『港町・ヴァリス』編

新たな土地

「……着いたか」


俺達は、確かに足を地に付けていた。


「成功した、みたい」


「……みたいだ。ミア、目開けていいぞ」」



ミアも樹も、同様転移に成功した様だ。

良かった、俺だけ別の場所とか洒落にもならない。

他のパターンも同様だが。







……三十分程前のシルマ。

樹と俺は転移の経験があるものの……どちらもアルスに転移させられていた訳で。


こうしていざ俺達で転移しよう、となるとどうしていいか分からなくなる。

結果……自分達で詠唱すれば大丈夫、とミアが教えてくれたが。


そしてその後――全員一斉に『起動』と詠唱する事で、俺達は纏めて光に包まれ、気付けばこの場所に立っていた。






「……久しぶりだな、この空気は」



生き生きとした緑の植物が、茶色の地面から生えている。


空気も澄んでいて、温度も暖かい。

ずっと灰色の地に居たせいか、むしろこの『普通』が、違和感に感じてしまう。

あっちでは空気は澱んでいて、空が曇っているせいで温度も低かった。


当たり前の光景なのに……不思議な感覚だ。

久しぶりの状況で、思わず深呼吸してしまう。

ああ、空気がおいしい。



「――これが、外の世界なのね」



ミアは、全てが珍しいといった様にこの光景を見ている。

これまでのミアの世界とは全く異なるのだから、当然だ。

俺達の普通が、彼女では全てが反対なわけだしな。



「……ねえ、ユウスケ」


「ん?」


「ありがとね。貴方が居なければ……この世界は知らなかったわ」



前に広がる光景をその瞳に映しながら、俺にそう言うミア。

俺が彼女に、初めて本を渡した時と同じ目をしている。


「俺もそうだけど、ミアの決断があってこそだよ」



実際ミアが行くと決めたからこその結果だ。

自分が今までずっと居た場所から離れるなんて事は、それはとても勇気のある事だと思う。



「……そうかしら」


「ああ。それでどうだ?こっちの世界は」



空を見る彼女にそう問う。

これは……聞くまでもないかもしれない。


「――とても、興味深いわよ」


「はは、それならなにより」


即答するミア。


綺麗でも、美しいでも無く、『興味深い』か。

彼女らしくて良いな。



「戻って、きたんだ、ね」


「ああ」



樹が俺の手を握ってそう言う。

それは少し、恐怖の感情も含まれていた。



「樹……大丈夫だ」


「……うん」



灰色の土地という隔離された空間は、ある意味で過ごしやすかった。

そりゃバルドゥールやその環境は辛いものだったが……人はだれ一人いなかったからな。


だが――恐らくここからは確実に人が居る。もしかしたら、人間族以外の者もいるかもしれない。



『 王国はもうお前の敵だ』



転移前の、蘇るアルスの言葉。

彼のそれは、重く俺達にのしかかってくる。

樹も、同じく居るミアも。


あれから一ヶ月が経ったとしても、このとんでもない悪い噂というのは消えていないだろう。

いや寧ろ――樹が全く見つからないという事で、更に噂は酷くなっているかもしれない。



『一ヶ月』。



でも、俺達は――その一ヶ月で強くなった。

数々の道具。電気の力。増速駆動。合成……多くの武器を、俺は取得した。

樹も魔法をどんどん使いこなし、便利なものから強力な攻撃まで。そして回復。



自衛できる実力を……手に入れたつもりだ。


俺は、そう思っている。



「ふふ、頼りにしてるわよ」


「……へへ」



パン、と腰を叩くミア。

静かに服を掴む樹。



「お、おう……」



……うん、気が引き締まるな。


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