クエスト:薬草採取
鍵を使って部屋に入ると……大体八畳程の部屋があった。
「……このベッド、硬いわね……」
「はは、しょうがないさ。シルマの環境はちょっと良すぎたな」
「……」
いいベッドとはいえないそれに、不満げなミア。
まあここは諦めよう。
だが……そのベッドは、ダブルでなくツインだった。
一人用のそれが二つ並ぶそれ。
――良かった。
「何でそんなユウスケはそんな安心した顔なの?」
「……いやあ、何でもないよ」
「ほんと?」
「あ、ああ」
これなら樹とミア、俺で寝る事になるだろう。
もし狭かったら俺が床で寝れば良い。
一つのベッドに、女の子二人と男一人ってのはまずいからな。色々と。
「ふう……んじゃ、準備が出来次第出発しよう」
「ええ」
「うん」
何はともあれ、やっと荷物を下ろせる。
別に重いわけでは無いんだが、依頼品を詰め込む鞄が既に容量なしなんて笑えない。
教科書、弁当箱、その他色々……結構な物がこの鞄に入っている。
「……よし」
スタッフのセット、お金、ライター……必要最低限のものをポケットに入れ、
鞄は出来るだけ空にした。
流石に俺達の部屋内に忍び込まれて盗まれる……なんて事はないと思いたいが、一応大事な物は鞄にしまっておく。
服とか教科書とか、流石に取る人は居ないだろうしな……
「樹、ミアも大丈夫か?」
俺が鞄を担いで二人を見ると、もう既に準備万端という感じだった。
「遅いわよ、ユウスケ」
「僕も、大丈夫」
笑って言う二人。
どうやら待たせていたらしい。
まああれだけごそごそしてたしな……まあおかげでかなり空いた。
「んじゃ——初依頼といくか!」
「ええ」
「……うん!」
————————
——————
————
「……えっと、『ミリク森林』がここっぽいな」
宿から出て、地図を見ながら歩いてすぐ。
若干迷った所もあったが……薬草が生えてそうな場所に着いた。
『ミリク森林』。街から一番近い、森林地帯だ。
近いというのもあって見た感じモンスターも居ない。
「凄いわユウスケ!最初の場所よりも色んな植物が生えてる!」
興奮気味に言うミア。
確かに、多種多様な植物があちこちに生えているな。
「はは、これは中々……薬草を見つけるのは大変そうだ」
正直多すぎて何がなんだか分からない。
この中から、限られた種類の植物を探し出すのか……
「……?どれも全く別物じゃない。簡単でしょ?」
不思議そうに言うミア。
感覚がどうやら違うらしい。
彼女にとっては、この植物一つ一つが全くの別物なのだろう。
「はは、それなら助かるよ。……とりあえず、まず一つ見つけないとな」
植物図鑑なりあれば良かったんだが、あいにくかなり値段がした為見送った。
もしお金が稼げたなら、考えてもいいだろう。
俺も微かにだが覚えているから何とかなる……はず。
……というか。さっきから樹が居ない様な……
「……藍、君」
ちょんちょんと、背中を叩かれる。
振り返れば樹が居た。
「……樹か、いつの間に——え?」
見れば、手のひらに一束……『ケラー草』があった。
確かに王国に居た時にも見たそれだ。
少し見えない間に……早技過ぎない?
「……へへ。あった、よ」
少し誇らしげに言う樹。
何かを、待っている表情だった。
「流石だな樹は。まさかこんなに早く見つけてくれるなんて」
「……」
俺が褒めると、頬を染めて嬉しそうにする樹。
この光景も——何故か、懐かしく感じる様な。
「……これ。見つけたら良いのね?」
「え?あ、ああ……」
食い気味に樹の手のケラー草を見て言うミア。
そして近辺の植物を屈んで探し始める。
はは、分かりやすいなミアは……
「さて、俺も見つけなきゃな」
女の子二人が頑張ってるんだ。
制服の腕を捲り——俺は、薬草探しへ向かった。
――――――――――
――――――――
――――――
時間も経ち、夕方手前といった所で。
「……おい見ろよアイツら、何土弄ってんだ?」
「ハハハ!どうせ薬草探しでもやってんだろ!絶対低ランクだぜ!」
俺がそれはもう必死に薬草を採取している時、近くから流れてきた声。
……これも立派な仕事だろうってのに。
別に薬草探しをするのが恥ずかしいなんて考えは全くなかったが、ああいったランクが上の冒険者になるとこういう低ランクのクエストは恥になるのだろうか。
そうだとしたら、凄く勿体ないような。
「……ムカつく……」
ミアは本当に分かりやすく、草陰からそんな声が聞こえた。
……丁度いいし、一休みしようか。
「おーい!樹!ミア!ちょっと休憩しよう」
「……!」
「分かったわ」
のそのそと現れる樹とミア。
「さて、皆どんな感じだ――」
樹は控えめに。ミアは自慢げに。
俺は薬草十本を二束だから……
まあ、数えるまでもなく二十本。これでも結構頑張ったものなんだけど――明らかに、二人の数はおかしかった。
しかし……まずは樹だ。
まず一束がおかしい。いや、一束十本なのはそうなんだけど、その一束を十束で一束にしている。そしてそれを十束。
……何を言っているのか分からなくなってきた。
ともかく……俺の倍以上はある。
そしてミアも同じぐらいの量を、小さな体で抱えている。
「ユウスケ、少なくない?」
「……み、ミア!」
「……はは」
抱えた薬草の隙間から、ミアはそう呟く。
俺のメンタルが少し削られた。
樹は元々こういった作業が得意なのは前から知っていたが、ミアもまさか同じぐらい凄いとは。
一応初めての作業のはずなんだけど……
「樹は凄いわね」
「ミア、初めてなのに凄いよ……」
二人で称えあう様子を、俺は小さくなりながら眺める。
一応一番体躯はデカいはずなんだけどな……
「……あ、藍くんは力持ちだから……」
樹の精一杯のフォローなのだろう。
その優しさが逆にまた俺を抉る。
「に、荷物持ちは任せてくれ!」
「……ふふ、はい」
ミアは悪戯に笑い、俺に薬草を渡す。
一本一本は細く軽いが、やはりここまでなると凄いな。
樹のも合わせると中々だ。
「それ、入るの?」
「まあ見てみな」
明らかに、俺の学生鞄に入る量ではなく……サイズ的にはその薬草は大きくはみ出している。
だが、俺の能力を使えば――
「!……便利ね、それ」
「はは、だろ」
鞄に魔力を込めて、薬草を押し込めば――するっと、薬草が『小さく』なって鞄の中に納まる。
モノの力を増幅する……鞄の場合は、収納力の強化だ。
まるでファンタジーゲームのアイテムボックスのような……そんな感じだろう。
これまでそんな大きいモノを仕舞う事が無かった為、この力を使う事はなかったが……これからはずいぶん使えそうだ。
「……なら、これも、大丈夫……?」
何を思ったか、樹が採取していた場所に戻ると――更に薬草の束を抱えてくる。
それならこれも、みたいな感じで。
「……あ、ああ」
いや、樹は薬草採取のプロなのか……?
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