さてさて、読者の皆皆様困惑するなかれ。エレベーターホールの場面から時は流れに流れて、翌日の放課後だ。さて俺は今教室のとある場所に隠れているのですが、果たしてどこにいるでしょうか?ヒントは『暗闇』。

 ……えぇ?分からないか?仕方がないな。2つめのヒントは『箱』だよ。

 …………やれやれ、これでも分からないのか?

 それじゃあおまけにまけて特別ヒント。今俺がいる場所から聞こえてくる音声をお届けしよう。


「お前のヘラヘラ笑ってるのがムカつくんだよ……」

「人をイライラさせてるんだ、こっちは被害被ってるわけ。分かる?……だからこんな風に殴っちゃってもゼンゼン問題ないわけ!!」

 下卑た笑い声は低音で、腹部の骨のない部分を選んで殴打した音とはちょうどよく低音どうし。2つの音は絡みつくように、こちらの耳にひどい嫌悪感を以てこびりつく。

「い………っ!!」

「よぉよお、その優等生ヅラしたメガネもぶち割ってやろっかァー?」

「やめとけよライ。モノ壊したら証拠が残っちまう」

「そうだぜ、こいつの親や教師にバレるのはさすがに面倒くせぇ……せっかくの楽しい気分が台無しだろうが……なァ!!」

「うっ!!やめ………て……」

「……馬鹿かな?人をイラつかせるお前が悪いんだぜ、ってさっき説明したトコだろうがよ、頭チンパン以下か~?」

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「気持ち悪うーい……もっとやっちゃってー!」


 ……そう。

 例のメガネ男子が不良生徒5名ほどにイジメられている現場が一番よく見える場所、掃除用具入れの中だ。

 恭史郎の野郎、何が『計画』だ、カッコつけてやがって。まさかこんな優雅さの欠片もない作戦内容になるなんて、こんなことなら話に乗るんじゃなかった……と後悔する暇は与えられていない。

 さて、みなさん自分の思い出の中から懐かしいあの頃の記憶を手繰り寄せてみていただきたい。掃除用具入れの上部には横長の穴が3,4本くらい開いているのが想像できたならカンペキだ。

 その穴からスマホのカメラ部分を出して……パシャリ、と。

 事前にカメラ音が鳴らない設定にしてあるので、あの勇猛果敢ないじめっ子たちにバレる心配はない。掃除用具入れの中から明かりが漏れていたら不審がるだろうからスマホ画面の明るさは最小まで落としてある。この辺の指示は恭史郎によるもので、まぁ認めたくはないが流石と言わざるを得ない。

 撮った写真を確認すると、まぁこの光景を見れば8割の人間がイジメだと思うだろういい出来になっていた。

 ……とりあえず、第一段階は終了って感じか。



 あのメガネ男子、もとい不良どもが帰って行ったあと、夕暮れ時の教室で俺と恭史郎はスマホを没収されないよう急な教師の到来に警戒しながら、計画の続きについて小規模会議を行っていた。

 俺の撮ったイジメ現場写真を確認するなり、恭史郎は満足そうに口角を釣り上げて悪役みたいに笑った。気取ってるみたいで実に腹立たしい。


「いい出来だ、これならだろう」

「貸し出し、ねぇ……。この写真だけで十分じゃないのか?」

「アホか。こんな写真2,3枚だけじゃいくらでも言い逃れできる。やるなら徹底的に……あまりの絶望に言い訳の一言目を発することもできないほどに追い詰めてやらなきゃな」

「あっそ……。まぁどちらにせよ、とっとと終わらせないとな。あんな凶暴な不良に勘付かれたら一巻の終わりだ」


 恭史郎に向けて、先ほど撮ったイジメ現場の画像を送信する。

 恭史郎によるとこれは作戦の第一段階であり、これをクリアすることで、本作戦遂行に必要不可欠なある『強力アイテム』を手に入れることができるようになるとのことだ。

 せいぜい、順調にことが運ぶことを願っておこう。

 その日は、これで解散となった。



 はてさてこれまた時は流れる!

 イジメ現場の盗撮に成功した日から六日後……もとい、恭史郎が学級崩壊計画を打ち立てた恥ずべき記念日からちょうど一週間後。俺は家を出るタイミングがうまいことミゾレと重なったので一緒に登校していた。

 しっかし朝から元気だなコイツ。眠くないのか?二度寝ってコトバを知らないのか?朝起きれないのは低血圧のせいらしいが、ひょっとしてお前、このトシにして高血圧なのか?

