第18話
「この家の庭にある木が咲くのをもう一度見たいんじゃ」
ソーンは懐かしそうでどこか哀しそうな顔をして語った。
「昔、まだわしが生きいた時妻がおったんじゃ。名はサクラと言って和の国出身に彼女は端正な顔立ちに美しい黒髪そして黒い瞳が綺麗な、向こうの言葉で言う大和撫子な女性じゃった。わしは軍に所属しておったんじゃがある日遠くに遠征に行くことになって家をしばらく帰れなくなったんじゃ。遠征には何度かあったからサクラも慣れた様子でわしを見送ってくれたんじゃが、遠征から帰った時にはサクラは死んでおった。・・・詳しく聞くとどうやら珍しい病にかかったようでその病が原因で死んでしまった。だが、実はその病はわしの魔術なら治せたものだったんじゃ。わしは自分を悔やんだ、なぜもっとそばにいなかったのか、なぜ仕事を優先していたのかを」
そこまで言うとソーンはシュウたちについてくるよう言うと庭へと向かった。
「そして、わしは軍を辞め家に引きこもりがちになった。その時ふと目にとまったのがこの桜の木じゃ」
庭には一本の木が生えており、ソーンはその木を優しく撫でた。
「この木はサクラと結婚しサクラがこちらに来る時この木の苗木を持ってきたんじゃ。そして、サクラはこの木を植える時に、『この木は桜と言って春になると綺麗な花を咲かせるんです。だから、この木が花を咲かせた時一緒にお花見をしましょうね』、と。その約束を思い出したわしはこの木がちゃんと育つように世話をしたんじゃが、どういうわけか花だけが咲かんのじゃ。花が咲かん理由を調べてみたが全くわからなんだ。そして、結局花を見ることなくわしは死んでもおた。じゃが、わしはこの世に残った。だから、わしはこの木が咲くところを見るまではここを離れるわけにはいかんのじゃ」
話し終えたソーンはシュウに申し訳なさそうに言った。
「じいちゃん、その木見てもいい?」
シュウはそんなソーンに尋ねた。
「・・・よいぞ、じゃが傷つけるなよ」
ソーンの了解を得たシュウは桜の近くまでより桜を見上げた。
「『
シュウは見上げたまま魔法を使った。その魔法は先ほどエルに言われ魔法を開発した時に作った魔法の一つだ。その魔法はあらゆるものの情報を読み取る魔法である。それにより桜の木がなぜ花を咲かせないのか調べようとした。その結果、
=====
名:想い桜
状態:魔力不足
あるものの想いが込められたことにより魔樹となったもの。花を咲かせると込められた想いが発言する。害は特にない。魔力不足により成長できない。
=====
シュウの頭の中にそんな情報が入ってきた。
「なるほど、なら・・・」
シュウはその情報を元になぜ桜が花を咲かせないのか理解できたので、手を桜に当て魔力を流し始めた。すると、魔力が不足していた桜はシュウから送られてくる魔力をどんどん吸収していった。
「こ、これは!」
シュウの魔力によって徐々に桜が花を咲かし始めたのを見たソーンは驚いた。そして、ついに桜は満開状態になった。
「・・・あ、ああ。やっと、やっと・・・」
シュウの魔力によって満開状態になった桜を見たソーンは目に涙を浮かべつつ声を発した。
「まったく、困った方ですね」
その場にいた全員が花を咲かした桜を見ていると鈴の転がすような声が発せられた。その声に反応するように声のしたほう、桜の幹に声を向けた。シュウも上を向いていた顔を下に向け声のするほうに顔を向けると、そこには和服を着た美しい黒髪の女性がいた。
「・・・サクラ」
ソーンは信じられないという顔をしていた。そして、シュウはエルのほうに歩み寄りながら納得した顔をした。『詳細分析』により桜が想い桜となっていたのはこの女性、ソーンの妻サクラの想いによりそうなったのだと。
「やはり、あなたは残ってしまったのですね」
サクラと呼ばれた女性は困ったような悲しそうな顔をしつつソーンに語りかける。
「私が死んでしまったことを自分のせいだと悔やみそして、悲しんでしまわれたのですね。ですが、ソーン様私が死んでしまったのはあなた様のせいではありません。確かに、私が病気にかかってしまったときソーン様がそばにおられれば私は死なずにすみました。ですが、病気にかかってしまったときあなた様は国から遠征に赴くよう命令されていたのです。これはだれが仕組んだものではありません。これは運命だったのです。なので、私が死んでしまったのは誰のせい、ましてソーン様のせいではありません」
「だが、わしがあの時遠征を断っていれば・・・」
「それは、私が病気にかかるなど思いもしなかったので仕方がありません。そんな未来が見通せるような存在は神以外おりません」
サクラはふふっと小さく笑う。その表情はソーンが悔やんでいることをまったく気にしていない様子であった。
「・・・そうか」
サクラの表情を見たソーンはつき物が落ちたような顔をした。
「はい。それにこうしてちゃんと約束を果たせそうですし」
サクラはそう言うとソーンのほうに手を差し出した。
「・・・そうじゃの」
サクラの意図を察したソーンはサクラのほうに近づき手をとった。すると、ソーンは年老いた老人ではなく生真面目そうな青年へと姿を変えた。
「少年、感謝する。これでやっと終わらせることが出来る」
「気にしないで、俺は桜が見たかっただけだから」
若返ったと思われるソーンの言葉にゆるく返すシュウ。その返しにソーンは頬を緩めた。
「そうか・・・。ああ、それとこの家を自由に使ってくれ。いいな、サクラ」
「はい、シュウさん大事に使ってくださいね。それとありがとうございました」
シュウは手を軽く上げる。そして、ソーンはギリムのほうに顔を向ける。
「ギリム、世話になったな。王にも礼を言っておいてくれ」
「・・・はい、承りました」
ソーンの言葉を聞いたギリムは頭を下げた。
「それでは、いくとするか」
「はい」
その言葉とともにソーンとサクラは手を取り合いそして、天を見上げながら徐々に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます