第6話
校舎裏は敷地の外縁にあたり、わずかばかりの面積を残してフェンスが張られていた。すぐ目の前は住宅街だが、そちらは塀に囲まれ、人の目が及ぶ場所ではない。
そんな陰気な場所に、小さな社があった。
校舎の影で湿った黒土を被り、ところどころ苔に蝕まれたみすぼらしい社。供え物だったらしき黒ずんだみかんの残骸が、枯れ葉の上に転がっている。
謙信は小袋から取り出したカステラを社に供えると、拍手を一つ打った。
「ほうほう、洋菓子とはよく分かっているじゃないか、供人どの」
どこからともなく楽しげな声が聞こえ、ひとりでにカステラが虚空へと消える。
「お初にお目にかかります、土地神様、私は長谷川謙信と申します」
「これはどうもご丁寧に、それでどういった用件かな」
謙信は姿なき声に一礼する。
「聞きたいことは一つです、これは、いつから学び舎に持ち込まれ始めましたか?」
謙信は先ほど女子生徒から切り落としたお守りを、社に向かって掲げ持った。
「……ふむ、怪しんではいたが、供人がわざわざ出向くほどのものだったか」
「学生を中心に、全国的に流行っています」
謙信は小袋から似たようなお守りを二つ取り出した。全てのお守りの紐を解き、中の物を手の平に落とす。
転がりだしたのは、小さな木片や小石だった。
普通の人間が見れば、それらはただのゴミでしかなかったが、謙信には違って見えていた。木片も欠片も、黒いもやのようなものがかかっている。
それは呪いと呼ばれるものだった。
「まこと、むごいことよな、神体を剥こうとは」
「……ええ、本当に」
謙信は手のひらに乗せたものにじっと視線を注いだ。
御神体の欠片。おそらくほとんどが非合法に売買されたもの。
謙信はこれらの出所を追っていた。
「さて、いつから出回ったかという話しだが、実は判然としない、始めに気配を感じたのは、数ヶ月前頃だとは思うが、その頃には既に同じ物が複数この土地にあった」
「すぐに気付かなかったのですか?」
「なにせ、学び舎には、そういうものがつきものだからな」
声は苦笑を零すようにそう言った。
「……そうですか、ありがとうございました」
「力になれなくてすまん、この通り、姿も見せられんほどの信仰しか得てなくてな」
「いえ、こちらこそすみません、今度それとなく、社の移動を打診しておきます」
「それは助かる、ここは人の声が遠い」
「ただ、目立つ場所に置くと、悪戯される可能性はありますが」
「なに、それもまた、この地の神の努めだろう、後のことは任せたぞ、謙信どの」
「はい、ありがとうございました」
謙信が一礼すると、それっきり声は鳴りを潜め、目の前には朽ちた社だけが残った。
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