 なんか気になっているようだったので、恭史郎の計画がうまく進んでいることを当たり障りなく説明しておいた。俺が盗撮したことはあくまでもイジメ撲滅という大義名分のもとでのことだと、しつこく3回くらい反芻しておいた。


「ふぅん……じゃあ、イジメは止められそうなんだ?」

「いまのところ順調だな。ま、上手いこと勧善懲悪してみせるさ」

「そっか、頑張ってね!……イジメなんて嫌だもんね」

「…………あぁ、そうだな」


 自分がイジメられるのがイヤなのはもちろんだが、自分の周りで人がイジメに遭っているのを快く思う人間だって、あんまりいないだろう。いたとしたらそれは性格があまりよろしくないヤツ……と一概に決めつけることは愚かなのだろうが。

 自分がその『イジメを受けている人間』に対してよほど恨みを持っているとかでない限り、イジメをいいことだなんて思わないはずだ。だが、じゃあイジメを無くすために行動できるかと言われればそれとこれとは全く話が別で、俺たち臆病者は傍観者にならざるを得ない。

 だって変に反抗したりしたら、次のターゲットは自分になるかもしれないのだから。教師たちに相談を持ち掛ければいいという者もいるだろうが……俺がチクったってバレない保証がどこにある?そもそも、教師は100%動いてくれると思ってるのか?

 イジメを見ているだけなのもイジメ、という言葉は絶対に間違っている。

 勇気がなくて臆病な人間を……俺やミゾレを、そんな言葉で責めないでくれ。

 ……今の文句は誰に対して、何に対して言ったものなのだろうか、自分でも分からなかった。


 ただ1つ言えることは……皮肉を言ったり中二病だとこき下ろしたりしながらも、俺は恭史郎に感謝しているんだと思う。

 もし、学級崩壊計画なんてものを恭史郎が提案してくれなかったら、俺は一生イジメという問題に対して傍観者のままだったかもしれない。イジメに対して無感動になっていた心はさらに腐敗が進んで、完全に死んでしまっていたかもしれない。

 ……アイツの行動力は、ときどきとてつもなく眩しい。


「でも安心したよ」

「何が?」

「紫暮くん。意地悪で秋葉ちゃんにナイショにしてたんじゃなくて、ちゃんと心配してくれてたんだね」

「ああ……ずっと心配させちまってたのか。悪いけど、あとで秋葉本人にも言っといてくれ」

「うん。…………でもね」


 でも?とは?

 急にその場で立ち止まったミゾレに合わせて俺も足を止める。

 言いにくそうに、というよりは言葉にし辛そうに。人差し指で頬をぷすぷすと突きながら、しばし左脳の方へ目線をやりながら考えている。


「…………そういうのが、秋葉ちゃん、んだと思うけど」

「え?」

「うーん……。いいや、なんでもない!忘れて!」


 恭史郎が秋葉の将来を心配しているのが、『やりにくい』……。

 親子のすれ違いで過剰に心配されるのがウザい、とかそういう話なら分かるが、やりにくいなんて……。そんな感情を同世代の同級生に抱くものかね?

 やれやれ女心は分からないな、で済ましてしまってもいいのだが、ミゾレの物言いにはなんとなく含みがあるような気がして、俺はそのあとも中途半端にその真意を考え続けていた。


「気にしないでって言ってるのに……」

「勝手に気にしてるから、気にすんな」

「ふふっ。……あ、知ってる?今日雨降るらしいよ」


 ミゾレに倣い見上げた空は現在、この上なく澄み渡った超絶ブルースカイハイな雲一つない晴天だが……たしかに今朝、6チャンで人が良さそうな天気予報士さんが申し訳なさそうに『午後からは突然の雷雨に注意してください』とか言ってた覚えがあるな。

 ……青天の霹靂、ってやつだな。



 作戦は2時間目の休み時間にまた動き出す。俺と恭史郎はあるものを持って、ある人物の席の前に行った。

 透里裕二とおり ゆうじ……あの不良たちにイジメられているメガネ男子だ。今まで名前を明かしていなかったのは、決して今座席表を見て確認した時に初めて知ったとかそういうことではないからな。ていうか逆ギレするようだが、恭史郎も今初めて知ったらしいし、俺だけ責められる道理はないし!

 目の前に立っただけなのだが、イジメられているせいか異常に警戒されてしまい、逃げ場を失った子リスのように怯えている。そんな透里の態度に辟易しつつも、俺たちとコイツはほぼファーストコンタクトなため、その感情は表に出さないように表面的にニコヤカにしながら話しかける。


「透里、だったっけ?これ、お前のメガネか?」

「……あ、は、はい!ど、どこで見つけたんですか……?」


 透里がいつもかけている、生意気にもちょっとカッコイイ感じのビジネス感あるメガネを机の上に置くと、透里はまるで酸素を求める窒息死一歩手前の宇宙飛行士が辛うじて酸素ボンベを取るように、目にも止まらぬ速さでメガネを装備した。

