転生アイドルファンタジー
@daigoro-daigoro
第1話 プロローグ
今日がもし、人生の最後の日だとしたら……なんと最高の日なんだろうか。
この瞬間ほど満ち足りたときは今までになかった。僕は幸せの真ん中にいる。そう確信できる。今まで生きてきた人生の日々よりも今日この日が、いやこの5時間が本当に幸せだったんだ。むしろ今日この日のために生きてきたのかもしれない。
そんな事を考えながら今、水道橋駅のホームで電車を待っている。つい先程まで東京ドームで行われたアイドルイベントが無事終わり、現在帰宅中である。一人でね。
決して友達がいない訳じゃない。ただ、この年になって一緒に来てくれるやつがいなかった。普段なら一人で遠出することもない。ましてや東京のど真ん中なんて無理なんだけど、今日ばかりは違った。
なぜなら今回のライブがファイナルだったからだ。聞いたときは本当にショックだった。一人だけでも必ず行かねばなるまいと同じBDを3枚買って最速優先応募チケットを手に入れた。そしたらどうだろうか、1人1口までしか応募できないとか…………
最初に言っといてくれよな。まあ結果として当選したから良かったけども。しかも3月31日の方が当たった。明日から新年度、4月1日の入社式を新入社員が休むのは無理だろうし……
「休憩時間があったとは言え結構疲れたな」
声はガラガラで少し喉が痛い。ライブ中は立ちっぱなしで声援し続けるのは楽しくて楽しくてしょうがなかったけど、終わってみるとかなり疲れているのに気付く。
周りを見渡せば、先ほどまで1つ前の電車をわずか10秒のタイミングで逃し一人で駅のホームにいたが、ものの数分で駅には人がかなり混んできて騒がしくなってきた。お目当てのライブが終わり、数万の人がこれから帰るのだから当たり前といえば当たり前だ。次の電車で座れるといいんだけどね。そう思っているとタイミングよくホームに音楽が流れだす。もう電車が来るのか、さすが都会の交通網だ。
現実に戻っていく感じがする。せめてこれからは今日という日を忘れないでいよう。今は忘れようがないけれども。手に重みを感じる。グッズも両手いっぱいに買った。パーカーやバッグ、タペストリーも一通り二人分。まあ今日来られなかった友人の分もあるし、週末に会う約束もある。その時に今日の事をたくさん話せるだろう。とりあえず、明日の金曜日からは社会で働くサラリーマンだ。今日はゆっくり休もう。昨日は緊張して眠れなかったし。
線路の向こうから光が見えてきた。これでようやく帰れる。そう思ったとき、死角から衝撃がきた。
(あぁ、ホーム混んでたし誰かがぶつかってきたのか……)
ライブでの疲れで踏ん張りがきかず両手の宝物でバランスが取れない。景色が大きく回る。
「いってぇ……」
強い痛みに思わず声が出る。ホームに落っこちたのか、手には石ころの感触だ。悲鳴が聞こえる。頭が痛い、というか体中が痛い。駅にいた人全員がこっちを見ている。あぁ、もうすごい恥ずかしい。突然、後ろからデカい音が聞こえる。そうだった。電車が来てるんだったけ?こういう時は線路の間に入って電車が通り過ぎるのを待たなくては……
「あっ……こいつはやべぇ」
大量のグッズがホーム下に散らばっている。そこに人一人が入れるスペースは無かった。逃げる余裕なく、線路の隙間を埋め尽くす袋すら開けていないたくさんの今日の思い出を見ながら、僕は電車に轢かれた。
転生アイドルファンタジー @daigoro-daigoro
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