第12話過去のバイト

  19-12

この時誰一人、十五年も前のデリヘルの客が犯人だとは考えていなかった。

数十日が経過して、完全に事件は暗礁に乗り上げて、南田の家族は凜の生存さえも危ぶむ状態に変わっていた。

藁をも掴む気持ちの麻由子の実家では、真由の反対を押し切って父直臣が、兵庫県警に向かった。

それは麻由子と全く同じで、公民館に張られた一枚のビラを持参して「これが二年程前に地元の公民館に貼られていたのです、何か関係が有ると思うのですが?」と訴えた。

和田刑事が直臣に会ったが、全く同じビラを見せられて「お父さん、それは私達も持っていますよ」と答えて、晶子に持参させた。

それを見た直臣が「やはり、麻由子だったのか」と落胆の表情に成った。

直臣の話では公民館に張られた時、自分の娘ではないのかと家内と心配していたが、まさか自分の子供がこの様な仕事をするはずがないと否定してきた。

誰かの嫌がらせで、自分達の娘とは関係無いと思っていたと今まで考えていたが、麻由子の自宅にそのビラが配られた事は、過去に働いていた事を示していると直臣は確信したのだ。

だが、麻由子の事を考えて内緒にして欲しい、自分も知らない事にするから、呉々も南田の家族には言わないで欲しいと拝むように言って帰って行った。

和田は「意外な展開に成ったな、あの麻由子さんが昔デリヘルで働いていた、その事を知る人物が二年前嫌がらせをしていた」

「しかし、ビラと手紙を送っただけで、何もしなかったのでしょうか?それとも脅迫をして、お金を取った?」晶子が二年程前に何かが有ったのではとの疑問を呈した。

「その時、お金を取っていたら、子供は誘拐しないだろう、もししたら金銭を要求するのでは?」

「子供が消えてから、日にちが経過し過ぎている、お金目的では無いのですね」

「麻由子のデリヘル事件と今回の事件が繋がる事は何も無いから、決め付けられない」

「このビラのデリヘルを探して、麻由子のバイトが本当か調べて見るしか無いようですね」

「名前が書いてないから、中々判らないぞ」三人は真三の留守に麻由子にその事実を確かめ様と考えていた。


テレビで毎日の様に麻由子の子供が映し出されて、情報の提供を呼びかける。

変な情報は多いが、決め手に成る情報は皆無、徹は凜を自分の自宅の庭先には出すが、外には絶対に連れ出さない。

お風呂に入る時も眠る時も一緒、食事は勿論一緒、おもちゃで遊ぶのも一緒の徹は全く楽しい!の一言で、凜が「おじさん、面白い」と言われて上機嫌に成っていた。

「お父さんとお母さんが戻るまで一緒に居るからね」と言われて、両親は旅行に出掛けていると話していた。


翌日麻由子の元を訪れた和田達三人は、小豆島の実家に張られたビラを見せて「本当の事を話して下さい」

「お父さん達も麻由子さんが、バイトでデリヘルに働いていたと考えていますよ」

「。。。。。。。。」何も話さない麻由子。

しばらく考えて和田が再び尋ねると「娘さんを早く助けないと」

「そうですよ」と説得をする刑事達。

「それでは、この手紙の中の人、真木麻子、坂田百合、森健太さんに心辺りは無いのですか?」

「この坂田は実家の名前です、真木は私の源氏名です」とようやく重い口を開いた。

友人大西亜希が事故を起こして、その返済の為に数ヶ月間デリヘル「品川ナイトインブラック」で働いたと話し出した。

そしてこのビラは、その当時のホームページの一部で自分を紹介したページを印刷した物だと説明した。

「他の名前に心辺りは有りませんか?」

「実は、このデリヘルを紹介してくれたのが、確か百合と云う同級生だったと思います」と答えた。

麻由子は名前を思い出していたが、携帯の番号も名前も忘れたので探す事が出来なかった。

でもビラの事件はその後何事も無く収まったので、立ち消えに成っていたのだ。

麻由子は小豆島で数ヶ月一緒だった百合に東京で偶然会って、お金に困ってデリヘルの紹介を受けたと説明した。

高校も卒業迄居なくて、転校して行ったのでそれ以後の消息は全く判らないと答えた。

和田は重要な情報を得たと、県警に帰って行った。

麻由子は家族には呉々も内密にして欲しいと懇願していた。

「最近の女の子は簡単にバイトで身体を売るのか?」と帰りの車で尋ねる和田に「お金を得る為にその様な事をする女性も多いのでしょうね」と晶子が云う。

「佐々木さん、綺麗に生まれなくて良かったですね」と山本が言うと「こら、馬鹿にして!」と起こる晶子。


翌日小豆島の警察に、誘拐事件の重要参考人の調査として、百合と云う同級生の紹介をして、即刻当時の名前工藤百合の家族構成、転居先が届いた。

東京の警察にこの情報を流して、探して貰う事に成った。

同時にデリヘル「品川ナイトインブラック」の調査の依頼も和田は品川署に依頼をした。

翌日、デリヘルの情報は入って、大きな系列店の有るデリヘルで働いていた。

女性の情報は残っていて、顧客リストも有ると教えてくれた。

唯、顧客リストも偽名が多いので、調べるなら携帯番号から一人一人調べる必要が有ると教えられた。

真木麻子が坂田麻由子で実質四ヶ月の勤務、金子亜希子が小玉亜希として一緒に勤めて、三月の末で二人共デリヘルを辞めていると調査結果が来た。

この資料を見て「麻由子は出鱈目を話していませんでしたね」と晶子が言うと「子供の命がかかっているからな」

「客は調べますか?」

「デリヘルの客が十五年も経過して、子供を誘拐はしないだろう、僅か四ヶ月だからな」和田はこの時、有り得ないと思っていたのだ。

デリヘルの情報は届いたが、工藤百合の情報は全く届かなかった。

両親の離婚で工藤百合が途中で消えていたから、そして転居が多くて中々掴めなかった。

和田達がデリヘルは直接関係が無いと考えていて「麻由子と、小豆島の実家を知っている人物で、麻由子に妬みを持っている人物だな」

「そうですね、工藤百合の可能性が高いですね」

「東京の警察が捜索に手間取っているのは、転居が多いからだ」

「何かヒントに成る事が見つかれば確実なのですがね」と県警も連絡待ちの状態だ。


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