つちのこをさがせ!

@shibaken61

第1話

「侵入者のようだな」

 ツチノコはピット器官でやって来た外敵にいち早く気が付いた。そしてあらかじめ用意しておいたトラップに誘導するように壁の配置を変える。

 ガタンと落とし穴が作動した音がした。

「わーい、おっちるー」


 ドボン


 こうして侵入者のコツメカワウソは川に流されていった。

「人前に出るなんて恥ずかしい。そんな面倒なぐらいなら一人でゆっくりと過ごしていた方がいいぜ」

 ツチノコは侵入者を撃退したことを確認すると寝床の岩の間に挟まった。湿り気があって心地がいいのでいつもそこで寝ていた。


 フレンズたちは議論をしていた。議題はツチノコがいるかどうかだ。

「ツチノコはいないのです。証拠がないので」

「証拠がないので」

 博士のアフリカオオコノハズクと助手であるワシミミズクは反対をする。

「フェネックもなんか言って欲しいのだ」

 アライグマは隣のフェネックの腕を引っ張ってフェネックの応援を頼んだが、

「それは無理だね。証拠がないのは博士たちの言う通りだからね」

 あっさりと断られてしまった。

「裏切りはひどいのだ」

 アライグマは地団駄を踏んだ。


「こっちなのよ。ちょっと揉めてるみたいなのよ。大変だねえ」

 アルパカがそんな四人の様子を遠くで見かねてある人物を連れてきた。

「あらあらどうしたの?」

 ヒカリはジャパリパークのパークガイドの一人だった。ガイドとしては新入りだが、フレンズたちの問題によく首を突っ込んでいる。

「ヒカリさんっ、いいところに来たのだ」

 アライグマはヒカリに抱きついた。

「今、ツチノコがこのジャパリパークにいるかいないか議論をしていました」

「私たちの図書館にはそんな証拠がないので未確認だからいないと言っているのです」

 博士と助手は淡々と状況説明をした」

「それでアライさんはずっといるって言っているのに証拠がないからっていないって言うのだ」

「そうなのね」

 ヒカリは状況を飲み込んで、複雑そうな顔をした。

「どうしたのだ?」

「パークにいる噂は知っているけど、実際にいるかはわからないのよね。可能性としては迷宮に住んでいるみたいだけど、あそこは勝手に改造されていて」

「迷宮ねえ。壁の配置がすぐに変わるんだよね。道すらも覚えられないんだよー」

 フェネックは流れてきたコツメカワウソを見た。コツメカワウソは気持ちよさそうに泳いでいた。

「あの子が何回も迷宮に挑戦しているけど何回も失敗しているんだよねー」

 ヒカリが何か思いついたように自分の手を叩いた。

「それなら、みんなで協力してツチノコさんに会いに行きましょう!」

 ヒカリがガッツポーズを取ると全員がキョトンとした顔をした。

「どうやって会いに行くのですか。あの迷宮の奥にたどり着いた人間がいないそうですよ」

「私も行きましたけど、ダメでした」

 ヒカリはその場で考えた作戦を伝えることにした。

「それはすごいのだ。これなら絶対できるのだ」

 アライグマは嬉々として言って、隣のフェネックも感心して頷いていた。

「なるほどねー」

「時間はかかりますが、確実ですね」

「そうですね。私たちもツチノコは気になります」

 こうしてツチノコ調査隊が結成された。


 翌日に迷宮探索に役立ちそうなメンバーが集められていた。昨日のメンバーに加えて、アメリカビーバーとプレーリドッグが呼ばれた。

「アメリカビーバーさんはみんなの情報を元に迷宮の模型を作ることができるかしら?」

「任せてくださいっすよ。迷宮なんて建築物にワクワクしているっす」

 作戦はダンジョンに何度も挑戦してトラップの配置を一つずつ潰すことだった。それなら壁の配置が変わったとしても迷宮を攻略することができるというのがヒカリのアイディアだった。

