蒼炎

駆け出すと共に、身体中に宿る火を、俺の腕へと収束させるイメージを。



「『集』」



唱えると共に火は、身体から一度離れて腕へ集まり。


集まったそれは炎となって、俺の腕で蒼く燃え上がり、立ち昇っていく。


魔力の増幅により、消耗していく意識を繋ぎ止め、その腕を振りかぶった。


瞬間、厚く、高い波が俺を覆い、視界が真っ暗になる。


――この壁を、ぶち破って見せる。


波へもう飲まれる程になった時。


俺は蒼く燃える拳を、波へと出せる力の限り振った。



「ぐっ!」



拳が水に触れた瞬間、とてつもない音と衝撃が、俺を襲う。


正真正銘、これが、最後。


――今こそ、俺の出せる力、全てを。


魔力を限界まで引き出せば、炎が俺に応えるように、蒼く燃え上がっていく。


……これなら。


俺は、そのまま『蒼炎』を振り抜いた。


―――――――――――


炎と、水の衝突。


爆発音と共に、目の前の壁は消え去った。


大量にあった水はもう、全て無くなっている。


……ギリギリ俺の勝ち、か。


俺は丁度、魔力が尽きたらしい。


腕の蒼炎が、役目を果たした様に消えていく。



「っ!」



同時に俺を、激痛が襲った。


当然だろう、魔力はもうほぼ0だろうしな。


……だが、しかし。


まだ、倒れるわけにはいかない。


激痛に耐え、なんとか意識を持たせる。


目の前には、唖然とした顔の山本と、こちらを見る樹。


樹は、まだ泣いているように見える。


……さっさと終わらせるか。


俺は、歩く。



「は、はは嘘だろ、おい」



虚空に嘆く山本。




「なんだよ今の、何が起こったんだ、ふざけんじゃねえ……くそが!藍お前何やったんだよ!あの波を返せるわけねえ!」



「……」



狂ったように叫ぶ山本へ、無言で近づく。



「お前なんて、魔法適正も何もかもゴミで使えねえくせに!魔力量も固有魔法も――」



「――歯、食いしばれよ」




拳を握り締め、騒ぐ山本の顔を思いっきり殴る。



「がっ!」



悲鳴を上げ、転がる山本。


ふと、後ろを振り返る。


……あの二人組は、もういないか。


逃げたんだろう、扉が開いている。



「くそっ……くそっ……」



転がったままの姿勢で、睨んでくる山本。


その『視線』は、見覚えが有った。



「……お前か、ずっとこっちを見てたのは」



「っ……」



そう告げると、黙り込む山本。


……まあ、いいか。


俺はもう流石に、そろそろ限界だ。



「樹に、手を出すな」



そう告げてから、転んだままの山本へ近づき、背中に手を当てる。



「なにを――」



お前ももう、魔力は限界だろう?



「『増幅』」



本来の使い方とは違うが……魔力の増幅の、副作用である。


言い様のない気持ち悪さが、山本を襲っているはずだ。


直に魔力が尽き、山本も意識を失うだろう。


……はは、本当に、『支援』なんて到底無理だな。



「……っと」



気が抜けたのか、一気に意識が削れていく。


ふらつく足を進ませ、樹のいる方向へ。


だがいつの間にか、樹の方からこっちへ来ていたようで。


目の前の樹は、もう涙を流しておらず、こっちを真っ直ぐ見ていた。



「い、つき……」



なんとか、声に出す。



「お前は、俺が――」



意識はもう限界だった様で。


言い終わる前に、俺は前に倒れてしまった。


それを樹に、抱き止められる。


安心する温かさが、俺を包み込んでいく。


そのまま俺の意識は、遠退いていくのだった。



「藍、君、ありがとう」



暗闇の意識の中、そう聞こえた気がした。

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