第17話見つけた人
翌日。リノアが部屋を出ると、丁度隣の部屋の男性も退出する所だった。手には大きなキャリーバッグがある。チェックアウトするのだろう。そういえば、入室したのも同じタイミングだった。つくづく何かあるのではと勘ぐってしまうほど良いタイミングだ。男性もリノアが部屋を出た事に気が付いたのか、目を向けてきた。
「また奇遇ですね。今日出発ですか?」
「はい。随分と気が合いますね」
「そうですね」
ふふ、と笑うリノアに釣られたように男性も笑っていた。リノアは何故か嬉しくなって男性を見る。
「これも何かの縁かもしれませんね。私の名はリノア。リノア・デファンドルと申します。失礼で無ければ、お名前をお伺いしても?」
以前出会った時はどこかで会ったような気さえしたのだ。名前を聞けばもしかしたら思い出すかもしれない。そんな事を思った。リノアが挨拶のつもりで手を差し出した。男性は怯んだ様子だったが、微笑を浮かべてリノアの手を取った。
「シルヴァンです。シルヴァン・ブランシャール。また縁があれば、お会いしましょう」
朗らかに笑って、そう言った。男性はそれだけ言うと早々に手を放して歩いてい行こうとしたが、その腕をリノアは思わず掴んでいた。その顔は驚愕に青ざめている。シルヴァンと名乗った男性は顔から笑みを消した。
「あの……まさかとは、思いますが。昔、フランスのリヨンにお住いだったのでは?」
「どういう、意味でしょうか?」
「幼馴染を……行方不明の幼馴染を探しているんです!」
思わずリノアの手に力が篭る。男性は痛そうな素振りも無く、リノアを淡々とした視線で見降ろしていた。
「……それが、何でしょう?」
「わからないから聞いているのです……リノアと……『リノア』と言う名前に覚えはありませんか!?」
最早、それは懇願だった。男性は肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐き出すとリノアの顎を掴んだ。
「あんまり、無防備な行動はしない方がいいぜ。お嬢ちゃん」
リノアは男性の緑色の瞳から目が離せなかった。この声音も、その笑みも、その緑色の瞳も。つい最近、接した様な気がする。
気がつけば、視界一杯に彼の顔があった。そこで、リノアはようやく気がついたのだ。
「っ!」
柔らかい物が唇に触れる感触。咄嗟に突き飛ばすも男性は突き飛ばされる瞬間に後退した為動じた様子も無い。
「とつ……突然、何を……!!」
「だから、あんまり無防備にしない方がいいって忠告だ。ったく、お嬢ちゃんは昔からそうだからなぁ」
ポン、と頭に手を置かれた。すぐに男性は踵を返し、荷物を持ってエレベーターの方へと歩いて行ってしまった。顔を真っ赤にしたまま、諦めた様にリノアはその場に座り込んでしまった。
分かりたくなかった真実を、掴んでしまった気がする。
「……貴方は、絶対に違うと。貴方ではないと、信じていたんだがな」
リノアの声は震えていた。両手で顔を覆い、否応なしに体が震えるのを感じ取る。
見間違えるはずがない。あの緑色の瞳。
「シルヴァン……いいや、」
もう見えなくなってしまった背中を見つめるように。彼が去っていった方へと目を向けた。
「……レギン、レイヴ」
膝に落とした両手が、握りこぶしを作っていた。
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