「それじゃあ、みんなで冒険しましょう」

「おー」

 全員の拳が天に伸びた。


「なんだぁ? あんなに人数で押し寄せやがって」

 ツチノコは大勢でやって来た集団に気がついた。そして裏側でトラップのスイッチを入れる。

「分岐点で別れましょう。落とされたら、そのトラップの位置と柱の位置の報告ね」

「わかったのだっ…………あーーーーーー」

 そう言って曲がった瞬間にアライグマは落ちた。

 ドボン

「見事だねー。さすがアライさんだね」

 穴を覗き込みながらフェネックは感心していた。

「それじゃあ、私たちも頑張りましょう」

 ヒカリはガッツポーズを作った。


 それからなんども調査隊は穴に落とされて、岩に追いかけられ、水を浴びせかけられて、その度に壁の配置が変わるダンジョンに四苦八苦した。

 何回か挑戦しているときにふとひかりは壁が動いていることに気が付いた。

「あれ、あの壁が動かされているわ」と壁の方向に近づいて確認しようとすると何か足元に違和感を感じた。


 ガタン


 衝撃音がフロアを揺さぶった。今までの音よりもはるかに大きかった。

「何が起こったのだ?」

 アライグマがその方向に素早く振り返った。

「コツメカワウソさん。だいじょうぶー?」

 途中でやって来たコツメカワウソにフェネックは確認を取ると無事で

「だいじょうぶー、たのしー」

 楽しそうだった。


「あいたたた」

 ヒカリは石が落ちた背中をさすりながら周りを見渡すけど何も見えない。そして何かに閉じ込められたことに気がついた。

「おい、何しに来たんだ?」

 不機嫌そうな声が聞こえた。視界が暗いところに徐々に慣れてシルエットが見えてきた。

「まさか、ツチノコさん?」

「ああ、そうだよ。あんたが変なことをしてバランスを崩して岩に閉じ込められたみたいだな」

「ごめんなさい」

「ごめんでこの状況が変わるわけでもないからな」

 ツチノコの正論にヒカリは肩をすくめた。

「それで何をしに来たんだ?」

「ツチノコさんに会いに来たの。皆の前に姿を現さないから、気になっていたの」

「なるほどな」

「どうして、ずっと一人でいるの?」

「そっちの方が楽だからな。どう思われているかって考えたら面倒で仕方がないからさ」

「ふふっ」

 ヒカリはツチノコの言葉に思わず笑ってしまった。

「何がおかしい」

 ツチノコの口調がとげとげしかったが、ヒカリは気に留めなかった。

「もうすぐわかるよ」

 それだけ言った。


 土が掘られる音が聞こえてきた。

「今すぐ助けるでやんす」

 プレーリードッグの声が聞こえてきた。

「ちょっとずつっすよ。崩さないようにここから掘るといいっすよ」

 アメリカビーバーの声も聞こえる。

「今、助けるのだー」

 アライグマの大声が岩に響く。


 數十分後に迷宮のライトが穴の中に注いで、一気に視界が明るくなった。

「ひかりさんとツチノコなのだー!」

 アライグマはツチノコに抱きつかれた。そして向こうに見える景色にはたくさんのフレンズが集まっていた。

「皆ツチノコに会いたいと言う理由でここまでやって来たのよ。何を考えているかなんて一目瞭然でしょ?」

 ヒカリの言葉にツチノコは顔を真っ赤にして口をぎゅっと閉じた。

「それにしても、この迷宮の地形は完璧に把握しましたね」

「それだと、迷宮の意味がないですね」

 博士と助手は迷宮の意味がなくなった迷宮に肩をすくめた。

「また作ればいいっすよ。今度は私たちも力を貸すっすからね」

「そうでやんす」

 アメリカビーバーとプレーリードッグは自信たっぷりに言った。

「お前ら、ありがとうな」

 小さな声でツチノコは言う。その声が聞き取りづらくて一斉に全員が振り返る。

「もう、言わん」

と少しだけ怒ったふりをして口元を緩めた。

「こういうのも悪くないな」

 ツチノコは心の中で思った。

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