テレビ番組の違法アップロードは、チェーンソーでバラバラの刑なのです!

アーカーシャチャンネル

第1話

 西暦2019年、自宅でテレビのニュースを見ていたのは、Tシャツに短パン姿の少女だった。


 彼女は筋肉質で、いかにもアスリートな体型なのだが、スポーツはあまりやっていないように見えるのかもしれない。


 その理由は、もう一つの体型というよりも、ぽっちゃりに近いような外見だろう。


「なんだろうね。この状況――」


 彼女がテレビで見ていたニュースとは、ここ最近になって増えているテレビ番組の違法アップロードに関する事件だった。


 番組のジャンルはバラエティー番組が圧倒的に多い、特に超有名アイドルが出演しているような番組が増えている傾向の様である。


 何故、犯罪と分かっていながらも違法アップロードをしてしまうのか?


 芸能事務所側は一切認めていないと言うが、ある意味で炎上マーケティングの様な状態だ。


 おそらく、アイドルファンが善意と言う意味でアップロードをしているのかもしれないが、明らかに違法行為なのは間違ないだろう。


「テレビ番組を手元に残したいのであれば、円盤を買えば良い話ではないのか? 違うのか?」


 少女はニュースを見て、不満が爆発していた。啓発CMも演出等の面で脅迫な様に見える為、評判が悪い。


 むしろ、あのCMだと逆効果と言う予感さえしてしまう。


 ネット上で自分の意見を拡散しても、全面スルーと言うのは彼女にとっても居所が悪い。ネット炎上する可能性も高いかもしれない事は自覚している。


 それにバラエティー番組は円盤化されていないケースが多く、こうした背景が違法アップロードが増えているのも分からない話ではない。


 それでも連中のやっている事は犯罪行為であり、逮捕されても仕方のないケースなのは事実だ。


「ネット上でも、この正論めいた発言を完全スルーとは――。権利者の意見はどうなるのだ? 二次創作が黙認されているから、こちらも黙認しろとは筋違いも大概にしろ!」


 テレビのリモコンをテレビに投げようと言う状態にもなっていたが、そんな事をして解決する案件ではないのは百も承知だ。


 権利者の利益はどうなるのか? 違法アップロードが広まる事は海賊版を増やす事を意味しており、海賊版を撲滅すると言う面からしてもマイナスになるのは間違いない。


 色々と仕方がないので、街へ気分転換を兼ねて出かける事にした。



 その街中で見かけたのは、どう考えても現実世界から見てもおかしいと思える服を着た男性である。


 見た目は執事のつもりだろうが服のデザイン等は、どう考えてもこの世界の物ではない。


「あなたは――?」


 まさか、声をかけられるとは――と少女は思う。顔は戦隊ヒーロー出身の若手俳優という感じだが、異世界の言葉は全く知らない。


「ア、アイキャンスピーク異世界語? オーケー?」


 少女の方も、もはや言語が崩壊している。外国人ではないとは思ったが――異世界人とは思わないだろう。目の前の執事はリアクションに困っていた。


「あなたたちの言葉も喋る事が出来ます。問題ありません」


 女性の顔を見て、何かを悟ったのか、執事の男性は日本語をしゃべる。どうやら日本語は大丈夫のようだ。


 しかし、少女の方は完全に緊張してしまっている。彼の外見を見れば、こうなるのは仕方がないのだが。


「あなたにお願いがあってきました。実は――」


 何と、ピンポイントである。どう考えても、異世界転生とか異世界転移のWEB小説あるあるだ。それに加えて新手の詐欺かもしれない。


 自分の体型を考えると、あちら方面の勧誘ではないと思うが、不審者が声をかけて誘拐するようなケースは過去にも事例がある。


 そう思いつつ、執事をスルーしようとした少女だったのだが、周囲に悲鳴のような声が響き渡った。



 出現したのは、何と魔族である。現実世界には不釣り合いかもしれないのだが。


 サキュバスの様なセクシー系魔族のようだが、強調しているのはエロではなく、どちらかと言うとロリや貧乳という個所だった。


「幼女趣味の魔族ねぇ――」


 少女は自分も同類とは思いつつも、あの魔族をどうにか出来ないか考える。


「実は、あの魔族を倒して欲しいのです。そして、他にも同じような魔族が出現している事も否定できません」


「えっ? あれ1匹じゃないの?」


「あの魔族は、自分の欲望に飲み込まれた存在――」


「欲望――?」


「あの魔族が増え続ければ、この世界は破滅するでしょう。海賊版が広まる的な意味でも」


「海賊版って――?」


「こちらの世界でも、違法な画像や動画が魔法のアイテムで拡散すると言う事件がありまして――」


「違法アップロードに悩むのは、万国共通の様ね! 分かった、その話――のるわ!」


 最終的に少女は魔族を倒す事に承諾する。どうやら、異世界でも何者かが違法動画のアップロードに関するノウハウを広めたらしい。


 その人物は現実世界では既に逮捕されたはずのネット神だったが、数日前に刑務所から姿を消していたのである。


 おそらく、彼が異世界転移して、と言う可能性は高い。執事は明言を避けているのだが。


