仲間

俺は炎を徐々に消していき、着地する。


「着地成功、と。意外に行けるもんだな」


燃費は悪いが、空を飛べるというのは大きい。


今は難しいが……慣れれば結構方向転換や推進力の調整も出来そうだ。


「……」


名残惜しそうに背中から降りる樹。


はは、また飛ぶ練習する時にでも乗せてやるか。


「……さて」


俺は樹に向き直る。


「これからの事について、話そうか」


それはとても重要な事だ。


この先選択を間違えれば……俺達の命が危ない。


だからこそ、お互いに納得する方針を決めなければ。


「……」


頷く樹。その表情は真剣そのものだ。


「さっそく頼みたいんだが……さっきの壁、小さくで良いから建てる事出来るか?」


壁で身を隠せば、あの化け物に気付かれない……はずだ。


気付かれないと分かれば、大分これからが楽になる。


「……」


樹は頷くと、あっという間に壁を創ってくれた。


見事に、俺達二人に丁度いいスペースだ。


広すぎず狭すぎず。


「……はは、凄いな樹は。ありがとう」


そう言うと樹は顔を赤くし照れる。


自信、もっと持って良いと思うんだけどな。


「それで……気になってたんだが、その小袋は何だ?」


そう、一見樹は荷物ゼロだった。


しかし……腰に小さく、布袋を下げていて。


前まで見なかった荷物が、不自然だった。


「……」


樹は、思い出したように袋の紐を解き取り外す。


そしてその袋に手を入れたと思えば、なんと袋の何倍もある――俺の鞄が出てきたのだ。


「……なんだそりゃ」


俺は思わず口から漏れた、その時の表情は凄く間抜けだったんだろう。


「……ふふっ……」


片手で口を抑え、小さく笑う樹。


不意に見せた樹の笑いは、とても可愛らしかった。


って、そうじゃないそうじゃない。


「まさか……アルスが?」


こんな不思議な袋を持っていて、樹に渡したであろう人物。


思い当たる人物を、樹に問う。


「……」


頷く樹。


「そっか、まあそうだよな」


うん、予想通りだった。


それにしても、この袋はかなり便利だ。アルスには感謝しないと。


……見た目はただの小さい布袋なんだけども。


改めて、ファンタジー世界という事を認識させられる。


まさか諦めれていた荷物が再び戻ってくるとは、樹には感謝しないとな……


「……」


変わる事無く、静かに居る樹。


ここに来るまでに一体、樹の身には何があったんだろうか。


「……?」


不思議そうに、俺の顔を見る樹。


「はは、ごめんごめん。それでこれからなんが……俺達には食料が無い。だから、食料を見つける事が今一番大事だと思うんだ」


俺の言葉通り、人間の三大生活要素である衣食住の内、『食』が無い。


衣は今着ている物があるし、住は樹のこの聖壁で……なんとかなると思う。


「……」


頷く樹。多分これは、俺が言わなくても分かっていたんだろう。


「よし、なら食料探しが最初の目標って事で」


「……」


大きく頷く樹。


「頼りにしてるからな。樹」


俺は本心から、真っ直ぐ樹を見て言う。


この世界で……共に生きる、共に戦っていく仲間として。


俺は樹を頼りにする。


「……っ」


恥ずかしいのか顔を紅くし、俯く樹。


はは、こういう所は変わってないか。


「よし、行くぞ!」


「……!」


俺達は、灰色の大地を歩きだした。

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