉ?」

 ……しまった。

 通って数日しか経っていないのだが、すっかり常連になってしまっていたのだ。すぐにごまかさなければ……

「じゃあ、こ、こ……紅茶を!」

「お客さん紅茶知ってるの゛ぉ!」

 さらに、しまった。自分も初めてカフェに来て紅茶の美味しさを知ったのだった。紅茶を知っているフレンズは珍しいのだ。

「だ、だってほら、紅茶ってここにあるんですけどっ!」

 メニューに乗っている紅茶の絵をさす、

「すごいね~メニュー読めんのもすごいね~」

 メニューに書かれた紅茶の項目は、アルパカに教えてもらったものだ。絵の下についている模様が、文字といって紅茶を示す記号であることも。

 リカバリーを試みるショウジョウトキだが、手を打てば打つほどドツボにはまっていく……。全身から冷や汗がふきだすのがわかる。フレンズ化してから出るようになったものだ。


 そのとき、ドアチャイムを鳴らして入ってくるものがあった。同じような巨大な草の塊。中身はトキだ。

「良いお店ね……一曲良いかしら……?」

 ……よかった、これでこの空気を変え……ッ、一曲?!

「『わたしはー↑♪ あたらしいおきゃくー↑♪』」

「歌ってどうするのよ!」

 思わず、椅子から立ちあがる。

「バレちゃうじゃない頭を使って欲しいんですけど! って……あっ」

 立ち上がった拍子にショウジョウトキの全身から葉っぱが落ちるのと、歌の振動でトキを覆っていた葉っぱが落ちたのは同時だった。


 しまった……。と、トキたちは顔を見合わせる。

 その様子をみて、アルパカが笑いだした。

「あははははは……いやだ~2人とも…うう゛…うえ゛え゛……」

 そして、泣きだした。

「うえ゛え゛え゛~ん、うえ゛え゛え゛~ん!」

「ごめんアルパカ、けっしてあなたを騙そうとしたんじゃ……」

 ショウジョウトキは背筋が凍る思いだった。だが、弁明の言葉も上手く口にだせない…。

「うえ゛え゛~!!!」

 その時、カウンターから飛び出したアルパカが、トキとショウジョウトキにだきついた。

「ありがどね~。とっても゛とっても゛、幸せだねぇ~ごめんねぇ、気をつかわせちゃってねぇ。新しいお客さんになってくれる常連さんがいで、こんな幸せでいいのかな~」

 2人の気持ちはアルパカにはちゃんと伝わっていたようだ。

「アルパカ……」

 力いっぱい抱きつかれて、すこしくるしそうにトキが笑った。

「私も幸せよ、こんなに素敵なカフェにこれからも通えるのが、嬉しいんですけど」

「でも、この草ちゃんと片付けでね。掃除もしてね」

「……あぁ……はい…」

 

 その時、ジャパリカフェのドアを開く2人のフレンズがいた。

「アイツはたぶんここにいるのだ! アライさんは、お見通しなのだ! 入るのだフェネック! たのもーなのだー!」

「そうだねーアライさん。ごめんなさーい? だれかいないー?」

 待望の新しいお客様が、ようやくやってきたようだ。

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