会話

目が覚めると。


「あ」


こちらを見る、樹と目があう。


……うん、状況を整理しろ俺。


ここは、意識を失った時と同じ場所だ。


時間もそうたっていないように感じる。


その筈なのに、感覚から魔力は十分俺の中にあった。


そして仰向けで倒れているようだが、後頭部が痛くない、というかむしろ心地よい。なんか柔らかいし。


疲れたしもうここで寝て……っと危ない危ない。


ここまでの事から推測すると。


樹に魔法か何かで魔力を回復してもらって、その上今まで膝枕をしてもらっているということになる。


「ご、ごめんな」


俺はそう言ってから、仰向けから身体を起こし、立ち上がる。


「……」


激しく顔を横に振る樹。


「そっか、ありがとな。……取りあえず帰ろう」


そう言って、正座のままの樹に、手を差し出す。


俺の手を取って、立ち上がる樹。


……あれ?


樹さん、手、離さないの?


「……」


黙って、俺の手を握る樹。


……俺が来るまで、あんな目にあってたんだ。


人肌が恋しいんだろう、そりゃそうだな。


「行くか」


俺がそう言うと、樹は黙って頷く。


手を繋いで、俺達は魔法訓練所を後にした。


――――――――――――


外はもう、真っ暗だった。


涼しく、誰もいない廊下を歩いていく。


樹は、安心したような顔で、隣を歩いている。


しばらくして、久しぶりに『会話』をしたくなった。


「樹、お前が俺に魔力を?」


頷く樹。


「はは、そっか。回復魔法って便利なんだな。魔力も回復出来るとは」


実際、凄い事だ。魔力を回復出来るとなれば、あちこちに引っ張りだこだろう。


「今回みたいなこと、他からされてないよな?」


頷く、樹。


「よかった。本当に……」


前の世界では、樹をいじめていたのはクラスの一部だった。


その一部は、山本が中心となっていたグループ。


他にいたらそいつらも……と考えていたが、大丈夫だったようだ。


山本は、今回の件でもう完全に樹に近付くことは無いだろう。


万が一で、雫や春樹にも言っておくが。


もう、これから先、樹は大丈夫だろう。


「暫く俺がいなくても、平気だよな」


何の気なしに言った言葉。


それを告げた時、樹の手を握る力が強くなった。



……帰ったら、ちゃんと言わないとな。


そのまま俺達は、歩いていく。

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