生産職と戦闘職 〜恋は複雑でして〜

@tomato4444

第1話

「じゃあね、バーベル」


目の前の彼女は僕に何度目かの別れの言葉を告げる。僕はそれに返答せずに、彼女に背を向け歩き始めた。


(さよなら、アリッサ)


心の中で、そう強く呟きながら。


……ちなみに何度目かのと言うのは、アリッサが何故かちらちらこちらを見ながら何回も言ったということだ。


ーーーーー



僕の名前は、バーベル。さっきぼっちになった、一人ぼっちの生産職、バーベルさ。


ああ、別にアリッサのことは恨んじゃいない。幼なじみで無理やり僕を冒険者にしたくせに、僕とのパーティーを解散して、他の男の冒険者たちとパーティーを組むとしても、別に恨んでなんかいない。

あ、今二回言ったのは、大事なことだからだよ?


まあ、つまり、僕は一人になっちゃって、明日の行方もわからない人生の迷子になったんだ。15にしてね。


言っちゃ悪いけど、アリッサと別れられて僕はホッとしてるんだ。だってそうだろう? ただでさえ、僕は地位が低い『生産職』なのに、彼女は『戦闘職』。しかも、上級のだ。実際、彼女と一緒にギルドに入った時のみんなの顔と言ったら、この世のものとは思えないくらいに、僕のことを蔑むような目をしてたんだよ。


アリッサは世間一般に言えば、美人って部類なんだろうけど、15年も隣にいて、長い間虐げられてしまってたら、そんな可愛いとかいう感情もなくなってしまった。


って、ことでせいせいしてるわけなんだよ。


(まあ……お金の不安はそのまんまなんだけどね)


宿についたのはいいんだけど、お金が無いことには変わらない。戦闘職と生産職の、報酬の分け前は8:2。1000G貰っても、200Gだよ? 一食平均、50G。わお、朝昼晩朝でなくなっちゃうね。さらに、1泊、一番安い宿で100Gでございます。わお、一日過ごせない。


それに、生産職は色んな素材も買わなきゃいけない。あ、もちろん素材の割合も、8:2ね。わけわかんないだろ? 生産職に寄越さずに戦闘職が素材持って何が出来るって言うんだよ。

あいつらは、薬草があってもスキルがないから、低級の#回復薬__ポーション__#も作れないくせに、薬草も取っていくんだ。ちなみに、薬草は苦い上に回復量も少ない。……まあ、回復薬にも欠点はあるんだけど、それは追々。


まあ、そんなことは今はどうでもいい! 今は何より当面のお金を稼ぐことを第一目標にやらねばいけない。



ーーーーーー


と、言うことで生産職としてはあるまじき行為だが当面を凌ぐために素材をギルドで売ったわけなんだが……まあ、二足三文にもなりゃしない。いらない素材を全部売っても、300G。やったね、一日凌げるよ♪ じゃないんだよ!


お金を叩きつけたいところだけど、こんな少ないお金でも僕の全財産の2分の1。そう、僕は今、600Gしかもっていない。びっくりだね。剣聖もびっくりだよ。


「アリッサがいたらなぁ……」


思わず、そう呟いた。素材の分け前が極端に少なくったって、作れないものを作れと脅されたって、戦闘職と一緒にいた方がお金は稼ぎやすいんだ。



って、ことで【パーティー組合所】ってところに来てみた。ここはなんとびっくり。パーティーが欲しい人が来て、互いにマッチングすればパーティーが作れちゃう! という優れた施設なのだ。


「あの、すいません。パーティーの参加をしたいんですが」


「はい、参加ですね。そこのお席に座ってこれを書いてください」


手渡されたものを受け取り、受付前方の椅子に座る。余談だが、パーティーには、参加する。と、作成する。というものがある。言葉通り、前者は、リーダーがいるところに参加するのだ。そして、後者はリーダーになって募集をかけるってことだ。


と、あっという間に用紙の完成だ。


項目は二つ。戦闘職か、生産職か。戦闘職だとしたらなんのスキルもちか。はい、生産職です。以上!


生産職だけに丸をつけた用紙を、受付のお姉さんのところに渡した時の顔と言ったら……まるで、汚物を見るようでしたよ。


「あ、はい、じゃっ、一応かけときますね」


っていう、親切な言葉までもらっちゃって……僕泣きそうだよ、ここまで冷たくされるなんてっ。


明日には結果が出るという、受付のお姉さんからのお言葉をいただき宿へと向かった。もちろん、1泊100G。夕飯のみだから、計150G。わお、4分の1減ったよ。これは、流石にやばい。明日……いい人が来てくれてることを祈る。

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