第五章 その二

 家に着いてからは和樹に泊まってもらう部屋の場所を説明し、一緒に買い物に行くことになった。

 でも、その前に舞に話しておかないといけないことがある。


「ねぇ、舞?どこにいるの?」


 舞がそう声を部屋の奥に向かって問いかける。


「ここにいるよ、お姉ちゃん。」


 そう言って瓜二つの容姿をした女性が部屋の奥から子供を連れて歩いてくる。


「あ、良かった。ここにいたんだね。実はちょっと話があるの。」


「うん、なに?」


「実はね?さっき、バス停の近くで男の人に会ったの。」


「そう。」


 別段興味がなさそうに連れてきた子供と遊んでいる妹の舞。


「それでね?宿がないって困ってたから泊めることにしちゃった。」


 それを聞いて妹の舞の動きが止まる。


「え?ほんとに?」


 迷惑そうな表情を浮かべ姉の舞に問いただす。


「うん、ごめん。迷惑だったかな。」


 そう言って姉の舞は少し目を伏せる。


「う~ん、お姉ちゃんが決めたんだったらきっといい人なんでしょう?人を見る目はあるもんね。」


 そう言ってちょっとだけ意地悪な目線を向ける妹の舞。


「もう、また舞はそういうこと言う。確かに、お姉ちゃんは仕事柄いろんな人を見てきたけど。それだってすぐにわかるっていうわけじゃないのよ?」


 そう言いながらも楽しそうな表情を浮かべているお姉ちゃんと呼ばれている舞。


「ふふ、そうよね。でも、お姉ちゃんがこうして人を連れてくるなんて思わなかったから、ちょっと驚き。」


「・・・そうなのよ。それは私もそう思うの。」


 そう言って姉の舞はちょっと考え込む仕草を見せる。


「どうしたの?何かあったの?」


「うん、そう。あのね?舞。お願い聞いてくれる?」


「いいよ、お姉ちゃん。」


 もう一人の『舞』と呼ばれている女性はお姉ちゃんと呼ぶことがうれしくてたまらない様子だ。


「このあと、スーパーに一緒にお買い物に行くんだけど、できればその・・・舞も会って見て欲しいの。もしかしたら、私と同じ印象を受けるかもしれないから。」


「え?その男の人はお姉ちゃんと話してたんでしょう?いくら顔がそっくりと言っても、さすがにバレちゃうって。」


「大丈夫よ。ありきたりの話しかしてないし。それに就職活動でこちらに来たんですって。なんだか不思議よね。」


 そう言って、昔を思い出すかのように遠くを見る目をする姉の舞。


「そうね・・・私はこの村のことなんて知らなかったけど、お姉ちゃんにとっては故郷だもんね。こんなに田舎なのにね。」


「もう、田舎っていうのは余計よ。でも、正しいのよね。」


 そう言って二人で笑いあう。


「あ、いけない。もうすぐ待ち合わせの時間だわ。舞、悪いけど着替えてきてお買い物お願いできる?今晩はカレーにしようと思うの。だから、そのあたりの食材をお願いします。」


「うん、いいよ。あ、男の人の名前は?」


「えっと・・・和樹、柴田和樹って言ってたわ。」


「柴田和樹ね。わかったわ。じゃ、ちょっと上に言って着替えてくるわ。」


 そう言って舞は部屋の奥に走っていった。どうやら正面の階段以外にも二階に上る方法があるようだ。

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