寂夢 四 『生きてこそ』
第四章 その一
今年もまたこの日がやってきた。
今日は昭和48年6月3日。
舞がいなくなった日から20年たった。私は23歳になった。だから舞も23歳だ。
私は五歳のころから毎日毎日、社に通った。
双子の神を祀っているとされるあの社だ。父にお参りさせてほしいと頼んだら、五歳になったら一人でお参りに行ってもいいと言われ、それから雨の日も雪の日も毎日通った。
『舞が無事でありますように。』と、それだけを願っていた。
ある日、私は夢を見た。
夢の中での舞は笑いながら楽しそうに過ごしていた。夢ではあったけど私は満足だった。夢で舞と会うことができた。子供だった私はそのことを無邪気にそのことを父に伝えた。父は笑いながら『そうか。』と言って頭を撫でてくれた。
そして数年前、突然、あることに気が付いた。それは舞を感じること。何かがはっきりとわかるわけではなく、私の心の中にもう一人の私がいるような感覚。直感的にもう一人の私=舞だと感じられた。
それは私にとってそれは生きる喜びになった。
けれど、私が13歳の時。父は突然変わった。
私が社に行くことにも反対するようになった。そして、私が中学校を卒業するのと同時に、成和町を離れると言い出した。詳しい理由は教えてくれなかったけど、舞のことが関係しているのは明白に思えた。
私は納得できなかった。
この家と成和町は私と舞を結びつけるもの。心を感じることができても、どこにいるかわからない妹が帰ってくるなら、この家、この町しかないと思っていたから。
さらに父は私の進路も勝手に決定した。
全寮制の高校へ進学を決めたのだ。私は全力で逆らった。けれど、中学生の私にできる抵抗など、たかが知れたものだった。
結局は、町を出ることになってしまった。勝手に受験した高校には合格したが、入学の許可が降りなかった。これも父の働きかけがあったと私は思っていた。
私は毎日の日課である社のお掃除とお参りができなくなることもイヤだった。だから神様たちにこうお詫びとお願いをした。
「これからは毎日は来れなくなりました。でも、一年に一回は、私が生きている間は必ずお参りに来ます。だから、舞を守ってください。」
その時、私には声が聞こえた気がした。
『高梨舞は生きているが生きていない。だが、必ず会える。』
それはあるいは私の思い込み、願いだったのかもしれない。けれど、私にとっての希望の言葉になったことは間違いなかった。
父との関係はこの時を境に完全に冷え切ってしまった。
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