新たな始まり

シルマの一室。

俺の荷物をまとめて置いてある場所だ。


「……こんなもんかな」


出発の日を明日に控え、もう時間は夕方に近くなっていた。

俺は荷物は全部持っていくから、そこまで時間は掛からなかったが。


「これまで、色々あったなあ……」


鞄の中を整理する中で、いちいち過去を思い出していたからだ。

年季の入ったライター、折れたスタッフも、樹の施したブレスレットも。


あらゆるモノに俺は助けられながら、その力で戦ってきた。

自分だけじゃ……ここまで来れなかったな。



「ユウスケー!終わったー?」


「ああ!今行くよ」


鞄のチャックを閉じて、俺はミアの声の方へ行く。


「——っと、ミア……樹も、終わったのか?」


また別のシルマの一室。

ミアの部屋だ。


そこには、小さく荷物を纏めたミアと樹が居た。


……昨日の夜があるから、ほんの少し樹をまともに見れない。

本人はそんな事ないだろうが。



「ええ。……ユウスケ、何か変じゃない?」


「……」



そんな事を言うミアと、静かに笑う樹。


「というか......貴方が一番荷物多そうね」


「はは、確かにな。パンパンだよ」


同じ学生鞄を持つ樹と比べたら、それは一目瞭然だ。

まあ、色々と持っていくものがあるからな。


「……藍君、重くない?」


「あ、ああ。大丈夫。転移した先に宿があれば、そこに置いて行くし」


「……そっか。良かった」



樹がそう言うのに対して、俺は鞄を軽く持ち上げる様に見せる。

一応大分鍛えたと思っているし、この鞄ぐらいは全然重くは感じない。


樹は純粋に心配してくれているのに。

ぐいっと近付いた彼女に少し動揺した自分に、情けなさを感じる。


……いやいや、仕方ないって!



「……何かあったの、ユウスケ」


「な、何でもないさ」


「ふーん」


ミアは納得のいかなさそうに返事する。

意外と鋭いんだよなミアって。


「……もう、ここに居るのは最後なんだね」


「ええ」


「そうだな」


樹が鞄を見ながら、そう呟く。

出発の日はもうすぐだ。


荷物を纏めた今、その実感は強くなる。

……そうだ。


「……最後に、写真でも撮ろうか」


「いいわね!」


「……!」



俺以外の皆も乗り気なようで。

ちなみに少し前、ミアにはもう写真がどういうものかは教えた。

一瞬で理解した。物分かりが良すぎて驚いた思い出がある。



「あれ、でも一人が撮ったらその一人が入れないわよ?」


「はは、このカメラにはタイマー機能があるのさ」


「……もしかして、時間差で自動的にボタンを押してくれる機能があるの?」


「あ、ああ」


俺が得意げにそう言うと、ミアはそう返す。

……こういう所だ。実際、彼女は凄く頭が良いんだろうな。



「……んじゃ、場所は……」


「ここが、良いわ。あ!勿論他の場所でも撮って良いわよ」


「……」



ミアがそう言うと、樹は笑って俺に頷く。

そっか。ここは俺達がミアと出会った最初の場所だもんな。



「俺も、ここが良いと思う。んじゃ、撮るぞー」


「ーーえ?ちょ、ちょっとー!」


「……!」



程なくして、カメラのシャッター音が響く。

機灰の孤島——その最後の光景を、それに残しておこう。



俺の写真を見て、覚えたばっかりのピースを取るミア。

その横で笑う樹。

バックには、部屋の窓から見える綺麗なエニスマが見える。


長い時間を過ごしたこの土地も、これで終わりだ。



「……さようなら」



小さく俺は、呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る