第13話重なる偶然
19-13
姫路の警察の刑事藤井と田所は地道な聞き込みをして、商店街の「姫の里」の近所を廻って不審者を見た人がいなかったか?と探していた。
だが、商店街で凜に近づいた不審な人は見当たらない。
そんな時、幼児の死体が見つかった!の報告に署内が沸き立った。
夢前川の河口に急行する署員達、凜の写真血液型の資料を持参して、調べたが全く別人に安堵と不安が増大する捜査員、近所の女児が河に誤って流されて下流で見つかったのだ。
凜が消えて数週間が過ぎて、捜査員は誘拐で無かったら事故で何処かで死体に成っていると考える。
二日後東京の警察から和田の元に、ようやく工藤百合の情報が届いた。
用紙を見る和田の顔色が見る見る変わっていった。
小豆島の高校から父親の転勤で東京の渋谷区に移住、その後両親の離婚で森百合となり、母親と暮らしていたが、22歳で坂田俊之と結婚して坂田百合に成る。
長女を出産後離婚、その後は行方不明、兵庫県に帰った可能性有り、母の実家が兵庫県三田市の為と記されていた。
世の中には偶然が時として起こるのだ。
母の実家の名前が森で結婚相手が坂田、和田はあの手紙の森健太と坂田百合が完全に一致したと解釈した。
工藤百合の母方の実家森の現住所を至急調べる事にした。
事件は急展開を見せたと、捜査本部は色めき立ったが、もしも三田に凜が誘拐されていたら、危険だから内密に調査を進めた。
和田には、まだ理解出来ない部分が多く残っていた。
「何故?凜を誘拐したのか?」それが理解出来なかった。
偶然は恐ろしい、夕方に成って森の実家が三田に見つかって急行する和田に、工藤百合の叔父が「ここには、親子共帰っていない、妹の由佳子は亭主の転勤の多さと環境の変化に絶えかねて、離婚したのですよ」と話した。
「姪御の百合さんの事は何かご存じ有りませんか?」と和田が尋ねると「百合は東京で坂田と云う男と結婚して、女の子が産まれたのですが、良くない男だった様で、直ぐに離婚に成った様です」
「その後は?」
「その一人娘が、ある日居なくなったと聞きました、その後の消息は知りません、男が連れ去ったとか聞きました」それ以上の情報は無くて、和田達は帰途に就いた。
「子供を誘拐して、育てる?」
「工藤百合は麻由子さんの事を妬んでいた」晶子が推理を言う。
「麻由子さんは少しも覚えていなかった工藤百合さんを、百合は良く覚えていた」
「自分の子供を取られたので、幸せそうな麻由子さんの子供を誘拐した?」山本が推理を付け加える。
和田が「話が出来すぎているな、そんなに悪い女には思えないがな、工藤百合が!」
「和田先輩は誰が犯人ですか?」
「そうだな、変質者かも知れない」と微笑んだ。
「ロリコン趣味の変質者ですか?」
「その可能性も有るって事」三人の会話は県警まで続いて「百合を探さないと、判らない」が結論だった。
和田は兵庫県下から大阪府下の、ロリコンの変質者のリストも既に用意して、別部隊での捜査を進めていたが、中々当てはまる人物はいなかった。
結局工藤百合のその後の足取りを探す事に重点が置かれて、捜査が進められた。
翌週ようやく百合の母親由佳子の所在が判って、和田達が急行した。
由佳子は警察に驚いて、自分が警察にお世話に成る事は無いと思っていたが、もしや娘が?の不安も有ったのか「娘が何かしましたか?」と答えていた。
「何か心辺りでも?」と和田が尋ねると「娘は子供を元の亭主に取られてから、半狂乱に成っていましたので、何かとんでもない事をしたのかと思いまして」
「今、何処に娘さんは住んで居るのだね?」
「私は地元に帰って来ましたが、娘は何処に居るのか知りません」
「娘さんは坂田麻由子さんの事を話されていた事は有りませんか?」由佳子はしばらく考えて「その人は娘とどの様な関係ですか?」
「小豆島の同級生です」
「ああ、あの小豆島の高校の時の子ですか、娘はその子の事は東京に行ってからもよく話していました。とても良い人だったと」
「よく知っていたのですね」
「百合は最近まで、小豆島に居た時が一番良かったと話していました」
「別れた百合さんの御主人の家を教えて頂けませんか?」
「はい」由佳子は当時の住所だと言って、メモ書きにして和田に渡した。
神奈川県横浜市の住所に神奈川県警の刑事が確かめに翌日行ったが、工藤百合も居ないし、娘の姿も、何も無いと連絡が有った。
工藤百合は娘を取り戻して、自分が昔暮らして一番幸せだった小豆島に隠れて生活をしていた。
別れた亭主の目を盗んで、我が娘理佳子を育てていた。
昼間はパートで佃煮工場に勤めて、昔住んでいた家の近くの小さなマンションに住んで、子供は保育園に預けていた。
名前は総て偽名、森を名乗り娘もここでも偶然凜と呼んでいた。
森由佳里と森凜がここでの二人の名前に成っていた。
「ごめんね、悪い人が理佳子を誘拐するから、当分凜と呼ぶからね」
「ママ、凜の方が可愛いわ」と子供もご機嫌で保育園に通う。
百合が勤めていたのが前田佃煮の工場で同僚が「娘さん可愛いわね、名前は?」
「凜と云います」と何も考えていない百合は偽名なので大丈夫と思い答える。
パートは時々職場を変わるから、前田佃煮の人が瀬戸の華に来る事も時には有る事だった。
警察の捜査が進まない中、瀬戸の華の職場の作業場で一人の古いパートが「お孫さんの凜ちゃんまだ見つからないらしいわね」
「もう長いわね、殺されているかも?」
「駄目、聞こえるわよ」久々に大きな仕事が入って、臨時のパートを集めて仕事をしているのだ。
臨時の仕事なので時給が多い、普段ここでは働かない人も数人声をかけられて働きに来ていた。
「凜ちゃんって変わった名前ね」
「最近は流行よ」
「そうよ、私が先日まで働いていた工場のパートさんの子供も凜って呼んでいたわよ」
「幾つ位?」
「四歳位かな?」と話していた処に麻由子の母麻子がやって来て「何が四歳なの?」
「お孫さんと同じ名前で同じ年頃のお嬢さんが近くに住んで居るそうよ、世間は狭いわね」と笑った。
麻子の顔色が変わった。
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