「それでは、この石板に思い浮かべるのです。あの魔族を倒せる武器を――」


 彼が少女に渡したのは、どう考えてもタブレット端末だ。


 異世界にタブレット端末があるのか。少女は思うが、それでもタブレット端末に自分のイメージ衣装をカスタマイズする。


「あんな魔族なんて――!」


 少女はタブレットのカスタマイズ画面に、ある武器があるのを発見し、それを選んだ。


 そして、次の瞬間には背中の空いているような特殊なドレス、両腕には白銀の籠手、その内の片方はアガートラームと名前が刻まれている。


 彼女が右手に握りしめていた武器、それはチェーンソー型の大剣である。その大きさは1メートルを余裕で超えていた。


「違法動画をアップロードする魔族は、チェーンソーでバラバラにしてあげる!」


 その後、明らかに勇者なパースを思わせるポーズでチェーンソー型大剣を構え、魔族は真っ二つになった。


 彼女が変身し、武器を手にしてから魔族を倒すまで1分弱。あっという間だったと言えるかもしれない。



 その後、魔族だった女性は元の姿に戻った。どうやら、10代後半の女性だったらしい。これらの情報は、後々のニュースで知ったのだが。


 自分の好きなアイドルグループのファンを増やす為に出演しているバラエティー番組の動画を拡散していた所で、魔族に取りつかれたようだ。


 その時の記憶は全くないのだが、それでも違法動画の拡散をした事は紛れもない事実である。


 彼女が逮捕された事で、同じような動画を拡散していたユーザーは大量摘発される流れとなったが。


「あなたが倒した魔族は、他にも71体いると確認されていますが――」


「それでおさまらないわよ。違法動画をアップロードする人間は、もっといるはず。だからこそ、私は戦う必要があるのかもしれない」


 彼女は違法動画が抱える現実を見て、改めて思った。違法動画をアップする人間がいるかぎり、こうした魔族は何度も現れるだろう、と。


「私はチェーンソー姫、チェーンソーの大剣に白銀の籠手の戦う姫よ! 違法動画を根絶するまで、私は闘い続けるの!」


 チェーンソー姫、彼女の戦いはこれから始まるのだ。彼女の戦いは、まだ始まったばかりであり、ほんの序章に過ぎない。



 ――チェーンソーでバラバラにはされませんが、違法動画のアップロードは著作権法違反であり、犯罪です。


 海賊版がマフィアの収入源になっている今日で、最も問題視されている行為です。


 コンテンツ流通を正しい物にする為にも、違法動画のアップロード者を摘発する活動にご協力ください。



 そんなCMが動画サイト内で放送され、話題となった。


 別の意味でも『訳が分からない』という話はあるのだが、魔法少女物のテイストで作られた、このCMは以前から放送されていた物よりも話題となっている。


 実際にネット上の反応も『お堅い考え方を上から目線でいうスタイルよりも、ここまでネタ化していた方が逆に反応がある』と言った物が多い。


【さすがに、ここまではやり過ぎでしょう? 動画をアップロードした人間を極刑とか斬首とか――それと同じ】


【大規模テロでもないのに、極刑はやり過ぎだろう。だからこそ、あのような仕様になったのだ】


【このCMで分かる人間がいるのかどうか?】


【分かる人間がイルカは別として、ネットの反応がそこそこである以上は――】


【ネット住民は冷めやすいという話もある。チェーンソー姫もすぐに冷めるだろう】


 ネット上の反応は、さまざまだが――好意的に受け入れているのが半数を占めていた。


 違法動画をアップすれば、すぐにチェーンソー姫が駆けつける訳ではないのだが――インパクトは抜群だったのかもしれない。



 CM放送数日後、チェーンソー姫を演じた彼女は反応に関して驚いていた。


「まさか、自分の言いたかった事が――こういう形で拡散するとは」


 真剣に違法動画の話題を出したとしても、全力スルーされていたのは事実なのだが――まさか、チェーンソー姫のアイディアを受け入れるとは驚きだった。


 実は、チェーンソー姫の正体はCMのイメージキャラなのである。


「現実と架空の区別がつかないようなまとめサイトや一部のネット炎上勢力に利用されるような可能性もあるけど――」


 チェーンソー姫がネットで歪められた形で拡散する事の懸念を抱いていたが、そこまで考えても回避できない物だってある。


 今はCMを見た視聴者が、1人でも多く違法動画のアップロードが犯罪であると認識し、その行為を止めてくれる事を願うばかりだ。


「私が思うのは、コンテンツ流通にもルールがあると言う事を知ってほしい――それだけなのに」


 コンテンツ流通が正しい方向に向かう為にも、一定のルールを守った上で、と言っても守る人間が100人中100人いるかどうかは疑わしい。


 しかし、海賊版を資金源とした武装集団が現れたら、それこそ終わりだと自覚させないといけないのか。


 彼女は何を思って、このCMを思いついたのだろうか?

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