第十八章 『始まりの終わりの始まり』

第十八章

 ここまで和樹や愛の関わってきた出来事を見ていただけたでしょうか。

 そうであれば、何が間違っていたのかそろそろ分かってきたと思います。

 今回はその話をさせて頂きたいと私は考えております。


 しかし、その前に。いくつか確認させていただきたいことがございます。よろしいでしょうか。


 では、お聞きしてまいりたいと思います。


 はじめにお聞きするのは『高無愛』という女性についてです。彼女はこの度の件の重要な鍵を握っていました。そして、双子の妹である『舞』という存在がいたことになります。

 彼女は成和村で生まれ、三歳で妹と生き別れになります。その後、父との確執もあり、縁を切るような形で大学に進学、小学校教諭となりますが、妹を探す資金の調達のために体を売り始めます。そんな最中に一人の男と再会して子供を授かります。男は妻子持ちだったがゆえに彼女の方から身を引き、成和村での出産を決意します。そこで予期せぬ出会いがありました。妹の舞です。

 愛は舞と娘の唯と三人で幸せに暮らしていましたが、ある日、尋ねてきた青年、『柴田和希』によって殺害されてしまいます。とはいえ、これは不幸な事故が重なったもの。そう彼女は解釈していたようです。


 これが愛の足跡になります。そして、彼女の持っていた不思議な力は唯へと引き継がれたのでした。


 このことはすでにおわかりですよね。


 続いて唯の話をさせていただきます。

 唯は高校卒業後に就職。そこで出会った男性と将来を誓い合う仲になります。しかし、彼女は末期のガンに侵されていることがわかります。妊娠中だった彼女は子供の命か自らの命かの二択を迫られますが、彼女は子供の命を選択。予知夢で見たことを実現するべく行動しますが途中で力尽きてしまいます。彼女は死ぬ前に出産し、その子を施設に預けていました。まるで自分の運命を知っていたかのように。

 施設に預けられた子供は『高梨和樹』と名付けられ、健やかに育ちます。後に柴田家に引き取られ、名を柴田和樹と改めました。


 ここまではよろしいでしょうか。


 ではお聞きします。


 これまで見て頂いた世界の中で、絶対に起こり得る事象がありました。それがここまでに述べた内容になります。

 この流れでは一部の可能性の世界を除き、良い結末は得られません。前章では良い結果が得られているように見えたのかもしれませんが、一つの世界を犠牲にした結果です。本当に価値のあるものなのか疑問です。


 一方で、不確定な事象もありました。舞と亜衣、麻衣、そして和樹の行動です。


 まずは和樹の行動に注目します。

 今回語られたのは全て彼が大学院二年生の出来事でありました。彼は就職活動中に家族ともども事故に遭遇してしまうのです。これは和樹が存在するしないに関わらず発生する事象です。ただ、この結果に幾つかの違いが見られるのです。

 まず今回語られた左腕を失いながら生き延びる事象、軽傷であった事象。そして、語られてはいませんが他の事象も存在しています。


 次に亜衣の行動です。

 彼女は基本的には自ら和樹に接触を持つということは少ないようです。これはどの世界でも殆ど変わりませんが、和樹と麻衣の行動により変化が見られるようです。そして、和樹との接点が大きかった場合、前章のような事象を引き起こし、逆に接点が小さかった場合は単独行動により最終的には死に至ります。

 ただ、この事象は全て愛=亜衣であった場合の事象であるようです。


 続いては麻衣です。

 彼女は本来であれば無害な少女でした。舞の生まれ変わりとのようなことを言われてはいますが、実際のところそれを知っている人はいません。ただ、成和町の社で舞の生涯を見てしまったせいで、自分が舞の生まれ変わりだと信じてしまいます。もちろん、あの謎の声の女性がその原因に深く関わっていることは間違いありません。


 最後に舞についてです。

 実はここまでの話の中で最も複雑な話になります。そもそも、様々な世界で舞という存在は不遇の扱いを受けてきました。

 それは『高橋麻耶』という女性も同様です。


 まず、第一に。

 三歳の時点で死亡したのは舞なのか、麻耶なのか。

 実はどちらの事象もあり得たのです。今回見て頂いた世界の一つである高無丈夫の話。父親が娘を殺害してしまうという痛ましい話。実はあれが最も多く選択された事象でした。割合でいうと八割ほどでしょうか。残り二割のうちの半分ほどは麻耶が死亡する事象でした。ただ、どのような因果が働いているのかわかりませんが、麻耶が死亡した場合、ほぼ確実に舞が一年以内に死亡します。死因は様々ではありますが。そして最後に残った五分ほどの割合での事象です。これは愛が死亡するという事象になります。つまり、殆どの場合で舞が三歳の時に死亡するのです。そして、高橋麻耶の話として見て頂いた世界もこの舞が死ぬ世界の話になっています。

 そして、数え切れぬほどの世界の中で、ただ一度だけ起こった出来事がありました。それが、高無家が滅びる話になります。


 お分かりいただけたでしょうか。この世界に起こっている出来事の流れを。


 この中で考えた場合、亜衣と和樹が選択した手法が最良であったわけです。

 愛、舞、麻耶。この三人の命を守る。

 最善手を打ったと考えるべきであると思います。


 これで、この世界の話は全てです。






 え?

 嘘をつくなとおっしゃいましたか。


 はい?

 そもそも、お前は誰だとお聞きですか。


 ・・・では、まず私の話から。

 私は静。

 巴の姉でございます。

 かつては巴とともに双子の神と呼ばれたこともございました。


 ええ、その通りです。

 愛に話しかけたのは私です。

 なんとかこの世界を変えたかったのです。


 そうです。

 あの世界で愛と和樹に一つの奇跡を起こしたのも私の力です。



 ・・・そうですね。

 全てをお話しなければいけないようです。

 ですが、長くなりますよ。


 よろしいですか?



 わかりました。


 今からはじめましょう。

 未来を変えるための過去の話を。

 過去を変えるための始まりの話を。

 この成和町に伝わる『双子信仰』のすべてを。

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