第三章 その三
私にはその手紙の内容を信じられなかった。いや、信じたくなかった。
両親は遺書のつもりで書いたわけではなかったんだろう。その証拠にその日の食事の準備がされていたし、事故で亡くなった時には私の誕生日のために買ってくれたプレゼントを持っていたのだから。
だからこそわからない。
私は一体誰なの?舞って誰なの?そんな人は知らない。
どうしてそんな重大な話をしないで死んでしまったの?
そう思った。恨みもした。でも、両親の顔を思い出すと心の底から憎むことなんてできない。
だって、二十年以上の私達の生活に本当にウソはなかったから。
学校に入学した時。
はじめて恋人を家に連れて行った時。
成人式の時。
就職が決まった時。
両親は心の底から喜んでくれた。祝ってくれた。それが嘘だとは思えないし思っていない。ただ、自分が誰なのか。それだけが知りたい。
私は調べた。それこそ必死に。私、高橋麻耶という人間のこと。
両親の葬儀の際にはあえて戸籍まで取り寄せて調べた。でも、そこには麻耶という名前が普通にあった。当たり前だ。私はなくなった『麻耶さん』の生まれ変わりとして育ったのだから。だとしたら、残された情報は『舞』という名前だけ。いまさらこの名前が私の名前だとは思えない。何の実感もないし。
でも、たった一つのヒントだ。だから図書館で昔の新聞を調べた。両親の話だと私が三歳の時の話だと言っていた。そうなると今から二十二年前。子供が事故死したという記事を探した。どこの地域の事故かもわからない。手当たり次第に探した。でも見つからない。もうあきらめよう、そう思ったとき、一つの記事が私の目に留まった。
『高無舞ちゃん(三歳)が昭和二十八年六月三日から行方不明。警察は事件と事故の両面から捜査を行っている。』
内容をかい摘むとこんな感じだった。時期も一致するし名前も一致している。これがきっと私のこと。そして私の名前は高無舞・・・涙が止まらなかった。ウソであって欲しかった。
そして、もう一つのことが分かった。私の双子のことだ。記事によると姉の『愛』という人がいるらしい。だから、さらに調べた。高無という家のこと。そしてようやく場所を突き止めた。
成和町というところらしい。そして、私の父であろう
私は高橋麻耶。そう、高無舞という人間は今も行方不明。生死もわからない。でも、失踪からすでに二十年。死亡扱いされているに違いない。愛に会ってみたい。私が名乗る必要なんてない。
そう思った私は、両親が残してくれたお金と私の貯金のほとんどをつぎ込んで、高無家の洋館を買った。幸いにして私の仕事は自宅でもできる仕事だった。今後生きていくことに困ることはないはずだ。そして今日、私は初めて・・・いや、20年ぶりくらいに生まれ故郷に帰ってきたのだった。
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