第21話誘拐犯刺される

 19-21

偶然は恐ろしい事を時に引き起こす。

前田佃煮の運転手荻野が和田刑事達に偶然会って、写真を偶然見てしまった。

それは子供を連れた清水の姿だったと話した事で、事件は意外な方向に進んでしまった。

フェリーの到着を待ってもう一度引き返す和田刑事達は、真夜中の出港までに自宅に戻って着替える晶子、県警に戻って報告をした和田刑事だ。

往復八時間の船旅は流石に三人には疲労困憊状態に成ってしまった。

和田が小豆島の警察に、清水宗平の事を説明して捜索をしてくれる様に頼んだ。

その時、和田は麻由子の子供で、麻由子の現在住所も小豆島の警察に教えたのだ。

麻由子の子供の写真が手元に無い小豆島の警察は、早速麻由子のマンションに急行して、凜の写真を要求した。

麻由子に事情を説明してから写真を貰って、世の中の話題に成った事件だから自分達で解決するのだと、焦っていた。

香川県警小豆島警察の五~六人の警官が、早速土庄港近辺の捜査、聞き込みに入った。

既に、和田達が連絡してから六時間以上が経過して、沢山の警官が捜査に参加していた。

和田達が到着するのは、翌朝の七時半、小豆島の警察はその時間迄に清水の居場所を探し出して手柄を立て様と必死だった。

夜の土庄港近辺の聞き取り調査が進む。

清水の人相と幼女を連れていると云う情報は、意外と簡単に聞き取りで明らかに成っていった。

和田達がフェリーに乗り込んで、船が岸壁を離れた頃「寿荘に清水に似た男が幼女と住んでいるらしい」

「こちらの、情報も同じだ」

「間違い無いな」

「もう、寝ているだろう、今なら逮捕も救出も出来るな」

「明日の夕刊は俺達の記事で、一杯に成るな」

「兵庫県警は、まだ来ないだろう?」

深夜の警官達は英雄気取りで、清水宗平の住むボロアパート寿荘を包囲した。

その様子を物陰から見ていた人物が居たが、総ての警官はその人物に気が付かなかった。

二時を過ぎて、警官が突入しばらくして、寝込みを襲われて、清水はパジャマ姿で取り押さえられた。

一緒に寝ていた幼女は直ぐさま、助け出されて救急車で病院に搬送された。

暗闇の中での騒ぎに付近の住民が大勢、何が起こったのかと路地から、道から集まって来て昼間の様な人混みに成っていた。

警官に両脇を抱えられながら歩く、勝ち誇った様な警官達。

「幼女の誘拐犯だって」

「ようやく捕まったのね」

「まさか、こんなに近くに潜んで居たなんて」

「常習犯らしいわね」

「子供、大丈夫なの?」と取り囲む住民達が口々に色々な事を話会う、真夜中の三時。


フェリーの中で熟睡の三人、和田の携帯が鳴って飛び起きる三人。

「清水の身柄が、警察に確保された様だ」

「清水は子供を連れていましたか?」

「女児も病院に搬送された様だ。香川県警は自慢の様に連絡してきたよ」

「まあ、兎に角良かったですね、事件が解決して」

「我々の失態だけが、残った事件だったな」

「残念ですが、清水を確認して、南田麻由子さんに報告して、凜ちゃんの無事を見て貰いますよ」

「頼むよ」小南課長の連絡が終わり「清水は逮捕で子供は病院に搬送されたらしい」

「良かったですね」山本が言うと晶子が「あの夫婦元に戻れるのかしら?」

「そうだな、自分達だけなら解決出来ただろうが、世間に知られているから困難だろうな」と事件後の話を少しして再び眠りに就いた。


徹は毎朝六時には起きて、凜の食事を作って一日の遊びの準備をする。

時々外出して、公園、山、海、そして最近ではテーマパークにも足を伸ばす。

人混みの中に入ればお爺さんと孫娘の様に見えるので、中々指名手配の男と誘拐された凜には見えない。

帽子を被って、顔が見えないのも判らない一因の様だ。

調子にのる徹、家では徹の頭を撫でて喜んで、大声で笑う時が増えて徹も満足をしている。

ウサギを飼い始めてからは、一層凜は一日を有意義に過ごしている様に見えるのだ。


午前四時前、小豆島の警察署前で警官に両脇を抱えられた清水が、力なく足を止めた。

身体が急に落ちて、二人の警官に身を委ねて倒れ込んでいたのだ。

背中に包丁が突き刺さって「どうした!」

「おい、救急車!」

「容疑者が刺されている」

「犯人は?」

「取り押さえました」と大きな騒ぎに成っていた。

「誰だ!誰が刺した」

「女です!」

「何者なのだ!」

「判りません」しばらくして救急車で搬送されて、清水が病院に向かった。


「おい、大変な失態だ!」

「誰なのだ?」

「判りません、持ち物も何も有りません、話もしません」

「服に返り血を浴びて、放心状態です」

取り敢えず女の身柄を確保して、清水の様子を見る事にした警官。

刑事が到着するのを待つのと、現場検証に鑑識を呼ぶ為、現場の確保と大忙しの警官達。

まさか誘拐犯を取り押さえて、警察署の目の前で刺されるとは考えてもいなかった。

警察前は大勢の人が、夜明け前にもかかわらずに集まって来た。


六時に成って和田の携帯が鳴り響く。

「大変だ、容疑者の清水が刺された!」

「えー、誰に?」

「判らない、まだ一報だ」

「警察が身柄を確保したと」

「その警察前で、車から降りた直後、後ろから刺された」

「犯人は?」

「取り押さえた、女だ」

「えー、誰ですか?」

「黙秘で持ち物が何も無いので判らないそうだ」

「後二時間弱で到着します」

「複雑に成ったな」で電話が終わった。


徹も朝のニュースを見て、仰天の表情に成っていたのだ。

南田凜ちゃんを誘拐していた清水宗平が小豆島で逮捕されて、凜ちゃんと思われる子供が病院に無事収容されたと流れたからだ。

「何?凜ちゃん、ここに居るのに?」と呟く徹。

テレビが「今、緊急ニュースが入りました。署に搬送中だった容疑者清水が、見知らぬ女性に包丁で刺されて重体、病院に搬送されたと言う事です。」と緊急ニュースで流した。

徹には全く訳の判らない事件だった。

清水宗平?清水?昔聞いた記憶が有る。

。。。。。。。母響子が「兄の奥さんの実家の息子が、変質者で逮捕されたらしいわ」

「最近ニュースに成った清水?」

「そうよ、お兄さん離婚したわ」。。。。。。。。。

その清水だ!徹は、自分はこの清水とは根本から違うと否定していた。

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