第四十六話 遊園地デートは絶叫とともに

 キラリと太陽に背を向けて、ジャンプで道化師の攻撃を躱した美織の機体が地面へと降り立つ。

 と、すかさず後方へバク転し、間髪入れず襲い掛かってきたチャクラムを寸でのところで回避すると、自らも迫ってくる道化師クラウンの進行ルートに向けて得物を網の如く展開した。


 それをまるで踊るかのように滑らかな動きで躱しまくり、距離を縮めてくる道化師。


 美織はさらにしつこく攻撃を仕掛けつつも、いくつかのチャクラムを手元に戻して、ホバリング状態で後退。メリーゴーランドの物陰へと逃げ込む。

 そして道化師がメリーゴーランドに近付いたところで、美織は相手を建物の左右から挟み撃ちするような形でふたつのチャクラムを物陰から解き放った。


「ぎゃはははははは! 甘い甘いあんまああああああああい!」


 迫り来るチャクラムから逃れる為、空へと飛ぶ道化師。

 さらに何を考えたのか、道化師は自分が操る全てのチャクラムをメリーゴーランドの上空へと集結させた。


 直後、複数の金属がぶつかり合う音が響き渡る。


「しまった! 読まれてた!」


「ぎゃははははははは! そんなの当たり当たり大当たりの当たりまえーーーーー」


 建物の左右から攻撃し、道化師が上へと逃げるところを狙い撃ちするつもりだった美織が、口惜しそうに歯軋りする。

 対してそれを読み、敢えて美織本体ではなく得物であるチャクラムに狙いを定めた道化師が、相変わらずな様子でゲラゲラ笑い飛ばした。


 しかも。


「今のでやろうと思えば武器破壊も出来たくせに、随分と余裕じゃないのっ!」


 道化師の狙いが美織の機体ではなくてチャクラムなのであれば、当然それを破壊する絶好のチャンスだったはず。

 が、手元に戻したチャクラムがまだ使える状態にあることを知って、美織はほっとするよりも未だ道化師に弄ばれている状況に苛立ちを募らせた。

 

「ぎゃははははははは! せっかくの美織たんとの遊園地デート、とことん楽しませてもらわないともったいないおばけが出るぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「なんでアメリカ人のあんたが『もったいないお化け』なんて知ってるのよっ!?」


 美織はツッコミを入れながらも、ここは一度体勢を整えなすべく、頭上を走るジェットコースターのレールへとチャクラムを引っ掛けて空へ舞う。そして次々とチャクラムをレールに投げつけては引っ掛けるを繰り返して移動し、道化師との距離を取ろうとした。


「ぎゃはははははは! ひとりでジェットコースターなんて連れないぜぇ、ハニィィィィィィィィィ!」


 そこへいつのまにジェットコースターのコースで最も高い位置へと移動していた道化師が、何を考えてかプールのウォータースライダーの如く自らの機体を急斜面から滑走させる。

 急斜面からの自然落下に加えて、機体のブースターによる推進力も得て猛烈なスピードで駆け下りる道化師。降り切ったところからの急カーブで火花が派手に飛び散り、さらには道化師自身もコースから飛び出しそうになる。が、上手くヨーヨーチャクラムを支柱にひっかけて吹っ飛ばされるのを回避すると、さらにブースターを開いて速度を上げ、


「ぎゃはははははは! やっぱりジェットコースターは恋人と楽しんでこそだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「げっ! ちょ、なにすんのよっ、あんたっ!」


 逃げる美織をがっしりと脇に捕まえて、無理矢理この地獄のジェットコースターに付き合わせ始めた。


 普通なら有り得ないスピードでコースを滑走する道化師&美織。

 本来なら速度が落ちる上り坂ですらも、道化師がブースターを噴かすものだから全然速度が落ちない。登りきったところで軽く宙へと浮き上がり、そのまま急降下。コースがねじれて回転しながら落下する仕組みになっているのを見るや、道化師はチャクラムをレールに絡ませて通常以上のツイストを再現させてみせた。


「ぎゃああああああああ!!!」


 ありえないスピード、ありえない回転での急落下に美織の叫び声が響き渡る。

 が、そんな様子にますます興が乗ったのか、道化師はさらにスピードを上げた。

 そのためコーナーを曲がるたびに遠心力で外へ吹き飛ばされたが、これまたヨーヨーチャクラムを使ってまるで吊り下げ式ジェットコースターのようにクリアしてみせる。


「ぎゃははははははははは! サイコーにゴキゲンなジェットコースターだぜぇい!」


「アホかーっ! 今すぐ止めてー!」


 美織の嘆願虚しく、道化師コースターはますます勢いに乗って、このアトラクション最大の見せ場である回転レールへと向かった。

 しかもただの回転ではない。時計回りに8回も捻りを加えられながらの三回転だ。

 背後にはこの遊園地のシンボルである白く輝く城と、その周りに静かに佇む湖。そこを本来なら何台もの車両が連結してここを通過する様は、さながらドラゴンが宙を舞うような壮大なものなのであろう。


 これに今、道化師が脇に暴れる美織を抱えて挑む。


「ぎゃあああああ!」


 一回転。美織の悲鳴と共に見事成功。


「死ぬ! 死んじゃうぅぅ!」


 二回転目も成功。美織の生存を確認。


「ぎゃははははははは! 三回転目もかっ飛ばして行くぜぇぇぇぇぇぇぇ!」


 道化師がブースターを最大限に開いて、急斜面をドラゴンの如く駆け登る。

が、最後の加速が余計だった。


 ぷつんっ!


「あ!」


「げっ!?」


 レールを離れて吹き飛ばされるふたり。いつもならヨーヨーチャクラムによって吊り下げられるが、さすがにこれは負荷がかかりすぎた。

 あえなくぷつんと電磁糸が切れて、ふたりの機体はぽーんと空中へと放り出される。


「ぎゃはははははは! ちょっとハジけすぎちまったぜ! 悪いな美織、ここでバイバイだぜぇぇぇ!」


「うえっ!? あんた、ちょっと、それはあまりにもひどすぎないっ!?」


 空中を舞いながら道化師は脇に抱えていた美織を離すと、その機体を足場にしてさらに空高くへと舞い上がり、城のテラスへと見事に降り立った。

 反面、代わりに足蹴にされた美織は体勢を整えようと努力も空しく、水しぶきをあげて湖に落下する。


 戦いは完全に道化師のペース。あの美織がここまで成すすべなく手玉にされていた。

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