日常から、異世界

異世界転移は突然で


 俺、藍祐介あいゆうすけは、始業時間ギリギリで朝の教室へと到着した。


 教室に入れば、男子や女子からの嫌な視線が出迎えてくれる。

こんなにも皆から避けられる原因の一つとして、俺の外見が挙げられるだろう。

単純に――俺の髪色が茶色ってだけだけどさ。


 席についた俺は、いつものように隣席の女の子、神野樹かみのいつきに声をかける。



「おはよ、元気か?」


「……」


「明日は休みだな」


「……」


「……」



……俺まで無言になってどうするんだっての。



樹はショートカットで、前髪が長く目が隠れた変わった髪型の背丈の小さい女の子だ。そして、無口すぎて今まで声を聞いたことがない。こうやって俺が一方的に話しかけているだけ。


――彼女は俺が転校した時から隣席にいたが、最悪な事にクラスの一部からいじめを受けていた。

俺が隣にいるからやりにくかったんだろうが……それでも俺が転校してから数日後にいじめを受け、それを見た俺が止めたのだ。


止め方のせいか俺が恐いのか分からないが、もう樹には誰も手出ししないようになった。

その騒動で軽い付き合いのあった友人は離れていったが。


だがまあ、その事については一切後悔なんてしちゃいない。

樹に何かしようとする奴らは消えたわけだしな。



「……」



無言の彼女。

何となく……ほっとけないんだよな。


後――



「よう」


「相変わらずだね」



先に声をかけて来た方が尾上春樹おがみはるき

身長が高く、筋肉質のベリーショート。中身は賢いのかアホなのか分からない。

ただあの件からも俺に仲良くしてくれているのだから、凄く良い奴だ。


もう一人が二ノ宮雫にのみやしずくといい、このクラスの委員長。

綺麗な黒髪を肩より下まで垂らした眼鏡美人だ。 

そのままでも美人なのだが、眼鏡を外した時は女神とまで言われているらしい。



 ……と、この二人のように仲良くしてくれている良い友人もできた。この二人とは趣味もよく合う。明日は休みって事で、三人で映画に行く話だったな――



「……明日の事忘れてないよな?」


「忘れるわけないでしょー?楽しみよね」


「はは、本当にな」



 春樹も雫も楽しみなようで何より。


 ……しかし、さっきから俺に対する周りの男子の視線が痛い。

理由は分かる、そんな関係じゃないってのに。



「……もう朝礼か、また後で明日の事を話そう」


「はーい」


「おう!」



 やっぱり話できるのって良いなあ…なんて考えながら、俺は授業を受けたのだった。




 ――――――――


 ―――――




 授業も終わり、そんなこんなで昼休みを向かえ樹と昼飯を食べていた。

いつも雫と春樹は違うグループで食べているので、彼女と二人。



「……おい!」



この学校に転校してもう一か月。

流石にそろそろ声が聴きたい所だけど。



「おい、聴いてるのか?」



まあ、無理は強いるべきじゃない。

声出せよなんて言ったらもう終わりだ。



「返事しろって」



 ……ああ!うるせーな!


 ってああ、こいつは――



「ごめん考え事してたんだよ。どうかしたのか?」


「……ったく。いつも言ってると思うが、雫とは話すな」


「はあ?」


「僕は雫がお前みたいな不良と話しているところは見たくない。雫は俺の大事な幼馴染なんだよ。だから――」



この男は、一寺隼人いちでらはるとだ。

学年に一人はいる完璧超人のイケメン。

欠点で言えば、一々俺に突っかかって来る事。


 雫達のグループにいたと思ったが、また来たのか……あ、雫がこっち来た。

……あいつも大変だな。



「ああうん、俺と雫はそういう関係じゃないから安心しろ。というかうるさい」


「ごめんね祐介君……ほら隼人、迷惑かけないで」


「まだ話は終わってな――」



 おーおー、さすが雫だ。あっという間に連れて行った。



「はは、ごめんな樹。うるさくして」


「……」



 そんなことないって?樹は優しいな!

 ……さて、放課後まで頑張るか。



 ―――――




 放課後になり。



「とりあえず明日は一時ぐらいでいいか?」


「うん」


「おう」


「わかった、おっと…じゃあなー、昼の一時に駅前で」


「「おー」」


「おい雫、明日何か……」



 雫達と軽く明日のことについて話し終えたあと、隼人に絡まれないうちに離れる。


 そのまま、かばんを持って樹とまだ騒がしい教室を出ようとした時に……『それ』は突然起こった。


 床下に光が生じ、それは教室全体へ。

 勢いはずっと増して、魔法陣のような形となりながら広がっていく。


 教室にいた全員が唖然としている中、その魔法陣はさらに輝き続けている。

 第六感がここから離れるように言っているが、体が動かない。


 どうなってんだよこれ――



「なにこれ!?」


「おいおいどうなってんだ」


「おいこれ、魔法陣ってやつじゃ――」



 騒ぐクラスメイト。


 無常に過ぎる時間。



 逃げ出そうにも、全員がその場にいた。



 ――そうして、魔方陣が急に消える。



 同時に。


 俺たちは――この教室からいなくなった。

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