第十七章 『幻夢』

第十七章

 これは夢だろう。

 そうでなければ幻だ。


 目の前に広がる光景。

 少女たちが楽しく走り回っている光景。

 どこにでもある光景。


 一人の少女の左目の下には泣きぼくろがある。

 一人の少女には泣きぼくろが見当たらない。

 一人の少女が木の陰から二人の少女を見ている。


 その姿はまるで三つ子のようだ。

 その少女たちに優しく話しかける一人の女性の姿・・・


 きっと、これが俺の見たかったもの。


 俺はそこまでを見届けるのが精一杯だった。

 揺らいでいく景色、そして遠くなっていく意識。

 徐々に聞こえなくなる少女たちの笑い声・・・




「今日も良い一日になると良いねぇ。」


 仏壇の中に飾られる老人と女性の写真を見て、老婆は呟いた。そして、階上からは目覚まし時計の音が聞こえてきた。



 けたたましい目覚まし時計の音と共に目覚めるとそこは見覚えのある天井だった。


「一輝っ、いつまで寝てるの?今日から授業が始まるんでしょう?」


 一階から母親の声が聞こえる。起きるべき時を告げる時計を左手で乱暴に叩き、騒音を止めた。


「一輝〜、いい加減に起きなさいよ?おばあちゃんも待ってるわよ?」


 うるさいなぁ。いいだろう?もう少し寝かせてくれよ。なんだか、久しぶりにいい夢を見たような気がするんだから。そんなことを考え至福の二度寝タイムに突入する。


「こら、一輝。ちゃんと起きなさいな。」


 そう言って俺の布団を引き剥がしたのは同居している愛ばあちゃん。

 可愛い名前をしているがなかなか厳しいばあちゃんだ。俺はばあちゃんにだけは何故か頭が上がらない。


「・・・はいはい。わかりましたよ・・・」


 そう言って盛大に欠伸をして起き上がる。


「返事は一回よ。全く・・・一哉さんも唯も甘いんだからねぇ。」


 一哉は父親、唯は母親だ。


「へい・・・」


「返事はハイでしょうっ。」


「・・・はい・・・」


 そう言ってフラフラと立ち上がり洗面所に向かう。その後ろ姿を優しく見つめる婆ちゃんがいた。


「一輝〜、早く準備しなさいよ?麻衣ちゃんが迎えに来てるんだから。」

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