第37話休息
「ちょっとエルルーン!」
「なぁに」
無遠慮にアジトにやってきて勝手に世話を焼いた修道女はせっせと料理をしながらエルルーンに声を掛ける。
レギンレイヴとエルルーン、並びにゲルのアジトはとあるアパートの地下にあった。魔法によって入り口から秘匿され、一般人ではまず見つけられない。適当に使わなくなった廃屋や空き部屋などを転々とするのが彼らの生活だ。何せ指名手配犯二人を要している。公に部屋が借りられるはずもない。かといって、身分を偽ろうとも幻惑系の魔術はエルルーンの仕事と自然となってしまう為負担が大きすぎるという理由でレギンレイヴもゲルも頷きはしない。整形でもしろとエルルーンから進言された際はそんな金は無いとか自分の顔は大事にしているとか意外にもナルシストな事を主張してくる有様だ。ゲルはともかくレギンレイヴまで同じ主張をしてくるとはエルルーンも思わなかった。
手狭なアジトに部屋は一つだけ。適当に三人が眠る場所に毛布が置いてある程度。あとは戦利品や生活品が置いてあり、簡素なテーブルに一人掛けのソファが三つ置いてある。
アジトには最低限のコンロとシンク、風呂や電気等が存在していた。ゲルが適当に廃材を掻っ攫い、エルルーンの魔法で全て電力や水等を供給している。エルルーンが召喚した魔神たちの力のお陰である。
そんなアジトにやってきた不良シスターは腰に手を当てて仁王立ちしていた。
エルルーンは不機嫌そうに修道女に目を向けため息を吐いた。レギンレイヴやゲルが心配してくれるのはありがたい。だがこの女だけはどうも気に入らない。この、スルーズという女は。
「テーブルの上片付けないとご飯食べられないわよ、ほら立って。これ捨てていいの?」
母親さながらに鍋を火に掛けながらエルルーンが物を出しっぱなしにして散らかったテーブルを片付け始める。テーブルの上に散らばっているのは主にお菓子の袋である。魔術の行使はカロリーを多く消費するとはエルルーンの言葉で彼女の最近の主食はもっぱらお菓子になっていた。
エルルーンは携帯端末から視線を上げること無く適当に相槌を打っていた。今日は珍しくジャージ姿だ。それもピンクのジャージ。スルーズからもどうしたのかと聞かれたが答える気はさらさら無かった。
「こら! いつまでも遊んでないの!」
「遊んでない。レギンに頼まれた事やってるだけ」
「レギン!? ちょ、ちょっと! レギンと連絡取ってるの? 今どこにいるの!?」
スルーズのちょっと嬉しそうな声にエルルーンは少しむっとした様子だった。レギンレイヴの名前を聞くとすぐに態度を一変させるこの女がどうも気に入らないらしい。
「教えない」
「なぁんでよぉ! あたしだってレギンと喋りたいー!」
駄々っ子の様に拗ねるスルーズに、エルルーンは肩を落とした。うるさいのも嫌いだ。きっと少しでも情報が掴めなければ彼女はもっとうるさくなるのだろう。とりあえず黙らせるために携帯端末で得た情報を仕方なく小出しする。
「……今ゲルと一緒に帰ってる途中だって」
「ほんと!? やったー!」
ガッツポーズをして喜ぶスルーズにエルルーンは小さくため息を吐きながら端末に映ったそれを眺めていた。
「ねぇどの位で帰ってくる予定なの!?」
「さぁ……ちょっと時間掛かりそうって」
「もう! 焦らすんだからぁ!」
ウキウキとした様子でキッチンに戻っていくスルーズ。エルルーンはスルーズに見えないように小さく、小さく唇を噛み締めピンク色のジャージの胸部分を握りしめた。
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