ぐるめりょこー

ナトリカシオ

色んなジャパリまん

「これでバッチリなのです」


博士が図書館の扉にセンサー付きの機械を取り付ける、遺跡からツチノコが持ち帰った機械の残骸を博士がツチノコと一緒に修理したものだ。


「これでフレンズが近付いたら博士の声が出るのですか」


ヒョイと扉の前に出てみると、機械から博士の声が流れ始めた。


『どうも……ハカセです。 遠いところ来てもらってすまないのですが、我々は本日お休みを頂いているのです、出直すかそのまま図書館の中で待っててくれなのです』


さすが博士だ、この機械の使い方がわかってすぐに活用法を思いついて実行に移した。

パーク内のアトラクションで使われている音声案内をヒントに文字の読めないフレンズたちに向けた看板の代用品ということだ。


「それでは、行くのです」

「はい、博士」


翼を広げ、大空へと飛ぶ。

辺りを抜ける音は風の音だけになり、前を飛ぶ博士がチラリとこちらを見ながらスピードを合わせてくれる、住み慣れたしんりんちほーを抜けると目の前にへいげんちほーの景色が広がって来た。


「博士、グルメ旅行と言ってましたが、みんなジャパリまんばかり食べてるのでは」

「甘いのです、そのジャパリまんの食べ方に、フレンズごとの違いがあるのです」


下から複数のフレンズの声が聞こえる、見下ろすと、ライオンとヘラジカたちのチャンバラ大会が始まっていた。

もう数ヶ月も前の話になるが、ここを訪れたヒトのフレンズ……「かばん」が彼女らに助言をしてから、彼女らは怪我をしない安全な縄張り争いをするようになった、ボールを蹴って遊んだりあのようにチャンバラをしたり、気楽なものだ。


「あれが終わればみんなご飯を食べるのです、そこに一緒に行くのです」


つまり他のフレンズたちと一緒にジャパリまんを食べて何か変わった食べ方は無いか、つまり料理ほどではないがアレンジを加えたジャパリまんの食べ方が無いか探ろうという事だ。

我々が他のフレンズたちにものを教えてもらうというのは、なんとも新鮮な体験だ。


「終わったみたいなのです、行くのです」


スゥーと音も無く博士が降りて行く、こちらに気付いたヘラジカが珍しいといった表情でこちらに手を振った。


「博士じゃないか、珍しいな」

「図書館を休みにしてきたのです、お前ら、今からジャパリまんを食べるのですよね?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「我々はジャパリまんの新しい食べ方の研究の旅行に来ているのです、何か知っていたら教えるのです」

「のです」


一緒に居たライオンたちもそれを聞いて集まってくる、騒がしいのは苦手だ。


「いつも博士たちには色々教えてもらってたけど、まさか博士たちに教えてくれと言われるとはな、ライオン、何か知ってるか?」

「そうだな……前に炎天下の岩の上に置きっ放しにしていたジャパリまんに妙な跡が着いたことがあってな、カリカリしてて美味しかったぞ」

「そんな危なそうなの食べたのか……」


そのままワイワイと会話をするヘラジカたちを眺めながらこれはいい情報を聞いたとほくそ笑む博士、しかし今日はあいにくの曇り空だ。


「参考になったのです、我々はここで失礼するのです」


そう言って博士は翼を広げる、私も博士に倣って翼を広げた。


「おいおい、もう行っちまうのか、この後の球蹴り、一緒にやろうぜ」

「気持ちだけ受け取っておくのです」

「のです」


* * * * *


「さばくちほー……やはり暑いのです……」

「助手、ここならライオンが言っていた料理ができるのです、アレは火を使わずにジャパリまんを焼くことのできる方法なのです」


懐から取り出したジャパリまんを岩の上に置く、ジリジリと照りつける太陽に目を細めながら時を待った。


「何してるのぉ?」


横からスナネコが声をかけてきた、会うのはいつ振りだろうか。


「料理をしているのです」

「ふーん……まぁ気にする程の事でもないかぁ」


相変わらず興味が移るのが早いフレンズだ、フラフラとそのまま自分の巣穴の方まで歩いて行ってしまった。


「食べる?」


しばらくしてスナネコがジャパリまんを差し出してくる、目の前に置いてあるというのに追加を持って来てくれたようだ。


「助手……これはチャンスなのです」

「どうしたのですか?」

「スナネコは自分の食べ物を砂に埋めて保管するのです、もしかしたら、熱せられた砂の中に埋められることによってジャパリまんに何らかの変質が起こっているのかもです」

「なるほど……それは興味があるのです」


博士がスナネコからジャパリまんを受け取り、半分に千切ってそれをこちらに渡す、恐る恐る食べてみると、ジャリっとした感覚が口に広がった。


「予想通りなのです……」


博士が呟く。

ジャパリまんに変化は無く、単に砂が着いていただけだった。

がっくりと肩を落とす私と博士、その横でスナネコが岩の上のジャパリまんに再び興味を示した。


「なんかいつものジャパリまんと違う匂い……」


ジャパリまんを手に取ると、少し熱を保っているのが分かる、岩に接していた部分を見ると、茶色く焦げていた。


「先ほどの礼なのです」


そう言って博士が一緒に焼いていたジャパリまんをスナネコに差し出した。


「確かに焦げた部分がカリカリとしていて美味しいのです……」

「美味しい……でもまぁ……いつものでいいや……」


そう言ってスナネコはペコリと頭を下げて巣に戻っていった。


「次はゆきやまちほーなのです」


後に博士が「石焼きジャパリまん」と命名したジャパリまんを完食し、私と博士は再び空へと飛び立った。


* * * * *


「砂付きに、焦げ目付き、温泉の蒸気に当てたフカフカジャパリまんに、雪で冷やしたヒンヤリジャパリまん」

「あちこち回りましたが……いい収穫だったのです」


博士は特に温泉ジャパリまんが気に入ったらしく、漂う独特の匂いを一杯に吸い込んで満足げな顔をしている。


「でもやっぱり」

「助手もそう思っていたのですか」

「はい」


かばんが作ったカレーが、食べたい。


しんりんちほーへと帰る道中、今回の旅の思い出を振り返りながら抱えたカゴに入った大量のジャパリまんを見下ろした。


「今度ヒグマを呼んでカレーを作ってもらうのです」

「名案なのです」


たまにはこんなのもいいな、私はそう思った。

また一緒に旅をしたいですね、博士。

そう言わずとも、博士はきっと同じことを思ってくれているのだろうなと何となく思った、なぜなら我々は賢いから、きっとそういった部分は通じ合っているのだろう。

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ぐるめりょこー ナトリカシオ @sugar_and_salt

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