 ……こんなこと言いたかないが、ちょっとヘンなヤツだな。まぁこのくらいなら、『個性』という言葉で済ませられる範囲だけど。


「そんじゃ、渡したから」

「もう本体落とすんじゃねーぞ」


 別れの挨拶としては最低の部類に入るクソみたいなセリフを吐いた恭史郎と俺は、ヘンに不良どもに目をつけられないうちに足早に教室を去った。

 しばらく廊下を進み、階段の踊り場で手すりに尻をもたせかける。

 ……恭史郎は非常に気持ち悪い笑みを浮かべている。そして多分俺も、そんなカオになっちまってると思う。


「発案者の俺が言うのも何だが……まさかイッパツでこんなに上手くいくなんて思わなかったぜ」

「だな。あとはメガネ……透里が上手いことやってくれりゃあ万々歳だ」

「お?最初こそイヤイヤやってたくせに、ノリノリじゃねぇか」

「んなわけあるか……そう見えるんならお前もメガネ付けたほうがいいぞ」


 とにもかくにも、これで1週間に渡る下準備は全て完了した。あとは天の神様の言うとおりってな。

 俺は両手を組んで枕にするように後頭部を押さえ、はて、この高揚感というかワクワク感というか表現しがたい感情を最後に感じたのはいつだろうかと、少し物寂しいことを考えていた。

 たかが中坊の分際で何をノスタルジックになっているのだと言われるかもしれないが、小学生と中学生では果てしなく驚嘆すべき規模で自分の価値観や感情・精神状態は上書きされてしまっていて、気付けばもう二度と復元が不可能になっているのだ。気付かぬうちにオートセーブされてしかもデータ復元もできないなんて、数世代前のアドベンチャーゲームか何かかよ!頼むから戻してくれ!

 厨二病なんて言葉も知らず、素直で無邪気で、何より正直だったあの頃に戻してくれ!ウンコウンコ言って笑ってたあの頃から4年も経ってないのに、そんなクソガキと内申点を気にして些細なことでも妥協して上っ面で笑ってるような糞餓鬼が同一人物だなんて、いったい俺のアタマに何しやがったんだよ!中途半端に性格を優柔不断にシフトチェンジするくらいなら、馬鹿で無計画のままでいさせてくれよ!

 これからの人生でも俺は次々塗り替えられていくのだろう。記憶だけは保持したまま、性格や人との付き合い方や嘘や哲学やアニマやアニムスや、そういった人格構成の全てが雑に塗りつぶされていく。イマの俺はどこか地平の彼方タルタロスに葬り去られ、どこから生まれいでたのかも知れない新しい俺が、なに食わぬ顔でまた新しい他人と挨拶して、笑う。


 ああ、そうだ。

 これって、イタズラで罠を仕掛けて、相手がひっかかるのを待ってる時の、あの気持ちなんだ。

 後ろから友達に近付いてひざかっくんする2秒前のあの気持ちなんだ。

 中学生になってずっと忘れてた、あの気持ちが再臨しているんだ。


「…………ま、ノリノリではないけど、けっこう楽しいよ」

「そうかい。楽しむのはいいが、気は抜かないでくれよ」

「お前には言われたくないね」


 ともあれ、気を抜くなと言われてもあとはだ。俺たちが頑張る場面といえば、そのあとにちょこっと『脅迫』をするぐらいなもので。


 3時間目後の休み時間、もう一度あの不良どもが透里を殴ったその瞬間、全ての作戦は起動するのだから。


 恭史郎は何やら前髪をファサッとかきあげたかと思えば、ポケットに手を突っ込んでモデルみたいなポーズを取りながら高笑いしだした。


「それではこれより作戦の最終段階に入る……!!各員、気を引き締めろ!!」

「各員って、参加者俺だけだろうが」

「黙れ平社員!!」

「社員呼ばわりするなら賃金のひとつも寄越せよな……」

「ここに全ての伏線は張られ、敵にとってもはやこの地平線包囲網エンドレススパーダーウェブから逃げ出すことは不可能!!ここに宣言しよう、『作戦最終段階:伊邪那岐イザナギ』、始動だ!!」


 …………………………………………。

 ごめん。


 やっぱ楽しくないかも。





●未後悔コメンタリー●


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


 ホントに自分が書いたんでしょうかコレ。もうなんていうか、ぼ〇らの七日間戦争とカゲ〇ウデイズとシュ〇インズゲートとその他色々な中二病要素を洗濯機に入れてかき回したみたいな感じです。

 「中学生が現代日本を変える」という漠然としたテーマのもとに書いたせいで、設定もシナリオも何もかもあやふやです。湯豆腐くらいふやふやです。

 ちなみにこのあと、なんだかんだで不良が仲間になるというシナリオだったのですが、どう考えても元いじめっ子を正義の味方にするとか無理があります。いじめっ子は一生いじめっ子ですし、そんな数日で人格変わるワケありません。動機付けすら湯豆腐以下のふやふやさです。


 でも主人公のあだ名だけは再利用したいな。ニワカ。


 自分の中に残ってる、リア充に痛い目見せようという陰キャ根性が如実に表れていることに後悔しました。

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