戦車




「――まずい!樹、捕まれ――『充電』!」


「――!」




樹を抱え、雷電を纏い跳んだ。


その後、背後で響く爆発音。




「……なんだよ、この威力……」



見れば、すぐ後ろにはクレーターのようなものが出来ている。


一瞬判断が遅れていたら、恐らく巻き込まれていた。


そう考えると恐ろしい。



「樹は、隠れてろ」



戦車と対峙し、俺は樹にそう言う。



「……!?」



樹は杖を構え、反抗の態度を取る。


違うんだ、樹。



「――頼んだぞ、樹」



言葉を変える。



「……!」



ハッとする樹。



そうだー―この戦闘は、樹が居ないと、恐らく勝てない。



だから、樹には隠れてもらう――その時まで。


その時まで、俺が最善の『お膳立て』をする。



「かかって来いよ――俺が相手だ!」




――――――――






俺は走り、戦車に接近。


同時に樹と逆方向に誘導する。


樹に気付かれたら、この戦闘はかなり不利になる。




「――――!――!」



「――連打出来るのかよ!」




戦車は、その砲塔から連続で二発。



凝縮された魔力の弾だ。



魔力はこんな風にも使えるのか――




「っ、危ないな」




なんとか雷電のスピードで避けるものの、近付けない。


樹の攻撃までに――あの馬鹿でかい砲台を何とか破壊しなくては。





「――――!」



俺は少し戦車から離される。


一瞬貯めたと思えば、先ほどよりも大きな魔力弾を発射する戦車。




「くっ――」




何とか避ける。


思っていたよりも、『発射』の間隔が短い。


見た目では隙がありそうなのに、攻めようとしても攻め切れない。



俺の雷電は、スピードはあるものの破壊力はない。


雷撃も、装甲が厚いモノには効かないことがこれまでの戦闘で分かっているし……何よりも、燃費が悪い。


だから、攻撃の際にはどうしても炎の力を使わなければならない。



この調子じゃ、避け続けるだけになってしまう。


タイミングを図って、何とか一撃加えなければ。





「……いや」





『魔力弾』。


『爆発』。


『砲塔』。




……上手くいけば――アレを、無力化出来るかもしれない。







「――――!」



タイミングを、覚えるんだ。




「――!――!」




アイツが発射するタイミングを。




「『増幅』――『付加』!」




雷電を切り、蒼炎を纏う。




「――――!」


「ぐっ!」




スピードが落ちたせいか、爆発に少し巻き込まれる。




「――っ!!」




だが――構っていられない。


俺は吹き飛ばされながらも、スタッフに刃を宿す。





「――――」




発射に向けて、貯める戦車。


そうだ――この距離なら、お前は『貯める』んだよな。




イメージする。


この刃を――あの砲先に。



『発射』する。





「――『飛刃』!!」




詠唱とイメージが重なり合う。



共に剣を振れば、柄から炎の刃が切り離された。






爆発しろ――――その砲台の中で!





「――――――――――!!!」




真っすぐ飛んだ炎の刃は、戦車の発射のタイミングで砲先に突っ込む。



同時に、砲中で爆発した。




「やった――」




戦車は、明らかに怯んでいる。


砲台は完全に壊れてはいないが――数秒ぐらいは何も出来ないはず。


今が好機――




「――樹、今だ!!」



「……!」




俺は樹に叫ぶ。




一拍。




――コイツの魔力弾など小さく感じる程の魔力が、更に『爆発』したように増大する。



増大。増大。増大。



留まる事を知らぬほど、俺の背中で魔力を込める樹。






そして。





「―――――『聖十字』――」





小さく聞こえた樹の詠唱。



同時。



後ろの魔力が、フッと消えて――





戦車の頭上。



十メートル程上、造られたのは――巨大な『十字架』だった。



見惚れるほどに美しく、聖色に輝くそれは、完成すると同時に落下し――





「――――!!!――――……」



上から戦車の装甲を突き破り地面に突き刺さる。



その光景は、文字通り戦車の墓標を作り上げたかのようで。



輝く十字架は、消えることなく戦車を封じ込めている。






もしこれでまだコイツが動くのなら――『最後の手段』を使わないとならない。



『アレ』は、出来るだけ使いたくない……今まで実践戦闘で使った事はないから。






「……大丈夫そうだな……」



やがて動かなくなる戦車。


俺の微かな不安は消える――まあ、この攻撃を食らえば当たり前か。




「それにしても、凄いな……」



思わず感嘆の声を上げてしまう。


あれだけ巨大だった戦車より更に大きな十字架が、目の前にそびえたっているのだ。


そして。



「……よ、よかっ、た……」



後ろから出てきた樹。


こんな小さな身体が生み出したのかと思えぬ程、強力な魔法。


こういうタイプの敵には、樹の大質量の魔法が不可欠だ。



俺一人なら、本当にどうなってたことか。


目の前の巨大な十字架を見て、俺はそう思う。



「助かったよ、凄い魔法だな」


「……」



俺の言葉に照れて、顔を俯ける樹。


本当に謙虚だな……樹は。





「――行こう、樹」


「……!」




塔はもう、すぐ目の前にある。



青く輝くその塔は、俺達を歓迎してくれるのだろうか。

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