第23話姉の誤解
19-23
徹の自宅に行くと、家は戸締まりがされて開かない。
古い家を一廻りすると「あれ、ウサギを飼っているの?」と驚く昌子。
昔から生き物が嫌いで、犬も猫も飼った事も無かった徹がウサギを飼っている?
昌子はその事実だけでも驚きだったが、もっと驚く事実を目にして仰天の表情に成った。
家の中庭に女の子の服が、風に靡いて見えて、洗濯物が竿に通されて干して有ったのだ。
結婚して子供が生まれたの?何も連絡が無かったが、もう数年この家には来て居ないから、もしかして結婚も有るかも知れない。
年賀状も送らない、何故なら絶対に書かない徹を知っていたからだ。
昌子は徹と話したのはいつだった?母親の葬式の後、一、二度話をしたのが最後だったと遠い記憶を辿った。
昔も、東京か東北の女の人と結婚出来そうだと、母に話して楽しそうに喜んでいた。
それから、しばらくして話が立ち消えに成って、弟は変わってしまった。
母の響子の結婚話を楽しみにしていたのが無くなって、一気に衰えて亡くなった。
もう、十二,三年も前に母は亡くなっているから、ここに来たのは十年振りだわ、あの土地も徹が要らないと言うので自分が相続をした。
その時は此処には来なかったのよね、あの頃の徹は暗くて近寄りがたい存在で姉弟の仲でも気持ちが悪かったからだ。
昌子はしばらく、古ぼけた家の軒先の処に腰を降ろして、徹が戻るのを待っていた。
今日は日曜日だから、家族で買い物にでも行ったのか?子供が居るのなら遊びに行っている?自分の知っている徹では考えられない家族サービス?と色々な事を考えて待っていたが中々戻らない。
近くに家が無いので、近所でも数十メートル離れているので、何も知らないだろうと昌子は思ったが、結婚をしているのかは判るかも?と考えて近くの家まで歩いて行った。
安藤さんと云う家が一番近いのだが、老夫婦だけが生活をしているので、昌子が呼びかけても聞こえないのか反応が無い。
二、三度呼びかけてようやく老婆が出て来て、挨拶をすると「娘さんは、毛利さんの?」といきなり六十過ぎの自分を見て娘さんと言う。
相当痴呆が進んでいる様に見えるが「弟覚えていますか?」と尋ねると「お孫さんが生まれた徹君は元気だよ、今朝も一緒に出掛けたよ」と意味不明の返事に「奥さんは?」
「誰の奥さん?」と不思議な顔をする。
「徹の奥さんです」と尋ね直すと「奥さんは一度も見ないわね、おじいさん!」と急に奥のお爺さんを呼ぶ。
中から腰を曲げて「奥さんは一度も見ないが、孫は可愛い女の子だな」とこのお爺さんも意味不明な事を口走るので「お孫さんのお母さんは?」と尋ねると「お爺さん、見た事有る?」と逆に尋ねる老婆。
昌子はお辞儀をして、持っていた手土産の菓子折りを差し出すと「悪いね、徹君は定年に成ったから、毎日自宅に居るよ」とまた変な話しをし出したので、お辞儀をして昌子は安藤の家を出た。
ここの家で判らなければ、別の家ではもっと判らないだろうと、徹の家に戻って、メモ書きを扉に挟もうと、隙間を探す昌子は扉の隙間から、家の中を見て「えー、中は綺麗に成っているわ」と独り言を言ってメモを挟んで徹の家を後にした。
帰りながら、やはり奥さんを貰ったのだわ、あの綺麗な室内はそうに違い無いわ、あの変な弟に嫁が来るなんて、変な人もいるのだと思いながら帰って行った。
夕方戻った徹はそのメモに仰天をした。
(結婚して、子供が生まれたのね、おめでとう 姉 昌子)と書いて有ったが、洗濯物を見られたと徹は直ぐに判った。
近所に尋ねに行った?でもあの老夫婦は痴呆が進んで、先日もお辞儀をすると「可愛いお孫さんですね」と言われたから、安心をしていたが、呆けているから尚更変な話しをしていないか心配に成る徹。
だが変に確かめに行くと、あの痴呆に覚え込ませる事に成るので、行かない事にする徹。
勿論姉の昌子にも何も言わないのだ。
和歌山県警と兵庫県警はもう一度最初から再捜査を開始した。
捜査会議に先立って和田は自分の考えを纏めていた。
判っている事は、六十代の禿げ頭の男性、車の車種、長谷川昌子の土地を知っている人間、小豆島の前田佃煮も知っている。
和歌山の夜間救急センターの診療範囲に住んでいる。
和田はこれだけ沢山の情報が有るのに何故?網に入らないのか?あの住所は長谷川昌子の名義に成って日は浅い、それ以前なら加藤一次の関係も充分に考えられる。
前田佃煮?和歌山?逆に被害者から見れば、前田佃煮は実家から近い、和歌山には麻由子も真三も縁もゆかりもない。
だが、唯単に清水の様に姫路の動物園で凜ちゃんを見て、可愛いいだけでは誘拐はしないだろう?可愛い子は他にいるのではないだろうか?身代金の要求は一切無いから、営利目的ではない。
誘拐の決め手は今の処、状況証拠と夜間救急センターの渡辺さんの証言のみだ。
その後の合同捜査会議で以下の事柄が確認された。
①誘拐の決めては女児に興味を持つ変質者?
②前田佃煮の所在を知る人物
③長谷川昌子の土地の住所を知る人物
④凜ちゃんに的を絞った誘拐
⑤夜間救急センターの渡辺さんの新たな証言で、六十代の男性は変質者に見えなかった。
「最後の証言は、我々の考えを変えるのでは無いでしょうか?」と和田刑事が発言すると「後は、麻由子か真三に対する恨みの可能性です」
「恨みですか、そんな人間が見当たりませんがね」と姫路警察の田所が発言すると、藤井が「もっと以前は考えられませんか?」
「もっと以前と思う理由は?」
「麻由子が風俗に働いていた時代が有ったのは、我々も知らない位ですから、捜査は手つかずです」
「でも十五年も前だ、そんな昔の事を今頃?」
「ナイトインブラックのリストもう一度詳しく調べて見ます」
和歌山県警は変質者と前田佃煮、長谷川昌子関係を調べて見る事に成って、兵庫県警は麻由子と真三の過去の調査。
姫路警察は役所と店の関係者を再調査する事に成った。
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