詩・バスルーム

辰巳杏

バスルーム



世界の時が止まったかのように


静寂しじまがわたしを支配する


水の滴る音が


一定のリズムが耳に理性を宿す


ぽちゃん ぽちゃん ぽちゃん


そんなもの


ちっとも慰めにならないのよ




愛なんて生易しいものじゃない


わたしは耽溺していた


(なのにどうして置いていったの)


わたしのこころは空っぽのバスタブ


栓を抜いたらあなたはするりと流れてしまった


沈むわたしは重量が釣り合わなかったからなのだろう


(そうね あなたとは釣り合わないわ それだけのこと)




シャワーヘッドが泣く


ざぁ ざぁ ざぁ


そんなに悲しく泣かないで


わたしのからだが凍てつくわ


(このまま凍ってしまえばいいのに)




デイブレイクが眩しい


窓を流れる水滴が朝露のよう


わたしのこころは静かにとけてゆく


悲しい夜は終わった


思えばたくさんあなたを傷つけていた


(わたしを捨ててすっきりしたでしょうね)


涙は全てを流し


最後に残ったのは強靭なこころ


ずっと中心に存在していた


わたし空っぽじゃなかったの


もうあなたのせいにするのやめた


わたしはわたしに向き合って生きていく




バスルームに別れを────

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詩・バスルーム 辰巳杏 @MWAMsq1063

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