冒険者ギルドへ


 それは、王国の時とは異なる意味で歩きにくい道。


あの少年の言う通り、栄えていて大きい町だ。

ここ辺りの中心となる場所というのは間違いない。


でも。



「……ひっく、あー」


「こっち来るなよ酔っ払いが!」


「ああ!?俺はCランクの冒険者だぞ!その屋台ぶっ潰してやろうか!?」


「んだとコラァ!?やれるもんならやってみろ!」




ポーションらしくものも売っている。

野菜や肉、穀物。パンやお菓子のようなもの、そして酒。


武器や防具も、色々なものが並べられている。


それはいい……凄く良い事なんだけど、店の前でもお構いなく喧嘩が起きていたり、酔っ払いがフラフラと歩いているせいで、かなり歩きにくいのだ。



「……なあ兄ちゃん!金貸してくんね?」


「すいません急いでるんで」



ミアと樹を引き連れて、せこせこと歩く。

何か声を掛けられても……それは『金』くれ、『酒』くれだ。


一応、『それ以外』の人もいる。

商人のような恰好をした人、子供。

数で言えば一応半々ぐらいだと思うけど……まあ、悪い方が目立つって言うしな。



「……疲れたな」


「……そう、だね」


「ふふ。まさか、こんな場所に転移しちゃうなんてね」




俺と同じく、疲れた表情の樹。


それに対して――ミアは余裕そうだった。



「ミアは、大丈夫なのか?」


「正直……全然平気よ。私も少し不思議なぐらい」



ミアはそう言う。

てっきりずっと一人だったから、こういうのは苦手だと思っていた。


「……まあどちらかと言うと、この町の人を見るのが楽しいからかも」


「え?」


「余りにも、ユウスケやイツキと違うからかしら、ふふ」



笑って言う彼女。


はは、確かにあれとは『真逆』か。というかそうであってほしいけど。



「というわけだから、私は大丈夫よ。……それよりも、目的地を決めないといけないんじゃないかしら?」


「はは、その通りだな。まあ一応、アテはあるんだ」


「多分、だけど……冒険者ギルドだよね?」


「流石樹だな、そうだよ」



王国の時も、あそこから始まったから。

そして――何よりも、俺達には『ギルドカード』がある。


話も早く進むだろう。



「冒険者ギルド?ってユウスケが話してたあの?」


「ああ。そしてその場所は、ここにもあるんだ」


「あら、それならそこに向かうべきね」




冒険者ギルド。



同じ王都のマークの建物があるのは、この場所に来た時に見えていた。

それだけで少しだけ安心は出来るな……


地図とか宿とか色々手にしたいモノは一杯あるけど、まずは冒険者ギルドでどんな依頼があるか見てみないとな。

出来れば色々受付の人に聞けたら良いし。



「んじゃ、そこまでもうひと踏ん張りだ」


「……うん!」


「ええ」



俺達は、その目的地へと足を向けた。



――――――


――――




「……で、その冒険者ギルド?って何する場所なの」


「うーん、一言で言えば仕事をくれる場所かな」


「ふふ、それは大事ね」



笑うミア。確かに大事だな。

もし冒険者ギルドが無ければ、俺達はどうなってることやら。

……考えたくないな。



「……一応ね、僕達は『冒険者』っていう、職業なんだ」


「ふーん?冒険者って何するの?」


「それは俺達もあんまり分かっていないけど……前ミアに話したように、魔物を倒したり薬草を集めたりかな」



なんせ冒険者として活動しようとしたら、アルスさんに会ったからな……

ランクが上がれば、もっと色んな仕事があっただろうけど。



「へえ、……失礼だけれど、『なんでも屋』って感じね」


「はは、でもその通りだよミア」



『なんでも屋』……確か、アルスさんが最初に言っていたのも、そんな言葉だっけ。

……ん?もしかしてあの人、冒険者だったのか?


だとしたら一体――ランクは幾つ何だろうか。



「……頑張らないと、ね」


「ん、ああ。そうだな」



俺達は最低のFランク。

頑張って目立たない程度に上げなきゃな。



「……何て、話してたら着いたわよ」



目の前には、ボロボロになっている剣と盾のマークの看板の大きい建物。

サイズだけで言えば、もしかしたら王国の冒険者ギルドよりも大きいかもしれないな……


きっと、ここが冒険者ギルドだ。


俺達がお世話になるであろう場所――



「――入るか」



暖簾を潜る前から、がやがやと大きな声とグラスが当たる音が聞こえてくる。

入る前に覚悟を決めておかないと。

何があっても良いように。なんせ……こんな街だからな。



「……うん」



樹も同様……緊張から表情が凍ばっている。

彼女なりに俺と同じく覚悟を決めているのだろう。


樹は……本当に、このうるさくて危なっかしい街が苦手そうだ。




「――ふふ、ええ。楽しめね!」




そして最後に、余裕なミアが居るのだった。

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