『勇者召喚』


俺は、何が起こったかわからないまま、瞑っていた目を開けていた。

大理石か何かの白く美しい素材で出来た建物。見渡してみるとこの建物の巨大さがわかる。雰囲気も見た目も、本で見た大聖堂とそっくりだ。


俺たちは、台座のような場所に全員集まっており、みんな呆然として辺りを見回している。あの教室にいた全員が巻き込まれてしまったようだ。


まずこの状況を把握するためには、俺たち以外の人間を探す必要があるのだが――居た。

台座の前に、いかにも王女様って感じの美人が一人、その従者が十人という感じで、両方ともかなり喜んでるのが見える。そしてその美人が、俺達に向かって口を開いた。



「よくおいでくださいました、勇者様方」



こんなことを言われても呆然とするばかり。さっそく王女様の美貌に魅せられている男子もいるが……



「申し訳ない、僕たちに何が起こったのでしょうか?」



隼人が言いたい事を言ってくれた。

こういう所は頼りになるよな。

分かっていたかのように王女は小さく頷くと、



「貴方方には私たちを救っていただきたいのです。詳細は国王が話しますので、ついてきてくださいますか?」



隼人もとりあえず従うことにしたようだ。他も隼人に同じ様子。

俺もそうするしか出来ない。



「待ってください。私たちは元の所へ帰れるのですか?」



と、声をあげたのは雫だ。

この場全員が気になる事だろう。



「そのことについても、国王がお話いたしますので」



雫はそれを聞いて分かりましたと言うと、それ以降は誰も質問はなかった。

そうやって、俺達は、たどたどしくも王女と神官についていったのだった。



――――――――――――



歩く事10分程。

俺達は大広間に通された。壁には歴代の国王っぽい似顔絵が並んでいる。


こんなのアニメぐらいでしか見た事ないが、実際に見るとすげーな……

そして国王と思われる人物が出てきたのだが、いい感じのお爺様って感じだ。



「始めまして、皆様。混乱されているとは思いますが、全部説明させていただきますので、お聞きくだされ――」




と、そのお爺様は色々と話してくれた――






この人は、『王国ヴィクトリア』の国王で、名をグスタフ・アドルフ。

案内してくれた王女の名は、マーリンという。


この世界の名は、『サテト』――あらゆる種族が存在する世界。

俺達は人間族であり、この国王や王女も人間族。


そして人間族はこの世界の東を支配し、魔人族は西を支配している。

そんな東と西で、人間族と魔人族は昔から戦争をしていたのだが。


これまでは人間族が『数』で勝ち魔人族側が『質』で勝っていたため、お互い拮抗していた。だが最近になって、魔人族側の動きが活発になっており、数でも押されかけている。


さらには、魔物……動物とは異なる化け物が活発に発生しており、このままでは人間の存続が危ないという。


そんな時、神官の一人が、人間が崇めている神『ヴィナレスト』から『神託』を聞いたと言う。それは、古より封印されてきた召喚魔法を使用せよ、とのこと。


この召喚魔法は、違う世界の人間を召喚するという魔法である。

その世界の人間が召喚されると、その人間は強い力を持った『勇者』となる。


しかしこの魔法は異世界への道を開くことと同じであり、リスクも大きい。

この魔法に失敗した場合術者は死亡し、またこの魔法は王家のものでしか行えないというものであった。


大昔、この召喚魔法を行った時は、失敗してしまい王家の人間が亡くなった。

それからは封印されてきたのだが、神託が王家の人間に伝えられたとき、王女がこのまま種が滅ぶならばと志願し、術者として魔法を行ったのである。


そうした経緯で行い成功したのだが――こんな若い、それに大人数を召喚出来た事は大変喜ばしい事であるらしい。




……という事を、つらつらと話した。

案の定、クラスメイトが戦争とか冗談じゃないとか、早く帰せよと騒いでいる。



「すいません、質問があるのですが……ここが私達の住んでいる場所ではない事は分かりました。私達は元の世界に帰れるのですか?



先程の質問を、国王に投げかける雫。

それを聞いた彼は……難しそうな顔をして口を開く。



「行った召喚魔法については帰す方法は記しておりませんでした。また分かったとしても今回はヴィナレスト様の神託によっての補助がありましたので、成功したようなものです。分かったとしてももう一度ヴィナレスト様のお力を借りる事が出来るかどうか……」



確かに人間の力で行えるとも思えない魔法だしな……

帰れないとは限らない。それでもその可能性はかなり少ない。


そんな所だろう――



「おい!ふざけるな!」


「なんで俺達が戦わなきゃいけないんだよ!」


「私、怖い……」



騒ぎ立てるクラスメイト。俺も叫びたいぐらいだ。


その声は増幅し、国王や王女、その従者に大量の怒声が飛んでいく。

顔をしかめる中――静まるのをただ待っている様だ。


これじゃ、いつ収まるか――



「――!」



騒ぎが収まらないまま5分程経った後、隼人が机を場内全体に聞こえるように叩いた。

一瞬で静まり返るクラスメイト達。


それを確認した隼人は、静かに皆を見渡しながら言う。



「聞いてくれみんな。……僕は、この世界の人達と戦おうと思う」



それを聞き、また騒ぎ出すクラスメイト。それを手で制止し、また口を開く。



「この世界の人間が滅亡の危機にあって、それを救うには僕達の力が必要なんだ。王女様が命をかけてまで呼んだのに、それを放っておいて助けにならないのは駄目だと僕は思う」


それは彼の素質か――そのカリスマにクラスメイト達が反応していく。

そして……それに、と付け加えて。




「きっと――人間を救うために神様に召喚されたなら、助けてしばらくしたら、もう一度神様が力を貸して元へ帰れるはずだ」



まだ場内は静かだが、雰囲気が変わっていく。すると王様が言う。




「確かに、召喚してそのままとはなりますまい。ヴィナレスト様もそんな事はしないでしょう……」



「だそうだ皆、それに俺達は強い。ですよね?」



「そうですなあ。貴方達は強い。鍛錬すれば、この世界を救える程に強くなれるはずです」



アドルフさんがそう言う。



「よし、それならきっと大丈夫!皆も僕についてきてくれないか?この世界の人々を救って、家に帰ろうじゃないか!皆でこの世界を守って、英雄になろう!」



彼のカリスマがフルパワーで発揮され、次々と立ち上がっていくクラスメイト達。

皆活気が溢れ出し、元の元気な姿へとなっていっている。


隼人はもともと女子人気は凄まじかったのだが、女子の半数以上が、隼人に熱い目線を送っているようだ。



「私もやるわ。帰れる方法は多分それしかないんだしね。」


「雫!一緒に頑張ろうな!」


「おいおい俺達も忘れるなよ。頑張ろうぜ隼人」


「俺もやってやる!」


「わたしもがんばる!」



隼人グループが次々と賛同していく中、それ以外も賛同の声をあげているようだ。


拍手する国王と王女。

俺は――何とも言えない気持ち悪さを感じていた。

まるで、この人達の、筋書き通りに事が進んでいる様な。


考えすぎか?……でも、どうしようもないんだ。


なるようになる。きっと――

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