第27話 客打ちのメンバー


 〇


 話の当人の登場である。昨日の昼間ほどラフではなく、かといって出勤時ほど整えた身なりをしている訳でもなく、カジュアルな服装。昨夜の出勤のあと、そのまま起きていたのか、やや目元は眠たげである。


「ん、ああ。近く寄ったからね。客打ちでも……と思ったけど、この盛況ぶりじゃ、家帰って寝ろってことかな」

「もしかしてデートですか?」


 すかさず突っ込んでみたあかねだが、頭にチョップを食らって、小さな悲鳴を上げる。


「こないだ別れたって、言ったろ? 大学の後輩のところ顔出してたんだよ」


 口元に手を当てて、しかしニヤニヤと不敵な笑みを隠さずにしているあかねに、もう一発チョップが見舞われて、うずくまる。


「東出さん、見当さんがこれでラス半だそうですけど、どうされますか?」

「じゃあそこ入ります。四本打つか、他のお客さん来たらラストで」


 入れ替わり座った東出に、同卓者たちはすこし不満そうだ。さもありなん、彼が来なければ、ましろが本走になっていたのだから。東出もなんとなく察したようで、ひきつった苦笑いを浮かべながら、お願いします。


 またしてもやることなくなってしまった、あかねとましろ。ひょこひょこと東出の後ろに立って、何度も見た彼の麻雀を観察することにする。


(あれ……)


 ふと、あかねは頭を傾げた。


(東出さんって、こんな風に打つ人だっけ)


 東二局、点棒は配給原点の親。9巡目、二軒リーチに対して、少考の末、イーシャンテンの形から両者の無筋を強打。次巡、聴牌を入れるも、再び無筋強打で放銃。5200点とチップ一枚の支払いである。

 ふだんならば、イーシャンテン押しはしないと言って、中抜きしてでも降りる東出らしくない打牌である。


「どうしましたか、あかねさん」

「いえ……東出さんらしくないなぁ、って」

「そうですか? 私は、いかにも『彼らしい』負けん気の麻雀だと思いますよ」


 そして、南二局の親。点数状況は16800点のラス目。配牌を開けたところ、赤が一枚のドラが一枚。なんとしてもここをひと和了して、オーラス逆転圏内に持ち込みたいものである。


 が、理想に反して、東出の手は重い。役牌が重なることもなければ、配牌であったオタ風対子が暗刻になりリャンシャンテン。払って喰いタンにシフトするには手損になりそうだ。

 おまけに、10巡目、東出の下家が両面チーして打中張牌。いかにもチーテンの素振りである。


 次巡ツモで雀頭の予定だった対子が暗刻になり、これまた重たい手格好。両面ターツ(七八萬)とペンチャンターツ(89索)をひとつずつ持ってイーシャンテン。そして上家から打たれる九萬。ドラ2の手牌を捨てるのは惜しいが、役なしチーテンに受けて、次局に備えるのもありではないか。しかし、東出はノータイムでスルー。壁牌に手を伸ばす。


 そして次々巡ツモ。念願の聴牌が入る。が、両面が先に埋まり、最後の最後までじれったい。

 あかねならば、オタ風切りリーチ。残りのツモの数は少ないが、一枚さらしている下家からひょっこり出る可能性もあるし、またオリてくれてもよし。リーチを掛けないのは緩手である。


 ここで東出、はじめての長考。顎に手を当てて、じっと盤面を眺めている。その視線の先が、どこにあるのかはあかねには判断が付かない。

 もしかして、ヤミテンにしようかどうか考えているのか、と思っていたところ、東出が抜き出したのは、9索。そして打牌を曲げることなく河に流す。抜き間違いかとも思ったが、神妙そうに行く末を見守っているから、どうにも分からない。


 そして14巡目。すなわち次巡、東出は一瞬苦しそうに顔を歪めて、


「ツモ。2600オール」


 見事、8索単騎をツモ和了。あかねにしてみれば拍手喝采の手順だが、東出の表情はやはり冴えない。そしてましろに振り返って一言。


「リーチっすか」

「リーチですね」

「リーチ? そもそも、ペンチーソウじゃないんですか?」


 ふたりのやりとりに追いつけないあかね。きょとんと面食らう彼女に、ましろはささやくように、微笑みながら、


「あかねさん。オカルトって信じますか?」

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