第20話 プロ来店!①


 〇


 そして半時間後、


、いま下に着いたって」


 筒井の言う、という聞いたことのない人の名前。あかねはピクリと反応する。心なしか、あおいと東出もまた、そわそわしているように思える。

 そんな大人物なのだろうか。疑問に思う間に、エレベーターはぐんぐんフロアに近づいて来て、


 果たして、

 開いた扉の先、

 そこにいたのは、

 綺麗な女性だった。


 綺麗、という言葉で飾るのが、いかにも相応しい。

 脱色されて、ほとんど金髪に近い髪は、あおいよりも長くあかねよりも短い。それが鼻に付くことなく、ぴたりとハマっていると感じるのは、きっと彼女が日本人離れした容貌だからだろう。鼻高で、つぼみのように小さな口に、真っ白な肌! まるで妖精みたい、ともあかねは感じた。


「ましろさん! お久しぶりです!」


 一番に口を開いたのはあおい。いまにも抱き着かんばかりの勢いで詰め寄り、甲斐甲斐しくも荷物を預かって運び込む。


「はい」


 が、ましろの反応は素っ気ない。歓喜に打ち震えるあおいに対して、愛想が悪いとさえいえる。

 東出や筒井の出迎えにも、やはり短い言葉で返し、どこへ行くのかと思えば、ぴたりとあかねの前で止まり、


「あなたが、中井あかねさん?」

「は、はい。えっと、ましろさん、でいいんですよね。はじめまして……」


 周囲の対応にほとんど無反応のまま眼前に迫られ、あかねにとっては、もはやちょっとした恐怖である。それでもなんとか声を絞り出し、まずは挨拶から。が、いつもの元気はない。


「城崎《しろさき》ましろと申します。どうぞ、お見知りおきください」


 折り目正しい言葉遣いとお辞儀に圧倒されて、たまらずあかねは助けを求めた。右を見て、左を見て、あおいを目が合う。


「あかねちゃん、知らないかぁ。麻雀雑誌とかあんまり読まない?」

「えっと、たまに、くらいは」


 城崎ましろと言う名前に、あかねはピンと来ないが、麻雀業界で有名な人なのだろうか。


「日本プロ麻雀連合という組織で、プロとして活動させていただいております。ここで、ゴールデンタイムで、むかし働らかせていただいていました」


 プロ、という言葉を聞いた途端、あかねの頭の中でなにかが弾けて閃いた。

 城崎ましろ、といえば――


「それから、お兄様の中井はじめさんにも、長らくよくしてもらってます。今後とも、なにとぞよろしくお願いします」


 喉のあたりまで来ていた言葉が、「中井はじめ」という言葉を聞いて、すとんと亜空間へと落っこちた。なにゆえ、プロ雀士である彼女の口から、中井はじめという言葉が出てくるのか。


「兄とお知り合いなんですか?」


 中井はじめは、ましろの言う通り、中井あかねの実兄その人である。が、大学卒業後、あっちこっちへ日本中をふらふらしているような遊び人めいた兄と、なぜか彼女が知り合いなのか。


「あれ、あかねちゃん知らなかったの?」


 そして答えは、ましろからではなく、あおいの口から語られた。


「中井はじめさんも、ましろさんと同じ団体のプロよ?」


 くらりときた。足元がふらつく。二、三歩後ろに後ずさって、


「え―――――――――――――――――――――――っ!」


 あかねの轟きが、ゴールデンタイム中をこだました。

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