第17話時の人
19-17
振り切って入る麻由子を追って真三も入った。
「何回も言うけれど、麻由子の子供は知りません」
「嘘!」と叫んだ時「麻由子、違う、違う」と止める真三。
「貴女には仕事が欲しいと言うから、デリヘルを紹介してから一度も会ってないのに何故?子供を誘拐するのよ!何処に住んで居るのかも知らなかったのに、仕事を紹介してから、昔の様に仲良くして貰えると思ったのに、消えてしまって携帯も変更して、全く連絡出来なかった」と半ば泣き出した百合。
真三は次の言葉を失っていた。
衝撃の話だった。
東京でデリヘルのバイトをしていた自分の妻が?信じられない事実を告白されたのだ。
和田刑事に姫路の刑事が耳打ちした。
「あの子供は、凜ちゃんでは無いそうです」
「。。。。。。。」驚愕の言葉がここでも聞かされたのだ。
我々は、全く異なる人間を犯人として追っていたのか?
マスコミを通じて、全国に誘拐事件が流れてしまった。
前代未聞の警察の失態、どうすれば良いのだ?和田は善後策に呆然としてしまった。
おまけに南田夫婦の危機まで演出してしまったのだ。
何も知らなかった真三に、貴女の奥様は昔売春をしていたのですよと教えてしまったのだ。
その日、真三は実家に帰ってしまって、麻由子は一人呆然と自宅にもどった。
二人は一言も喋らずに、お互いは警察で別れたのだ。
警察は失態を詫びて、百合を釈放して、子供と一緒に小豆島の職場で誤解を解くなら行きますと話したが、取り敢えず母の処に行くとその日は帰って行った。
翌日から、この警察の失態は大きく報道されて、百合は一躍時の人に変わった。
麻由子の自宅はとても住める状態では無く成って、逃げる様に実家に帰っていった。
小豆島の自宅では両親が麻由子と孫の長男真を温かく迎えて、麻由子は取り敢えず落ち着いたかに見えたが、恐ろしい事が起こった。
時の人に成った百合が、週刊誌、新聞の取材に答えて、麻由子の事を話してしまって、世間に公開されたのだ。
真三の役所でも、話題に成ってしまって、家族も総ての人が知ってしまう結果に成った。
亜希の事も週刊誌に掲載されて、イニシャルでの掲載だったが、亜希には夫大西に判ってしまうのでは?と毎日がビクビクの状態に成った。
麻由子の両親も麻由子の東京での生活を知ってしまって、呆れかえって近くにマンションを密かに借りて、住まわせて事態の沈静化を待つ事に成った。
子供が誘拐されて可哀想な夫婦から、とんでもない人に世間の目が変わっていく。
世話に成った友達を犯人に陥れた恐い人が、世間の目に成ってしまった。
真三は長期休暇を余儀なくされて、世間の噂が冷めると配置換えを言い渡されていた。
店にも出られない状況で、店の奥の両親の自宅で過ごしていた。
流石に徹の耳にもこの事件の事が入って、麻由子の窮地が手に取る様に判ったのだ。
本当は直ぐにでも駆け付けたいそんな心境だが、徹には今の凜との生活を壊したく無い。
そんな気持ちも強く、何も行動をせずに暮らして居た。
救急センターの渡辺は、忘れていた保健証を持参しない森田健次の電話番号にかけると「あれ?番号がない」と口走ると同僚が「住所、私の家から近いわ」とカルテを見て言う。
「そう、急いでいて番号間違えたのかも知れないわ」同僚の守口に頼み込んで、その場は終わった。
翌日の昼過ぎに守口は住所を尋ねて「あれ?無いわ」同じ所を何度か探して、一軒の家に入って、森田と云う家を訪ねたが該当の家は存在しなかった。
夜に成って、渡辺にその事を告げると「何か変ね、今思い出したのだけれど、あの女の子、誘拐されている子供に似ていた様な気がするわ」と言い始めた。
「えー、それほんとうなの?」と大きな声を上げた。
「でも、迂闊には喋れないわ、先日の間違いの逮捕劇が有ったでしょう」
「そうよね、大変な事に成っているわよね、間違って逮捕された人連日マスコミに登場して大変よ」
「家にも全国から、品物が届くらしいわ」
「凄いわね」
「だから、確実で無ければ私は言わないわ」でも守口はカルテの住所と連絡先をあらためて抜き書きして、持ち帰っていた。
徹も連日のマスコミの報道とワイドショーの番組構成に、腹を立てて百合の元に手紙を送り付けたのだ。
百合は毎日届く品物手紙に満足をしていて、徹の手紙も激励か商品券でも入っているのかと思い開封して、顔面から血の気が引いた。
(もう、マスコミに出るのを止めろ、子供の命の保証は出来ないぞ、デリヘル「品川ナイトインブラック」)百合がこれは本当の誘拐犯だと確信した。
何故なら「品川ナイトインブラック」の名前は一切出してないから、知っているのは麻由子とその友人亜希だけだったからだ。
同封の写真は麻由子の子供の写真に間違い無かったからだった。
テレビに何度も出た写真の服装だが、ポーズが異なるので犯人が写した事は明らかだ。
その日を境に百合はマスコミの取材を断って、ようやく事件は沈静化の兆しをみせた。
医療事務のバイト守口は書き控えた住所を探そうと、休みと時間が空いた時に調査に行って何かヒントが無いか探していた。
何か関係の有る住所を人間は咄嗟に書くと信じていた。
多分、女の子の急病で予定に無い行動、夜間救急病院に来て住所を聞かれたので書いたのだろうが、全く知らない住所は書けない。
何かないのか?と毎度の様に探して居ると、近所の人に不審に思われて「貴女、何度も見かけますね」と近所の町内会長に声を掛けられたのだ。
見かけた人が町内会長に通報したのだ。
「すみません、私は夜間救急センターで事務をしている守口と言います」
「夜間センターの人が何故?何度もここに来られるのですか?」
「急患で来られた方の住所がこの辺りに成っていて、まだ診察代金を頂いてなかったので、何か判るかと思いまして」
「何度も来られているでしょう」
「はい」守口は誘拐事件の話はしなかったが「ここに昔住んでいたのは、加藤さんと云う人だった」と荒れ地を見て話した。
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