第12話約束

「……てめぇ」

「………………」

 張られていた結界が消失し、レギンレイヴはようやく少女の元へとたどり着くことが出来た。たが、時は既に遅く少女の息の根が止まった後だった。殺した張本人に目を向けてみれば、俯いたままこちらを振り返ることもない。降りしきる雨に打たれ、その横顔は泣いているようにも見える。

「おい! 聞いてるのか! なんで……なんであの子を殺した!?」

「……犯罪者さんには感謝してるんです」

 立ち上がり、光太は少女の亡骸からレギンレイヴへと目を向ける。その鬼灯色の瞳は何かに吹っ切れたようだった。

「遅かれ早かれ……いずれは殺す予定でしたから」

 何のことは無い、と言った様子だった。全ては予定通りだと言いたげだ。

「お前……! 一体何を考えてる!?」

 乱暴に胸倉を掴む。光太の視線は路傍の石を見るように感情の籠っていないものだった。レギンレイヴはその視線に一瞬怯むも胸倉を揺さぶった。

「お前、次は何を殺すつもりなんだ? あの子はお前の友達だろ? なんで……!?」

「貴方が欲しいのは、昨日僕の部屋に転がり込んだ子ですよね? あの子が心配なら早く回収したらどうですか? 正直、」

 無表情で、光太がレギンレイヴに告げた。

「殺すなら女の方がいいです」

「!」

 レギンレイヴは乱暴に光太を突き飛ばし、焦った様子で神社の方へと走って行った。突き飛ばされた衝撃で、雨が打たれるアスファルトに投げ出された光太は邪魔者は居なくなったとばかりにレギンレイヴの背中を見送り、少女の亡骸の傍に座り込んだ。

 眠るように死んだ少女は光太が触れても反応等しない。光太は少女の頬に触れてみる。雨のせいもあるだろう。冷たくなり始めた少女の体。冷たい手を握り、静かに目を閉じた。

「おい! こっちで結界の反応があったんだな!?」

 ここ最近よく聞く声が聞こえてきた。それでも、光太が目蓋を開けることはしなかった。ドタバタと足音が聞こえる。二人組の女がやってきたようだ。一人の女が倒れた少女に気が付いたらしく足を止めた。

「こ、コータ……?」

「………………」

 ゆっくりと目を開き、声がした方に目を向けた。ビニール傘を差したリノアが光太を見ている。明らかに動揺しているようだった。それもそうだ。少女の腹部からは夥しい血が流れている。そういえば、知らない内に彼女の殺害に使った剣が消えていた事に光太は気が付いた。リノアの連れの女はレギンレイヴが走って行った方向へと行ってしまった。リノアはゆっくりと光太に近づいていき、亡骸となった少女を見る。

「……彼女は?」

「幼馴染です」

 静かに、小さく答えた。リノアは光太の隣に同じように座り込んだ。リノアは光太を気遣うように背中を叩いてくれた。気遣うように、決意を新たにするように。リノアは光太に声を掛ける。

「……コータ」

「………………」

「彼女を殺した犯人は、必ず」

 強い意志を感じた。光太は何故か、その言葉を待っていたような気がした。

「私が逮捕するからな」

「……そうですか」

 一瞬だけ肩が震えたような気がした。だが、

「そうか……そうですね……」

 なぜか安堵するように、絞りだすように。その言葉は零れてきた。

「それなら……良かった」

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