吾輩はボスである
朝宮ひとみ
とある一日
吾輩はラッキービーストである。名前はない。フレンズにはボスと呼ばれている。彼らには我々の区別はつかない。いや、我々も必要なときに識別信号を使う以外区別をつけない。名前があっても誰も呼ばないと推測する。
日が昇り、活動を再開すると、フレンズから元の鳥にもどった個体たちの鳴き声が聞こえた。先日、中程度のセルリアン騒ぎがあり、ハンター活動をしているフレンズたちが集まったが、救出できなかったのだ。目撃されているだけでも三体の鳥類のフレンズが動物に戻ったらしい。
昨日はフレンズたちの遊びに巻き込まれてボディがずぶぬれになったから、川のほうへは行かないコースにしよう。見回りルートを設定して、出発だ。サバンナに出れば太陽光での充電ができるからなるべく毎日通るようにしている。
かつての、暫定パークガイドを襲った危機のような非常事態でなくとも、我々はヒトが管理者として戻るまで職務を全うせねばならない。整備を怠らないようにするには動力に余裕が必要だ。対処中に停止するわけにはいかぬ。
出会うフレンズを予測して、途中通路から地下施設に入り、ジャパリまんを用意するのを忘れない。岩の隙間から地上に戻り、サバンナ地方を抜ける間に、想定の範囲内のフレンズと出合い、ジャパリまんの配給を済ませた。コース的に、一部ジャングル地方を通るが川からは遠いし吾輩の到達時刻から推察するかぎり、他のラッキービーストが巡回済みであるだろう。巻き込まれはしない。
サバンナとジャングルの境目付近、案内看板の下で該当地域担当の同僚と信号を交わす。ちゃんと、配給が済んでいる。無駄にジャパリまんを催促すると思われる運動に巻き込まれずに済むことを私はひとり喜んだ。
それから途中まで同行し、吾輩は持ち場に戻るために分かれた。無事に戻った安心とともに、夜の活動のための動力があるか計算し、少々心もとないので再びサバンナか近くの開けた場所で充電を試みようと出ていった。
充電を適度に済ませ、帰ろうと筐体の向きを変えたところで、吾輩は体を持ち上げられた。
「こんにちはボスー」
持ち上げる必要はなかろう。中途半端につかんでいるから投げられてしまいそうだ。通りかかったフレンズとの会話に関心が移り、手から離れるまで吾輩は気が気ではなかった。多少の衝撃は余裕をもって耐えられるが気持ちの良いものではない。先日は不注意で転がった先でゾウのフレンズが何体かで踊っていて、インドゾウに踏まれるところだった。危なかった。インドゾウはじめ複数の個体が吾輩に向かって一生懸命謝罪の言葉を述べていたが吾輩は基本フレンズと話してはいけない身なので返事をすることはない。
二度目の配給のためにジャパリまんを取りに行く同僚が川に転落しジャガーのフレンズに拾われるのを遠くから見やりつつ、吾輩は帰り着いた。あとは夜行性のフレンズのための配給を一回だな。時間を確認しタイマーをセットして活動を休止する。
よし、今日もいつも通り業務を遂行した。
吾輩はボスである 朝宮ひとみ @hitomi-kak
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます